18、助け
今回も短いです………
「ひっ………………いや………!」
必死にかき集め、一歩踏み出すことに成功したなけなしの『勇気』は、『捕食者』のたった一鳴きによって簡単に消え去った。あとに残ったのは、ただの臆病な『小心者』だけ。
「グルルルゥ………」
またしても、熊は笑う。どうやら、この熊は嗜虐性が高いようだ。しかし、それでも空腹に耐えられなかったのか、ゆっくりと、着実に近づいてきた。
「い………や………!」
ネズはなんとかして足を動かそうと、両手で太ももをバシバシと叩くが、それがいけなかったのか、熊が明らかにイラついた声を上げた。熊は挑発と受け取ってしまったらしい。
「グルルルアアアァァ!!」
「ひえっ!?」
熊の咆哮が、ネズの髪を揺らす。すでに、熊はネズの目と鼻の先にいた。
「グルルルゥ………………グルルアアアァァ!!」
「あっ………!」
熊が右腕を振り上げたのがトドメだったのか、健気に体を支えていた足が崩れ、ネズはへたり込んでしまった。当然、狩人である熊がそれを見逃すはずがない。
「グルオアアアァァ!!」
刃物のように鋭い熊の爪が、ネズに振り下ろされていく。ネズはもう呆然としており、目を瞑ることすら忘れ、ただ運命が迫り来るのを見ているしかできなかった。
しかし、その運命を良しとしない者がいた。
「私のネズに………何しようとしてんのよ!!」
ネズの後方から響く声と共に、ネズの体を引き裂こうとしていた熊の右腕に、いくつもの花火のような爆炎が突き刺さった。さらに、立て続けに熊の顔には閃光走る雷撃が激突した。
「グルアアアアアアァァ!!?」
しかし、手榴弾以上の威力がありそうな爆炎も、人一人くらい簡単に殺せそうな雷撃も、熊の体表を焦がすだけで終わった。熊は突然の奇襲に驚き、少し怯みつつも、襲撃者に対して余裕の表情を見せた。
(ああもう!今が夕方だからって油断してた!しかも、よりにもよって『闇黒大熊』なんて!Sランクファーストの私じゃ絶対勝てないじゃない!)
熊に奇襲を掛けた襲撃者フィネアは、小さな体を利用して木の後ろに隠れながらも、また奇襲のチャンスを探す。だが、フィネアではどう足掻いても、熊に勝てるわけがなかった。
この世界では、強さをランクで示す習慣があり、下から順に、D、C、B、A、Sの五つのランクがある。その中でも、Sランクにはさらに三つの段階があり、それが、Sランクファースト、セカンド、サードである。ファーストとセカンド、セカンドとサードの間には埋め切れないほどの差があり、ファーストがセカンド、セカンドがサードに勝つには、最低でも五人かつ全員が万全の状態でなければならない。
つまり、Sランクファーストであるフィネアは、セカンドである大熊に絶対に勝てないのである。それでも、まだ狼や狐だったらやりようはあったのだが、相手はあの『熊』だ。狙った獲物は必ず逃がさない。
(他の『勇者』達を呼ぶ………?いや、ダメだ。今は私もネズも追われてる身。上の言いなりになってる奴らが熊を倒しても、絶対ネズを連れ帰ろうとするはず。でも、私じゃ熊を倒せないし………!)
時折、魔法で熊を牽制し、ネズに気が向かないようにしつつも、フィネアは必死に考える。しかし、考えれば考えるほど、頭に出てくるのは、『不可能』の一言。ネズを連れて逃げても、相手は熊なので、永遠に追ってくるだろう。かといって、ネズとフィネアの力を合わせようとしても、ネズは魔法のど素人。しかも、今は『小心者』の影響で気絶してるらしく、熊の足元で倒れている。どうやら熊に魔法が当たったとき、もう恐怖を処理できなかったらしい。
(もう!なんて不幸なの!?)