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2: 近くて遠い女の子

「青春…僕と?」

 ゴクリ、僕は驚いた。特に今まで接点のなかった彼女からそのようなことを言われたのもそうだが、なにより人間、驚くと本当に固唾を呑むのだということに驚いた。


「なに今の音。とりあえずえんせいはいえんには気をつけな?」

 三度目の驚きだ。仮にも女子から「一緒に青春しよう」などと言われ、恋愛に免疫のない僕がまんまと浮ついているというのに…あろうことか武本アキラはカルテを突きつけたのだ。


「はは…気をつけます。えっと…じゃあ、お近づきの印に連絡先でも…」

楽人がくとくん、そんなにがっついちゃ女は逃げるよ」

 最初にがっついてきたのはあなたの方ではないか! 青春のチャンスであろう?

「…な〜んてね。いいよ。連絡先交換しよ?」


 彼女との距離感がなかなか掴めないが、久々に同級生と連絡先を交換した。最後に交換したのは1年前…クラスのムードメーカー的な生徒からグループに招待されたときだった。ただ一言「よろしく」と打ち込んだきり、一度も姿を出さないまま進級してしまった。


「もしも〜し」

 僕の手元で震えるスマホ。通話料がもったいないので無視した。

「アンタ知らないの? このアプリだと通話料無料なんだよ?」

 彼女は赤いバツ印を押すと呆れたような表情を見せた。その眉毛の、なんと可動域の広いことか。

「やり直し。…もしも〜し」

 コール中にもしもししても意味がないのでは…まぁいい。彼女のことだから、目標を達成するまで終わらせる気はないのだろう。


「やっと出た〜 楽人いま何してんの?」

「楽人はあなたの目の前にいます」

「何それ逆メリーさん? ウケる。じゃあね〜」


 通話時間はちょうどテンセコンド。立って話す僕と彼女。この無駄話の間にもグラウンドからは別の青春が聞こえてくる。地面を蹴って駆け出す様子も、想像できる。


「部活…」

「ん? どしたの?」

 しまった…思わず口に出してしまった。

「いや、なんでもないです」

「なんでもないってセリフが出るのはなんでもない証拠。だからアタシは根掘り葉掘りするわ…覚悟しなさい!」


 まだ会話を始めて30分も経っていないのだが、僕は嫌でも分かってしまう。武本アキラという女は、追撃のすべてを心得ているのだ。

「いやいいです、答えます。僕は部活というのは無駄なものだと思ってるんですが、同時に憧れでもある…」

「ちょい待ち。アンタなんで部活のこと『無駄』だと思ってんの?」


 ここにきて説教か? …いや、この人のことだからそれはないだろうけど。


「えっと…部活をしたら自分の時間が減るから…」

「自分の時間って何?」

 僕は察した。これはいわゆる無理ゲーだ。あやふやな理由があるとき、シンプルな質問ほど僕を苦しませる。


「…武本さんも部活してませんよね。それはなんでですか?」

「簡単な話よ。自分の時間が減るから」

「自分の時間ってなんですか?」

「マイチューブ観たりぃ…あとツイツイターとインスタントも。忙しいのよ」


 オージーザス。クリスチャンでもなんでもないこの僕に、ジーザスの名を叫ばせた。マイチューブ? ツイツイター? インスタントを省けばほとんど僕の生き写しじゃないか!


「ビックリしました…僕も家に帰ったらそんな感じです」

「そうなんだ。アタシたち気が合うわね」

「へへ…そうかもしれませんね」

犬飼いぬかいさんとも気が合いそうね」

「はぁ…? そう…なんですかね」

「あと猿渡さわたりくんと雉野きじのさんとも…」


 何ゆえ彼女は桃太郎一派(いっぱ)を再現しようとしているのだ…というかなんの話をしていたっけか。

「つうわけで…今回は特別に察してあげるけど、アンタ部活してみたいんでしょ?」

「…まぁ、なんとなくですが、はい」

 歯切れの悪い答えは嫌いなようで、彼女は露骨にムッとした。


「…おっし! そんじゃさっきの3人とアタシら2人でぇ…5人組の部活でも作ってみますか!」

「ふぇ?」


 間抜けな声が出てしまった。さっきの家来と僕たちで部活を作るだと? 本気で言っているのか?

「アンタねぇ…アタシが察してあげるのはさっきのが最後なのよ? 言いたいことがあるんならはっきり言いなさい? 食らいつけ!」

 また出た。さっきから事あるごとに食らいつけ食らいつけって…


「えっと…いきなり知らない人たちを集めて部活を作るなんて納得がいきません」

「大丈夫よ、アタシだって友達は少ないもの。おんなじクラスなのは犬飼さんだけよ。猿渡くんと雉野さんにいたっては顔もうろ覚えだし!」


 つくづく彼女には呆れるやら感心するやら…記憶の片隅にあるだけの人々を連想ゲームのように話題に出した。それだけじゃない。その人たちを巻き込んで部活を立ち上げるだと?


「僕は犬飼さんのことすらよく知りません。そもそもなんの部活を作るつもりなんですか?」

「よくぞ聞いてくれました! その名も…」

 …なんだ? その名も、と言ったきりそっぽを向いたぞ。気になるんだが。


「青春研究会…ですっ!!」


 変なポージング…ポリ公に見つかった逃亡犯のごとき振り向きざまじゃないか。

「青春研究会…具体的にどんな活動を?」

「そんなことは3人を集めてから決めればいいのよ!」

 なんて行き当たりばったりなんだ。…僕はそう思ったが、青春というコンセプトを改めて考えてハッとした。


「気づいたわね。それなりの目標ができたらひたすら体当たり。やるだけやってみて、ダメだったらひと休み…それこそが青春なのよ!」


 彼女は机を叩いて格言を放った。その声は教室中に響き渡る。


「そう…ですね。確かにそうだ。試してみることが大事ですもんね」

「そう! それに部活って部員が2人いたら成立するらしいし、最悪1人も集まらなくてもアタシら2人で青春じゃん? 仲間を集めようとしたこと自体が青春の1ページになる。悪くないでしょ?」


 なんだか悔しさすらも感じるほどに、彼女の主張は理にかなっていると思ってしまった。何よりも…彼女のいうところの「青春」をふんだんに盛り込んだような笑顔がとにかく眩しかった。…いや、これはおそらく西日のせいだろう。そうだと思いたい。


「…僕、青春研究会やってみたいです」

「そうこなくっちゃね! …そんじゃ早速、スカウトしに行きますか!」


 …今から? たぶん今からなんだろうな。ズカズカと廊下に向かっているもの。カバンを肩にかけて、なんとも雄々しいお姿だ…ではなくて!


「楽人くん! 善は急げってやつよ! 青春がすぐそこで待ち構えてるんだから!」

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