王女、出会う
凱旋式の日は朝早くから叩き起こされて、お付きの女の人たちに囲まれて磨き上げられた。何かの油を塗り込まれ、刺繍で飾られた綺麗な服を被せられて上から重たいアクセサリーを巻かれる。黄金と宝玉のたぶん高価なものなのだろうが、現代の基準でいうとどうしても造形が野暮ったい。ジュエリーのカットや加工技術の進歩をしみじみ実感する。私が気の迷いで買ったピンクゴールドの安いアクセとか持ってきたら、この世界ではどんな値がつくんだろうか。
布と花で飾られた馬車に積まれると、数日過ごした宿営地はものすごい勢いで撤収されていった。整列している兵隊さんたちもなんだかピカピカだ。言われた通り大人しく座っていると、やがて馬車は動き出した。
大歓声が響く中、初めての帝都を進む。通りの両側は五階建てのビルくらいの建物が並んでいて、色とりどりの布が下げられている。窓から身を乗り出した人たちが投げる花やリボンが、よく晴れた空に映えて綺麗だ。手でも振ったほうがいいのかな、と思ったが、とにかく大人しくしていろという忠告を守って様子だけ窺う。
やがて行列はテレビで見たような巨大な円形闘技場に入っていった。数万人はいるだろうか、満場の観衆が挙げる歓声が肌までびりびりと震わせる。圧倒的な富と人口。よくまあこんな国と戦争しようと思ったもんだ。
ぐるりと競技場内を周り、貴賓席っぽいところの前に馬車は進んでいく。その中央、ひときわ目立つ人物が目に入った瞬間、思わず声を上げそうになって口を押さえた。
陽光を受けて輝く淡い茶色の髪。整った氷のような美貌と、鋭い深緑の視線。『星赤』の敵キャラ、悪の皇帝アレウス!主人公と直接対峙することこそ無いが、デザイン的にも兄弟設定的にも対比関係にある帝国の皇帝は人気があった。ビジュアルで言うなら主人公側より好みだし、権謀術数に優れて陰で糸を引いている策士というのもいやらしくて良い。この人が死ぬまで、主人公サイドは完全に頭を押さえられっぱなしだったんだよなあ。株を下げずに退場した敵キャラって魅力的だよねえ。
そんな風に浸っていたら、どおおっと大歓声が響いた。ビクッとして辺りを見回すと、入場門から白馬に引かれた馬車が入ってくるところだった。颯爽と手綱を握る人物に、また目が釘付けになる。
暴帝ガレアス…!鬼神のような強さで王国を蹂躙した、帝国の武の象徴。容赦なく国王を殺した敵なのに、妙な爽やかさで血腥さを感じさせないキャラ立てはさすがベテラン作者。この人も死んじゃうんだよねー、しかも信じていた味方に裏切られるという。キャラ人気投票では不動の一位。敵の方が読者人気出るあるある。その人が目の前で動いているのはなんというか、神キャストで舞台化!って感じだ。某歌劇団の舞台もいい塩梅だったけど、これもステキ…。
見惚れていると、ガレアスは貴賓席前のステージで──私の目の前で、遠征について滔々と語り出した。めっちゃ良い声…!解釈一致すぎる。長い手足を効果的に使う話術は、もう舞台俳優顔負けだ。あれだけ騒いでいた観衆が、声ひとつ挙げずに聞き入っている。いや分かるよ、聞き惚れるよこれは。
「帝国に勝利をもたらした神々に感謝を!」
ガレアスが声を張り上げ、呼応するように観衆から万歳の叫びが上がる。思わず拍手していたことに気付いて、慌てて手をお膝に。大人しく、大人しく。
貴賓席に上がっていくガレアスと入れ替わるように、女の子が一人ステージに降りてきた。服装からして巫女?背丈はファトマとあまり変わらないようだが、ずいぶん大人びて見える。片手に持った木の枝をすっと差し出すと、ステージ袖で音楽が奏でられ始める。それに合わせて、女の子は舞い始めた。
金を含んだように輝く髪が、緑の葉が、純白の衣装が、意思を持つかの如くにゆらめく。萌え出た新芽を思わせる緑の瞳が、薄く色付く唇が、神々への畏敬と賛辞をまっすぐに伝えてくる。私は、一瞬で彼女の作り出す世界に呑まれていた。
神々を象る偶像。森羅万象の何よりも私を惹きつけてやまない存在が、目の前にあった。
長くなりましたが、次回で王女編最後の予定です。もう少々お付き合いください。




