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え?ネズミってマジっすか?  作者: 慢ろなる旅人
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21、一人ぼっちの

今回はアカバナ様の独壇場です。

 我がその言葉を言ったのは、これで何回目であろうか。それくらい、我には契約者がいた。






 我が生まれたのは、今から数千年も前のことじゃ。そのときの世界は、あらゆる種族が世界の覇権を巡って争っていた。そんな中、ある村が戦火から身を守るために、式神として我を作り上げたのじゃ。


 式神は、そう易々と作れるものではない。その村の中で一番腕のいい陰陽師が、我を作った後、術の反動で、その陰陽師が従えていた弱い式神もろとも死んだ。我を強力に作りすぎたのじゃ。


 もちろん、陰陽師は我を野放しにするはずがない。我は、残った陰陽師達にある契約を結ばされた。契約内容は、一つ、依代は傷つけない。一つ、契約者の命令には絶対に従う。一つ、いかなる時も村を守る。の三つだ。二つ目、三つ目は分かるが、一つ目のは当時の我には理解できんかったのじゃが、今では分かる。これは、我が生まれたばかりで手加減が分からない時に、術の反動で依代が壊れんように我に警告したものだったのじゃ。


 契約後、我は生贄として差し出された『白痴大狐アルビノ・フォックス』を依代として、現世に目覚めた。それから、我は代々『巫女』と呼ばれる女子おなごに契約通り仕えてきた。しかし、それも数代までじゃった。当然じゃ、依代である狐の寿命はそう長くない。むしろ、ここまで持ったのが奇跡じゃ。


 依代が壊れてからというもの、我は『巫女』の体の一部を依代にするようになった。それは、右耳や左目、長い髪や鼻など、さまざまなところに憑いた。一番多かったのが、子宮じゃ。『巫女』は我を連れて戦うため、男が寄り付かず、生涯孤独になるのが多かったからじゃな。


 しかし、あるときのことじゃ。村の外からある一人の男がやってきた。その男は我のことを知ると、『巫女』が我に縛られ、恋愛できないのは間違っていると言い出し、我を殺しにきた。村の外の者にとっては、我という存在は受け入れがたいものだったのじゃな。


 当然、人に支配されていても我は神。そう易々と殺されるわけがなく、簡単に返り討ちにしてやったわ。じゃが、『巫女』は男にたぶらかされて、我の依代であった左腕を切り捨てて村から出ていった。


 それから、村の住人達は手の平を返すように我への態度が急変した。端的に言えば、我を疎むようになったのだ。外の常識を知ったからであろうな。そして、住民は一人、また一人と、村を出ていった。最後に残ったのは、我の依代である狐の石像と陰陽師達だけであった。


 その陰陽師達も元が高齢だったせいで、すぐに人数が減っていった。そして、最後の陰陽師であるヒサカばあさんが死ぬ間際、村の外から一人の女子がやってきた。名をホウライ カグヤというその女子は、ヒサカばあさんが力を振り絞って術で呼んだ、ばあさんのたった一人の娘らしい。


 ヒサカばあさんはカグヤの術で無理矢理延命し、我とカグヤを契約で結んだ。ばあさんは満足したような笑みを浮かべた後、動かなくなりおった。カグヤは、泣かなかった。


 そこから、我とカグヤの二人だけの生活が始まった。カグヤは、天真爛漫な娘であった。扱い方を間違えれば一瞬で反逆する式神である我に無警戒で近づき、さまざまなことを教えてくれた。言葉や植物、動物、魔物など、本当に色んなものを我に見せ、その反応を楽しんでいた。村には、今まで大勢の敵兵が来て、そのたびに我と『巫女』が追い返していたが、我とカグヤしかいないのが分かったのか、ほとんど村を無視していった。


 カグヤは本当に我を良くしてくれた。カグヤは元々異形児で、子宮が潰れて依代にできず、代わりに憑いた右耳が聞こえなくなろうとも、その恨みを口出すことは一切せず、恨んでいるかどうか分からないほどであった。しかも、『戦ノ狐神』という名しかなかった我に、『アカバナ』という俗名をつけてくれた。



 誰も邪魔しない、変わり映えのない、二人だけの楽しい生活は、ある日突然、終わりを告げたのじゃ。


 ある日の夕方、我は依代にしていたカグヤの右耳で、あの咆哮を聞いた。大地を直接揺るがす轟音で、明らかに激怒している声だった。


 カグヤと我は咆哮のした方向に向かって進み、あの絶望を目にしたのじゃ。


 混乱し、恐慌状態に陥った『ヒノボリ』の町のその先、人族が支配する大陸から、国を丸々一つ背負った巨大な熊が海を渡って、こちらへ向かってきていた。その速度は微々たるものだが、大きさゆえに、一歩ごとに地鳴りのような揺れが響いた。


 カグヤは、混乱し、逃げ惑う人々の姿を見ると、すぐに何かを決心し、我を連れて村へ戻った。我は、『ヒノボリ』を見捨て、ここでの生活を続けるものだと思っていたが、現実はそうはいかなかった。


「待っててね」


 カグヤはそう言うと、我の依代である右耳を躊躇なく切り落とし、流れる血を止めもしないで結界を張った。防腐用の結界であった。そのとき、我は初めてカグヤが何をしようとしているか分かった。


 我はすぐにカグヤを止めようとするが、あと一歩、足りなかった。我は、回復術を唱えながらあの熊の元へ走っていくカグヤを見ていることしかできなかった。正直に言って、カグヤはそれほど強くなかった。あの熊の気を引くことさえできないほど力が弱く、狩りなどはもっぱら我がやっていた。それほど無力なのに、なぜ高火力の我を連れていかなかったのか、理解できなかった。なぜ、我を一人にしたのかも。


 やがて、熊が村のある森までやってきた。幸い、我の依代の耳は踏まれずに済み、熊はそのまま西へ進んでいった。そのとき、熊の顔付近で『シュトルーラ魔導王国』の兵が使い魔の大鳥に乗り、熊にちょっかいを出して西へ誘導しているかのように見えた。


 誘導場所がどこか分からないが、ドッッッガアアアァァン!!という、今まで以上の轟音と地震が起きたゆえ、熊に何かの罠を発動させることには成功したらしい。じゃが、その後に続いた、ッッガアアアァァン!!という、何かが大地に突き刺さる音で、熊を苛立たせた者達の末路は容易に察せた。


 その二つの轟音の後、一転して世界は静かになった。長年続いていた戦争も止まり、毎日森の外から響いてきた戦乱の音も消えた。


 それから、我はカグヤの帰りを待ち続けた。右耳にかけられた結界が未だ解けていないということは、まだカグヤが生きていると思っていたからじゃ。


 何十年も、何百年も、何千年も待ち続けた。 雨が降り、雷が散って、雪に埋もれようとも、我は狐の石像の前に置かれた耳の側で、カグヤを待ち続けた。


 そして、ある日気づいたのだ。耳にかけられた術は、永年持続型だとな。永年持続型とは、周りの魔力を吸収して永遠に持続する術の型のことじゃ。我は、そう気づいた瞬間、走り出していた。


 カグヤはもう死んでいるであろう。じゃが、カグヤの墓は一度くらいは見ておきたいと。


 無論、そう簡単にことが運ぶわけがなく、我は村を出た辺りで見えない壁にぶつかった。依代じゃ。我は依代からそう遠く離れられん。しかも、我は依代には触れられんかった。つまり、誰か依代となってくれる者を探さなければならなかった。じゃが、ここは森のど真ん中の、家が一軒だけかろうじて残っている村の残骸じゃ。ここに村があることはそう知られていないじゃろうし、そもそも知っていたところでわざわざここまで来ないじゃろう。


 次に、我は契約術を持っている魔物を探した。契約は、人でなくとも契約術で引き継ぐことのできる者なら誰でもいいのじゃ。じゃが、魔物は大半が知性の低い者ばかりで、契約という概念すらなかった。


 そんなときじゃった。村を村たらしめていた最後の家が倒壊すると同時に、かなり近くで熊の咆哮を聞いたのじゃ。カグヤを殺したあの熊より随分と可愛らしい声じゃったが、我はその熊のことがなぜか気になった。幸い、ここから熊のところまで、そこまで離れておらん。我の行動範囲内じゃった。


 声の主である熊は、ほとんど炭化しておった。じゃが、狩人のプライドが許さないのか、その体に炎をつけたまま、白く幼い獣人らに突進していった。


 熊には申し訳なかったが、契約術を持っている可能性のある白い獣人を殺させるわけにはいかず、我は咄嗟に熊を『喰った』。我の『喰い』は今は亡き陰陽師達から『カミカクシ』と言われておった。『喰い』は、『喰った』者をある異空間へ飛ばし、そこで生気を吸うという一種の術じゃ。


 我が熊を遠距離から『喰った』からなのか、白い獣人と黒い猫又は困惑していた。我はその者達に近づいた。黒猫は我の転移した音を聞き取れてなかったが、白い獣人はちゃんと拾ったらしく、我から逃げようとしていた。


 もちろん、我が逃すはずがない。白い獣人の目の前に転移してやった。白い獣人は思考停止していたが、黒猫の方は我の姿さえも見ることができないらしく、不作法にも我に近づいてきよった。その黒猫の毛が、カグヤのあの艶やかな黒髪を独占しているようで、我は少し腹立ち、衝動的に『喰って』しまった。我にもまだまだ幼稚なところがあった。


 その後、白い獣人が我と契約を結び、黒猫を吐き出してやった。我が白い獣人と結んだ契約は、『白い獣人を主とする代わりに、主の体を依代とする』というものじゃった。なので、我は白い獣人の精神を破壊すべく、『乗っ取り』や『魂喰い』を発動させたのじゃが、獣人には一切効かなかった。また、あの『捕食』さえも。


 そこで、我がとうに腐ったと思っていたカグヤの耳がまだあることに気づいた。そして、我は未だ生きていた古き契約に乗っ取り、獣人を主とした。


 偶然なのか、カグヤと同じ『剛魂者』を持つネズを。

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