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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: 大熊 なこ

 18歳の少年は、毎日、自殺することを考えた。受験、イジメ、将来……色々なことが重なってしまったようである。自分に明るい未来はないと、確信していた。学校から帰ってきて、少年は自分の部屋に入った。彼の勉強机の上には2粒のクスリがある。それは、彼が学校の友達から貰ったものだった。

「まじ、これ、効くからさ。ちょー気持ちいいぜ。ストレス溜まってんだろ、お前も。」

 他クラスでいじめの標的になっていた、所謂いじめられ友達から紹介されたクスリ。

『薬物は、1回やるだけで、死ぬこともあるんだよ。』

 学校は、今の僕に役立つ知識を教えてくれていたんだな、と思った。どうせ生きていても地獄。なら、それなら……。クスリを1粒、口の中に葬った。


 16歳の少女は、人と会話することが苦手だった。そのため、なかなか友達ができなかった。親は仕事がいそがしく、いつも1人で夕飯を食べた。家でも、学校でも1人だった少女は、ある日、告白された。隣のクラスの男子からだった。自分を必要としてくれている人がいたのだと感動し、彼に愛を求めた。その翌日、彼女は、別の男子からも告白された。彼女は、その男子からも愛を求めた。誰かから愛を求められることこそ、正義だと思った。彼女は、とても美しくなった。多くの愛に触れることで、他の女子がもっていない、儚さと、エロティックな魅力を身につけた。多くの男は彼女を求めた。彼女は今、愛に溢れている。


 15歳の少年は、毎日に怯えて暮らしていた。生きることが怖かった。人が怖くて、学校へ行けなくなった。いじめられていたわけでも、ネグレクトされていたわけでもない。ただ、人が、毎日平気で演技をして暮らしているこの世というものが、恐ろしくなったのだ。毎日、ゲームの世界に生きた。ここでは無いどこかへ行きたかった。ゲーム対戦が終わり、現実に戻ってくる。

『親に申し訳ない。』

 この感情がどこからとなく現れてきて、とてつもない罪悪感に見舞われる。

『この先どうしよう。』

 発狂しかけるほどの恐怖に襲われる。そして、すぐに考えるのをやめる。

「ゲ、ゲームしよう。もう、現実になんか居たくない。」

 そして彼は再びゲームを始める。現実から逃れるために。


 14歳の少女の夢は、医者になることだった。それは、彼女の意思ではなく、生まれた時から決まっていた、運命のようなものだった。友達とは表面上の付き合いを続けてきた。遊びに誘われない程度の、だけど、移動教室は一緒に行くような、そんな付き合い。

「勉強さえしていればいいのだ。そうすれば親は私を好きでいてくれる。」

 苦しいという感情も、愛されたいという欲求も、すべてどこかに置いてきた。すべては勉強のため。

 そんな彼女に、「心」を与えたのは本だった。いつものように図書室で勉強していた時、ある本が目の中に飛び込んできた。それは、人気の本だったらしく、仰々しく本棚に飾られていた。彼女はその本から目が離せなかった。勉強以外、何にも興味を示さなかった彼女が、(いや、興味があっても示せなかったのかもしれない。)初めて自分から興味のある方へ歩いていった。一歩一歩が長く感じた。その本は、少しホコリを被っていて、キラキラと輝いて見えた。本を開く時の緊張感。ページをめくる時のワクワク感。すべてが新鮮だった。彼女はその物語に没頭した。今まで見たことのないような美しい世界が、そこには広がっていた。それから彼女は、本を読むことが大好きになった。親からの反対を押し切って、文学部へと進学し、作家となって、今に至る。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 四つの物語がそれぞれの薬を表現していて興味深かったです。 人によって何が薬となるのか、それぞれに違った人生と価値観があって、群像劇として完成度が高いように感じます。 先にレビューを読んだ…
[一言] 素晴らしいです。 うん 私のように行間を開けない分 作者様が焼き切れてしまわないかと 余計な心配をしてしまうくらいに…
[良い点] 歳を取って大人になると、本来心にあるはずの疑問や感性が薄れていきます。 当たり前に、惰性で、疑問も抱かず、凝り固まった心で生きていくのが当然になります。 この作品は、そんな大人が昔確かに…
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