藥
18歳の少年は、毎日、自殺することを考えた。受験、イジメ、将来……色々なことが重なってしまったようである。自分に明るい未来はないと、確信していた。学校から帰ってきて、少年は自分の部屋に入った。彼の勉強机の上には2粒のクスリがある。それは、彼が学校の友達から貰ったものだった。
「まじ、これ、効くからさ。ちょー気持ちいいぜ。ストレス溜まってんだろ、お前も。」
他クラスでいじめの標的になっていた、所謂いじめられ友達から紹介されたクスリ。
『薬物は、1回やるだけで、死ぬこともあるんだよ。』
学校は、今の僕に役立つ知識を教えてくれていたんだな、と思った。どうせ生きていても地獄。なら、それなら……。クスリを1粒、口の中に葬った。
16歳の少女は、人と会話することが苦手だった。そのため、なかなか友達ができなかった。親は仕事がいそがしく、いつも1人で夕飯を食べた。家でも、学校でも1人だった少女は、ある日、告白された。隣のクラスの男子からだった。自分を必要としてくれている人がいたのだと感動し、彼に愛を求めた。その翌日、彼女は、別の男子からも告白された。彼女は、その男子からも愛を求めた。誰かから愛を求められることこそ、正義だと思った。彼女は、とても美しくなった。多くの愛に触れることで、他の女子がもっていない、儚さと、エロティックな魅力を身につけた。多くの男は彼女を求めた。彼女は今、愛に溢れている。
15歳の少年は、毎日に怯えて暮らしていた。生きることが怖かった。人が怖くて、学校へ行けなくなった。いじめられていたわけでも、ネグレクトされていたわけでもない。ただ、人が、毎日平気で演技をして暮らしているこの世というものが、恐ろしくなったのだ。毎日、ゲームの世界に生きた。ここでは無いどこかへ行きたかった。ゲーム対戦が終わり、現実に戻ってくる。
『親に申し訳ない。』
この感情がどこからとなく現れてきて、とてつもない罪悪感に見舞われる。
『この先どうしよう。』
発狂しかけるほどの恐怖に襲われる。そして、すぐに考えるのをやめる。
「ゲ、ゲームしよう。もう、現実になんか居たくない。」
そして彼は再びゲームを始める。現実から逃れるために。
14歳の少女の夢は、医者になることだった。それは、彼女の意思ではなく、生まれた時から決まっていた、運命のようなものだった。友達とは表面上の付き合いを続けてきた。遊びに誘われない程度の、だけど、移動教室は一緒に行くような、そんな付き合い。
「勉強さえしていればいいのだ。そうすれば親は私を好きでいてくれる。」
苦しいという感情も、愛されたいという欲求も、すべてどこかに置いてきた。すべては勉強のため。
そんな彼女に、「心」を与えたのは本だった。いつものように図書室で勉強していた時、ある本が目の中に飛び込んできた。それは、人気の本だったらしく、仰々しく本棚に飾られていた。彼女はその本から目が離せなかった。勉強以外、何にも興味を示さなかった彼女が、(いや、興味があっても示せなかったのかもしれない。)初めて自分から興味のある方へ歩いていった。一歩一歩が長く感じた。その本は、少しホコリを被っていて、キラキラと輝いて見えた。本を開く時の緊張感。ページをめくる時のワクワク感。すべてが新鮮だった。彼女はその物語に没頭した。今まで見たことのないような美しい世界が、そこには広がっていた。それから彼女は、本を読むことが大好きになった。親からの反対を押し切って、文学部へと進学し、作家となって、今に至る。