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第8話 初任務



あまり、仲間というものに関心はない。


かつての仲間は死んだ。


冒険者になってからできたと思っていた仲間は偽物で、内心2度と仲間などできないのではないか?

一生独りで生きていくものなんじゃないのかと、そう思って一人で生きていく覚悟をした。


だけどようやく、仲間を知った。


「行ってくるよ」



「魔法無効化って……それが相当な代物であることくらい分かってますよ。ただ俺は、メンバーの3人が欠員状態で向かわせるのはまともじゃないと言いたい」


恭一郎によって切断されたギルドマスターの執務室は早急に工事が行われたことと、マスター権限をフルに使った権力の暴力によって工事を完了、今では破壊される前よりも綺麗に整っていた。


そしてそのリニューアルした執務室で複雑に絡み合った知恵の輪を解きながらリクライニングを揺らすアーブラハムの前に、長い黒髪に季節外れのマフラーを巻いた男がマスター室の机を強く叩いた。


「話を聞け! マスター、新人2人をダンジョンに放り込むのは無謀だと……」


「カリカリすんなよ。仮にもギルドのNo.2だろ、桜井隼斗」


「文脈を理解しろ恭一郎、俺は危険性の話をしているんだ。本来冒険者は5人で一つのパーティを組むことが推奨され、その人数は不足の事態に対応でき、なおかつダンジョン内での動きを阻害しないベストの人数を歴史が決めたんだ」


ギルドのNo.2である桜井隼斗は意味もなく室内にたむろしては、来客用のソファの上で転がっている恭一郎を見下ろすと彼を力ずくでも退かす勢いで殺気を放つ。


「二軍上がりの彼女はともかく、スキルだけを評価された彼は……」


「言っとくがそいつ、剛士に一杯食わせてやったらしい。そいやお前はあいつから白星取ったことあったっけか?」


したり顔で言い返す恭一郎に隼斗は認めきれないものを抱えたまま、真実を確かめるべくアーブラハムへと視線を向けると、


「無論事実だ。それと攻略の最先端に当てるつもりは毛頭ないよ、中層辺りで素材の回収さえやってくれればそれでいい」


両手からこぼれ落ちる金属の輪が音を立てて散らばっていくのを諸共せずに「それに」と付け加え、


「彼はこのくらいで潰れるとは思えないな。むしろ彼女のようなエリートのほうが消えるかもしれないね」



ギルドから通達のあった規定時間にダンジョン前へと到着したミナトは、これからダンジョンに潜るのだろう冒険者たちの群れを横切るように歩き、同じギルドメンバーを探そうと足を動かしていた。


早朝、ではないがまだ朝方のこの時間。

おおよそ会社員がこれから会社に出勤する頃の時間の今現在、複数の冒険者パーティが装備の点検だったりポーションの最終確認をしている様子を物珍しそうに見ながら、自身の胸あたりに付けられている剣を基準に獣のシルエットをあしらったよく分からないギルド証を探して視線を泳がせること少し、


準備を整えている冒険者パーティから少し離れた位置に同じギルドの冒険者だろう少女を発見した。


金髪の長い髪に腰に吊るされた1本の剣。

人体の動きを阻害しないように設計されたであろう軽装備をみるに、おそらく戦い方はミナトと同質のものだろう。


ただ一つ違うのが彼のものはダンジョンから直接取ってきた衣類であり、目の前の少女のそれはダンジョンから回収した特殊な鉱石で鍛造されたものであろことくらいだ。


だが装備の一つ取ってみても随分と手の込んだもので、胸当てひとつ売って通常の一式を揃えられるレベルの代物。


これには流石一流のギルドといわざるを得ない。


「随分遅かったようね」


無意識に相手の力量を測ってしまい、一定の距離から近づかなかったミナトだっだか、相手の方が彼を見るや近づいて、


「それであなた……どこの人? 私はファーストだけど」


出会い頭に珍妙なセリフを吐いた。


「えっ…………なんのこと」


ミナトの迫るように近づき、圧迫するかのような疑心の目を近づける少女は何を問われているのか分からないまま動揺しているミナトを見て、


「ウチのギルドにはランクがあって、強い順に三つ分けられて……」


「ああそれならこの前聞いた。恭一郎さんがいうには一番上のやつだよ」


ミナトがそれを口走った瞬間。

彼女の腕は残像と化し、


その腕は抜刀を済ませた剣を掴んでミナトの首元へと突きつけていた。


「リーダーは私がやる。私よりも弱いあなたに拒否権はない」


首元から静かに剣を話すと、赤くなってはいるが血は出ていない。

彼女に切断する気があれば、おそらくミナトの首と胴体は繋がっていなかっただろう。


この瞬間に命の危機に晒されたことか、はたまた別のことかは定かではないが、ミナトは首元を押さえ、呆れ返って剣を納刀する少女の背中を黙って見つめ、


「足手纏いでも助けてあげないから」


ダンジョンに入っていく彼女の後を追った。




前方に迫るは四足歩行の獣の集団。


オオカミのような毛並みと牙を持つヴァオウルフは強靭な牙を剥き出しにして、両刃の長剣を持つ金髪の少女、アナスタシアの喉元を狙って飛び掛かる。


だがアナスタシアはそれを予測して後ろ足で跳んだヴァオウルフを視認するや否、空いた口に横なぎに剣を古い、頭蓋ごと切断すると並ぶように飛んできていたヴァオウルフたちを一撃で仕留めてみせた。


「ふぅ……こんなものね」


剣に付着した血液を布で拭き取るってから納刀。


この流れるような動作と、それらを土壇場で実践してみせるほどの実力に内心ミナトは「俺いらないんじゃないのか?」とすら思っていた。


直前になってアナスタシアから「サポーターはおろか、残りのパーティメンバーすらいない」その情報を受けて任務を遂行できるのかどうか不安に駆られるもの、今の動きを見る限り心配はないのだろう。


むしろそうでなくてはギルドの管理不届きで罰せられてもおかしくはない。

おそらくギルド側としても大丈夫だと判断してから送り込んだのだと信じて、未だに出番のない自身の剣の柄に手を置いて先へと進むアナスタシアの後ろ姿を追った。


すると、


「次の敵は数が多い。半分は私が持つから残りは任せてもいいのよね? 腐ってもファーストなんでしょ」


ダンジョンの奥から歩いてきた二足歩行を可能にしたオオカミ、スラダウルフ6体が武器を構えてこちらの動きを窺っていた。


「分かった。すぐに終わらせる」


スラダウルフの代表的な特徴として二足歩行を可能にした、と言う点がある。

ただし人間と同じ直立二足歩行ではなく、猿などの類人猿に近いものだ。


そして自身では武器を作ることはできないが、冒険者の残した武器を持って振るくらいの知能はあるらしく、ミナトの目の前に立っているスラダウルフも血濡れたまま放置されたであろう錆かけのロングソードを片手に襲いかかってくる。


(群れで行動か……行動理念も本能もイヌのそれに近い。分断するなら無理やりやった方が早そうだ)


スラダウルフが地面を蹴った瞬間、彼らの目の前に漆黒の物体が横切り、壁に何かが突き刺さる金属音がすると、ようやく目の前に現れたものが投げられた剣と、その柄の部分に括り付けられた鎖であることを認識する。


だが獣がそれを視認し、理解するまでの一秒間。


既にミナトの両腕はスラダウルフの画面を捉えており、両者と鼻先から眼球までを鷲掴みにすると、三体目のウルフに向かって投げ飛ばし、まとめて吹き飛ばした彼らの腹部に飛び蹴りを放って強制的に分断を行った。


「……………………嘘でしょ」


ダンジョンの奥へと吹き飛ばされたスラダウルフを見送ってから鎖を掴んで剣を引き抜き、残った3体の獣たちへ、


『仲間を追ったら殺す』


と生物が本能的に察知できる殺意を放ち、ウルフ共を強制的に足止めさせる。


そうしと足がすくんで硬直したウルフたちを背に、後方で起きあがろうと地べたを這いずっているウルフへと冷徹な見下しをする。


「俺の初任務だ。できれば綺麗に死んでくれ」


その絶対王者の視線に、獣である彼らは飛びかかる。


見下されることにたいする獣としての侮辱行為。

そして何より、この男は絶対に逃してはくれない。


生き残るためには、こいつを殺してからではないといけない。


「グルゥウウウガアアアアアア!」


3匹の同時攻撃。


地面にはビビが入り、相当な力で踏み込んだのだと分かる攻撃に対して、ミナトはあろうことが「なんでもないように、武器すらも抜かずに」一歩前に出た


その行動には獣も想定外だったのか、本来の攻撃予測地点をズラされた事で自身の爪が仲間に当たる。

即座に攻撃を中断し、体勢を崩しながら地面に着地するとミナトへ視線を合わせようとして、


視界が宙を舞った。


「どうしようか迷ったんだ。少しずつ削って殺しても、一撃で殺しても、素材になる部分が多いから傷つけたくない。だから……お前の傷口は首だけだ」


3匹の頭部が同時に宙を舞い、地面にべチャリと落ちる光景にミナトは一瞥もくれずにアナスタシアの下へと走り出した。


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