6、三年後
はい、六話にして早々物語が飛びます。
唐突だが、あれから三年がたった。ん?なんで飛ばしたって?………そうしないと物語が進まないから、らしい。詳しいことは後書きにある。多分。
「ちょっと!そこで黄昏れてないで少しは手伝って!ネズ!」
魔女、もといフルネーム『フィネア・マナスティア』が重そうな木箱を抱えながら俺の名を呼ぶ。
そう、俺の名は『ネズ』となった。なぜなら、前世の俺の名前『中月 音加』はなんか違うし、だからといっていい名前が浮かぶかといえば答えは確実にノー。なので、フィネアがあだ名として俺にネズという名前を付け、それがいつのまにか定着した。今では俺もこの名前が気に入っている。
「おいこら、ネズ!マジで少しは手伝え!また『アレ』するよ!」
「あ、ごめんなさいやりますやります!だから『アレ』はやめて!」
いつまでも動こうとしない俺に本気で怒ったらしいフィネアは俺を脅してきた。フィネアが言っている『アレ』とは、耳と尻尾のくすぐり地獄である。異世界系の作品によく見られる、『獣人は耳と尻尾が弱い』という特徴に俺も当てはまり、そこをくすぐられると普通よりも大きく反応してしまうのだ。
そのくすぐり地獄を回避すべく、迅速かつ丁寧にフィネアから木箱をかっさらう。
「ほいで、どこに運ぶ?」
「相変わらずこういうときは早いんだから………。あっちの倉庫に置いてくれる?」
「りょーかい。」
おそらくいろんな薬品が入っているであろう木箱を両手で抱えながら、決して大きいとは言えない倉庫へ向かう。ちなみに、この地下には部屋が四つしかなく、俺が最初にいたケージのある研究室と薬品を打たれた実験室、今俺がいる倉庫、そして、地上から定期的に物資が送られてくる補給室だけだ。それらは全部一つの廊下で繋がっている。
その廊下で、フィネアがついてきていないのを確認しつつ、この地下に一つしかない出口へ全速で、物音一つ立てずに走る。こういうのはネズミだからか、割と簡単にできる。
やがて、地味に長い廊下の端へ辿り着き、出口であるドアをそろーりと開ける。実はこういうことを毎日している。まあ、俺がここにいるから結果は分かるだろうが。
しかし、今回はあの忌々しい魔法『警告音』は鳴らず、『絶対施錠』も発動しない。
………まるで、外に出てくださいと言わんばかりの杜撰さだな。今回のようなケースは初めてだが、これは罠の可能性が高い。だからといってそれを確かめる方法は俺にはない。結局、ドアは何事もなく開き、その先にある上への階段が見えた。
………ほんとにこれ大丈夫か?いや、逃げようとしている俺が言うのもおかしいけど。
俺は罠を警戒しながら階段を一段ずつゆっくり上がっていく。階段にある明かりはまばらで、結構薄暗い。
転ばないように壁に手をついきながら上ること三分。階段の踊り場に出た。
そこは何かある訳でもなく、罠はないだろうと安心してそこを通ってしまった。
俺が踊り場の半分くらいに来た瞬間に、上から縄が蛇のように巻きついてきた。
「ちょ、天井にあったんか!って、この縄どこに巻きついて………!?」
縄は俺の手足の他に胸や腰にも巻きついて、いわゆる亀甲縛りの格好になってしまった。
「くっ、この縄、魔法で強化されてやがる………!しかも、妙なところに食い込んでくるし………!」
俺は縄をごり押しで千切ろうと力を込めたが、縄はびくともしない。おそらく、フィネアが来るまで解けないだろう。
とりあえず、下手に動くと色んなところが擦れてしまって変な気分になるので、諦めて脱力する。すると、それを待っていたかのように、フィネアが上の階段から降りてきた。
「うわ、思ったより来るの早っ!?でもまあ、罠は回避できなかったみたいだね。」
「フィネアーこれを解けー、ついでに外に出せー。」
「ごめんねー、どっちも無理♪特に前者。」
「そこは後者じゃないのかよ!っていうか、この縄に強化魔法以外の魔法掛けたろ!」
俺は身をくねらせながらフィネアに抗議する。そして、俺が言ったように、この縄には強化以外の魔法がかけられている。なんで分かったかは、この縄を解こうとする度に変な気持ちになるからだ。
「あ、やっぱり気づく?実はその縄には『興奮』かけてるんだよね。性欲の方の。」
えっと?つまり………。
「発情させてんのかよ!?お前はエロ漫画の主人公か!」
俺のツッコミにフィネアはにっこりと微笑み、俺へと近づいてくる。
「お、おい?何する気だ?」
「大丈夫、大丈夫だから。天井のシミを数えているだけで終わるよ。」
「それ絶対大丈夫じゃないやつ!ってか、ここの天井は石造りだからシミすらないんだが!?」
俺の必死の抵抗も空しく、フィネアは俺を持ち上げた。俺の体ではなく、俺を縛っている縄を掴んで。ということは、当然、体のあちこちが擦れるわけで。
「や、やめっ、ぎみゃあああああああ!?」
「ふんふんふふーん♪」
俺の意識はフィネアの物凄く殴りたい笑顔で途切れた。