第21話 落ちぶれ
「クソッ! 俺のことを馬鹿にしやがって!」
一人、また一人と去って行くパーティメンバーの身勝手さに腹を立て、ミナトを追放した三流冒険者の真也は腹いせに所属ギルドの廊下に置かれていた消化器を蹴り飛ばした。
すると彼自慢の身体強化によって鉄でできているはずの消化器に足を形取ったような凹みが刻まれ、静かに転がっていくそれを見向きもせずに荒い足取りで歩いていた。
(なんで俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ)
思うようにいかなくなってきたダンジョン攻略に、ギルドの方から事実上のクビを言い渡された彼が苛立つのも無理はないが、その原因自体が本人にある以上同情の余地はない。
ギルド側としても一度契約してしまった手前すぐに切ることもできず、かと言って報酬を払うほどの実績を出さない彼に対して報酬を完全歩合制にすると言った「フリーの冒険者に対する待遇」と同等にせざるを得なかった。
所属冒険者には任務の報酬にギルド側の利益を一部還元される仕組みが存在するが、それらを取っ払った完全な任務の出来高で金額を支払うように通達を上、しかも彼の実力からして任務など送られてくるはずもなく、
そうなってしまえば彼の存在はギルドに所属しているだけで、やっていることはフリーの冒険者と同じ。
しかもギルドから白い目で見られることを考慮すればそこらにいる通常の冒険者よりも待遇は悪いのだ。
「何でこうなった、俺の計画は完璧だったはずだ」
冒険者としてレアなスキルを発現してから鳴り物入りで入った冒険者。
通常の戦闘スキルである身体強化よりも稀有な、剣に直接バフがかかる能力を手にした彼は訓練学校時代からもてはやされ、今や一般職に就いた同期からは天才とまで称賛を浴びていた。
彼のようなレアなスキルを発現するものは数少なく、あるだけで普通の冒険者とは格が違うとまで称され、かく言う彼も特別な存在として冒険者の仲間入りをしたはずだった。
スキルの名を明かせば右も左も分からない新米冒険者の美少女たちは引っかかり、命欲しさや金欲しさに集まってくる頭の悪い女を見抜けないまま女を侍らせた気でいた真也だったが、
ミナトを追放してから全てが変わった。
彼自体は認識していないが、側からみれば確実にそれがターニングポイントとなっているのは明白だ。
今まで攻略中に出会うモンスターの数が倍に増え、戦闘が思うようにいかなくなる。
その理由自体は「ミナトに勝てないと生存本能で勘づいた賢いモンスターが勝負を仕掛けてこなかった」ことが大まかなもので、弱いからこそ生き残る本能が優れているため彼らは無謀な戦いを避けた結果、戦いを仕掛けなかった。
だがミナトと言う蚊取り線香のような、虫除けスプレーを取っ払ってしまえばその必要はない。
狡猾に逃げ回っていたはずのモンスターたちは一斉に襲い掛かり、彼の実力では8層など到達できるはずもないのにミナトがいた時期の前例があるからこそ無謀な戦いを強いる。
当初は新たなアタッカーを仕入れて上手く行っていたが、モンスターの数やレベルが上がっていく中で「付き合いきれない」と言って別の男に縋っていく仲間たち。
所詮は金に目が眩んで寄ってきた人間。
金にならなければすぐに消え失せる。
今まで勝てていたことが奇跡だと気づかないまま、モンスターに敗北して。
自身の実力を分からないままギルドに入っては、聞いていた実力と違ったことで任務を果たせずに白い目で見られる。
そして終いにはギルド側からの戦力外通告。
既にあの時の名誉は存在しない。
ミナトを追放した時にあった女どもはもういない。
惨めなまま、身の丈に合わない現実を受け入れられないまま赤子のように駄々をこねる彼が行き着いた先は、
「全部あいつが裏で手を引いてたんだろ。じゃなきゃ俺がこんな目に遭うはずがない!」
勝手に切り捨てた仲間だったものへの逆恨みだった。
■
人間は現実を直視できなくなった時、仮想敵を作り上げて自己逃避するという話があるが、こう言ったものは今の真也にこそふさわしい。
自身の実力勘違いしたまま、他人を馬鹿にし続けてきたくせに自身が卑下されるとなれば怒り狂う。
その意地汚い執着心と、変わることを知らないドス黒いクズだけは賞賛に値する。
そしてダンジョンに行けば確実に任務にやってきたミナトを始末できると、自身が落ちぶれるように裏で手を引いたのであろう宿敵を殺そうと剣を抜く真也だったが、
「おっと、躾がなってないな。殺気も消さずに後ろから殺そうだなんて、どんだけ馬鹿なんだよ」
「そう言ってやるな、恭一郎。彼にも事情があるんだろ」
横から飛んできた拳が真也の頭部を正確に穿ち、コンクリートの壁へと身体をめり込ませた。
「なんだっ……お前っ!」
自身を殴りつけた巨漢の二人を睨みつけ、ゴミを見るかのように見下ろしている彼らに剣を抜いて斬りかかるが、
「先輩だよ。あいつの」
その剣は正面から受け止められると同時に、片手で粉砕された。
「なっ……………………」
高い金を払って買ったはずのロングソードを容易く片手で粉砕される光景に目を疑う真也だが、地面に散らばる鉄の塊は嘘をつかない。
この男によって自身の剣は破壊された。
それを知るや抑えの効かない怒り任せに拳を振るうが、それすらも受け止められると掴んだ腕に力を込められてへし折られた。
「まさかこの俺に拳で挑むとはな」
「なんだよお前ら……なんでこんなことすんだよ!」
折られた腕を抑えながら怒鳴りつける真也だが、剛士と恭一郎は黙りこくったまま見下すが、
「俺がお前に何したってんだよ!」
その言葉を耳にした瞬間、真也の首を掴んで持ち上げる。
「お前、俺の後輩に手ェ出そうとしたろ」
必死にもがこうとする真也だが、片腕はへし折れて力は入らず、使える片腕ですらも指一本引き離すことは叶わない。
「あいつはお前を許しちゃいねぇが何かするつもりも無い。まぁそれがあいつなりの優しさってもんなんだろうが、俺たちはそこまで気が長くねぇんだよ」
「何を……いって」
「たとえお前がアイツを斬っても何もしない。かつて仲間だったよしみで罪を問うことはない。だがそれじゃぁ俺たちの気は晴れねぇ」
力のこもる腕に意識を失いそうになる真也だったが、最後まで聞き入れてもらう必要があったために地面に叩き落とす。
「俺たちの仲間に手を出すな。出したらそんときゃぶっ殺す」
お前が捨てたんだろ、だったらいいじゃねぇか。
今までの人生で一度たりとも感じたことのない凝集された殺気を植え付けられた真也はおそらくもう戦線復帰はできない。
他人を蹴落とすまでは良かったものの、そのあとに自分を見ることをしなかった。
そして自身の責任を他人に擦りつけてお門違いな逆恨みをしたのが彼の敗因だった。
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