第3話 捨てられた武具を求めて
正面に構えるゴブリンの群れをを視界に収め、前衛に棍棒とナタのような刃物を掲げる彼らに神経を注いだままダンジョンの地面を強く蹴り出し、魔力によって強化された肉体をさらに加速させて斬りかかる。
奥に杖のような木の棒を持って魔法を展開するゴブリンを認識したミナトは手に持っていた剣を逆手に構え直すと、半身と片腕を魔導士ゴブリンに向けたまま通常のゴブリンの首を切り落とす。
そして詠唱を完成させ、迫り来る敵であるミナトへと火や水の球を飛ばすゴブリンに、
「魔術式強制解除!」
片手を向けてスキル発動を唱える。
すると直線上の軌道でミナトへと迫っていたはずの魔法は存在を保てなくなり消失。
魔法の消滅を確認した瞬間。
自身の発動させた魔法がなんらかの形で不発に終わったことに戸惑いを覚えるゴブリンに対して、消滅と同時に前方姿勢へと切り替えていたミナトはゴブリンの胴体を真っ二つに切り裂いた。
「仕事完了」
胴体と共に切り裂かれたゴブリンの耳を空中でキャッチ。
そして剣を横薙ぎに振るって血飛沫をダンジョンの壁に飛ばすと布で油を拭き取ってから鞘へと戻した。
■
「魔法の対策をしなくていいってのは随分と楽になるんだな」
ダンジョンモンスターが根城にしていた建物の中で探索に使う道具の手入れを行いながら、本来魔法攻撃に対して冒険者が使用する属性耐性防具を外してカバンの中に突っ込んだ。
属性耐性武具とは氷の寒さを軽減したり、炎の熱をある程度通りにくくする装備。
通常の冒険者は魔法に対する対策として避けるか完全な防御を行わなくてはならず、万が一に食らった場合に備えてダメージを軽減できるように防具の上から羽織るのが一般的である。
だが通常の装備の上からコートのように羽織るとなれば動きを阻害するのは当たり前。
しかも適した耐性武具でなければダメージがそのまま通るか、倍になって降り注ぐため、対策と称して多くの武具を持ち歩かなければならない。
そして忘れてはならないのが『あくまで軽減であってゼロにするわけではない』ということだ。
(この能力は魔法を完全に破壊できる。剣や盾で防ぐのと違って魔法を根本から無かったことにするスキルだ)
どれだけ耐性を積もうがダメージをゼロにすることはできない。
だがこのスキルなら相手の攻撃が魔法であるのなら何の隔たりもなく無に帰す。
「そろそろか」
既に刃こぼれで無残な事になっている剣を鞘に仕舞い、鞘を片手で掴んだままカバンを引っ提げて立ち上がる。
そして人間に気づいて近寄ってきたモンスターへと足を向けた。
■
大量の血飛沫がダンジョンの壁にこびりついている中、完全に破壊された刃折れの剣を手にしたミナトは新たに見つけた宝箱の前に剣を投げ捨てた。
そしてその横で宝箱に手を当てると、内部の鍵が破壊されるような音を鳴らして開かれる。
この世界で武器を手に入れる手段は3つ存在する。
一つはダンジョンの外にある武器を生産する者から直接購入する事。
実際に冒険者協会でも販売しており、ギルドに所属しているものならギルドお抱えの武器職人が安く提供している。
二つめはダンジョン内のモンスターから直接奪うこと。
ゴブリンが持っている棍棒を奪い取るなり、モンスターを殺して使用していた武器を奪う。
これをダンジョンが生み出したモンスターからのドロップと称しており、より深い階層になると剣を持ったモンスターが現れてそれを殺すことでモンスターの使っていた剣を獲得することができるらしい。
そして一番人気のない三つめ、宝箱からの獲得だ。
宝箱を開けることで中に隠されていた武器を獲得することが可能だが、宝箱はどこにでもある性質上、対して貴重なものは入っていないことが多い。
しかも宝箱の内部アイテムのほぼ半数を占めているのが大量生産が確立されている体力回復薬。
残りの半分はその辺の店で買えるような鉄の剣。
そのため初期の頃は追い求められていた宝箱だが、今や構っているだけ無駄なものとして、ここ十数年は誰の興味も引かないガラクタ扱いされていた。
「見つけ出しても運び出す疲労とピッキングの費用を考える割に合わない……か、そうだな、多少頭のいい冒険者ならそれに気づいて無視するのが賢い選択だろう」
ただでさえモンスターの蔓延るダンジョン内だ。
無駄な手荷物を持って帰還する余裕などあるはずもなく、大した成果も得られない宝箱は持ち帰られる事なく捨てられてしまう。
だがそれは『宝箱を外で開けなければならない者に限っての話だ』
「俺以外の全てにとっては……な」
何十、百を優に超える年月の間、捨てられ続けてきたガラクタを一斉解放。
誰もが意味のないものとして見捨て、いつしか見向きもされなかった宝箱であろうとも、優秀な武器が出ないわけではない。
ただその確率がモンスターのドロップよりも低いだけで、千分の一の確率の向こう側に存在する武具の数々はモンスターのドロップなどゴミのように破壊できる圧倒的な性能をしていることを誰も知らなかっただけ。
解錠された宝箱から黒塗りの西洋風な装飾のつけられた片刃の打刀を取り出し、共に入っていた鞘へと仕舞うと腰に吊るす。
そして今まで使用していた協会に売っていた一般的な冒険者のコートを脱ぎ捨て、漆黒のロングコートを掴むと回すように羽織った。
「ありがとう。今の今まで見捨ててくれて、これから先は俺が使うよ」
ロングコートを羽織り、地面に散らばっている宝箱からブーツを、衣服を、籠手を、圧倒的な性能を誇る装備の数々を揃えていると、背後から唸り声が響き渡り、
ゴブリンの上位種、血濡れた棍棒を手にしたオークが立ち塞がっていた。
「ちょうどいい、性能を試してみたかったところだ」
黒塗りの刀剣を引き抜くと、棍棒を持って襲い掛かるオークへと視線を向ける。
そして宝箱から得た高性能なブーツによって引き上げられた身体能力によってダンジョンの床を破壊、地面はひび割れ、壁にまで傷が到達するほどの衝撃と共に前に飛び出したミナトは一撃のもとにオークを葬り去った。
「少しは強くなれたか」
剣を戻す金属音が鳴り響くと、ミナトの背後にいるオークの首がズレるように地面に落ちる。
そして去っていくミナトの背後で大量の血を撒き散らして絶命するオークの姿があった。
(今の力でどこまでやれるかは分からない。多少武器が強くなって魔法を破壊できるようになったところで根本的なところは何も変わっちゃいない)
ダンジョンを歩きながら、転移門の前にたどり着いたミナトは自身の剣を手を触れながら追放を言い渡された時のことを思い出して、門を操作する。
(けれど試してみたいとも思う)
そして転移するのはダンジョン第10層。
那岐ミナトが追放される理由となった第10層のボス戦である。
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