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第2話 最強に向かって



「お話って何だい?」


都心の中心に聳え立つ五十階建ての高層ビルにて、巨大な窓ガラスが張り巡らされた異様な部屋の中で一人の青年は液晶タブレットを机の上に放り出し、入り口に立っている少女へと目を向けた。


「少し気になる人が居ましたので、その報告を」


少女の格好は側から見ればこの高層ビルに似つかわしくないカジュアルなものだが、部屋の隅や待機している黒スーツの男たちが口を挟まない、ところを見るに彼女だけが特別な存在だと知らしめている。


「そうか……君が言うならきっとそれは素晴らしい人材だろう。ぜひ兄貴にも教えて欲しいよ」


わざとらしく、大根役者のモノマネかと思うほど心のこもっていない言葉を吐く青年は座っている高級な椅子をユラユラ回して退屈凌ぎに少女へと次の言葉を喋らせる。


「その人物…………彼は魔法を消します」


場の空気が一瞬にして変化した。

今までの堅苦しくはあったが、どこか気の緩んでいた雰囲気が少女の言葉一つで引き締まる。


そして今の今までどうでも良いとばかりに話半分で聞いていた青年は両目を見開いて、


「はははっ…………そんなのがあったら歴史が変わるぞ」



(俺の仮説が正しければ、このスキルは魔法自体を消滅させられる)


先程酒場で起こった事件を通して自身のスキルの可能性に気づいたミナトは、すぐさまこの仮説が正しいのか、それともただの偶然が重なってできた奇跡だったのか。


その真偽を確かめるべくダンジョンへと駆けていった。


既に時刻はダンジョン探索を終え、モンスター素材の換金やドロップアイテムの吟味するために鑑定屋や防具屋へと向かう人でごった返しており、その冒険者たちを押しのけてダンジョンの入り口へと転がり込んだ。


そして魔法を使うモンスター、リッチのいる第二階層へと転移を選択。


転移門から出る光に包まれて目を閉じる。

すると次に目を開けるとダンジョンの第二階層、初心者が初めて魔法を使うモンスターと出会うことになる、いわゆるチュートリアルとされている場所へと足を踏み入れた。


だが一桁階層の、しかも前半というだけあって全く人気がなかった。

そのため剣を片手にある程度徘徊しても同業者出会うことはなく、スキルの確認をするにはむしろちょうどいいとリッチの生息する薄暗い場所へと突っ込んでいく。


地面を強く蹴り、身をかがめるようにして抜刀の構えを取る。

そして正面に3人いるリッチのうち奥の一人に狙いを定めると、ソイツの頭蓋に剣を突き立てるようにして跳躍。


対するリッチは高速で迫り来るミナトの殺気に気付き、なんとか振り向こうとするが、それよりも先に彼の剣が頭蓋を粉砕。

突き刺さった頭骨に対して深く押し込むように力を込め、力尽くで脊髄までもを貫通させることで一瞬にして一人始末。


目の前で殺された仲間の敵討ちなのか、それとも次のターゲットが自分になると察したのかは定かではない。

ただ始末されて魔力を失ったリッチの骨を踏みつけるミナトへ、両者ともに同時の速度で手に持っていた杖を突き立て、超至近距離での魔法を発動。


杖の先に指向性を持たせた炎の球が放出されるが、それを身体を捻って回避。

そして回避に使った回転エネルギーを一切殺す事なくリッチを蹴り飛ばし、もう一人は回避の時点で首を切り落としていた。


「これで一対一だ」


複数人を相手にする場合、魔法の発動先が絞れず、スキル発動の有無に関わらず失敗して直撃を受ける可能性があった。

そのため無理やりでも一対一の戦いを作り上げなければならなく、こうでなければ背後からの攻撃に怯えてスキルの確認どころではなくなってしまう。


「来いよ。お前の得意な魔法攻撃」


スキルが発動しなかった場合、もしくは発動しても魔法を消滅させる効果でなかった場合への対処として片手でできる防御の構えをとる。

これで準備は整った、後は、


「撃って見せろ。お前の魔法を」


杖の先端に火の玉『ファイアーボール』を展開したリッチに向かって剣と片手を同時に出す。


スキル発動の感覚を研ぎ澄まさせろ。

何十、何百と何千と繰り返した鍵を開け続けたあの感覚。

あの惨めな思いをし続けてなお冒険者にしがみついた自身への手向けとして、このスキルの真価を得て那岐ミナトはさらに先へと進む。


(俺は戦うためのスキルを得られなかった。だから直接的な戦闘力を求めたパーティーメンバーに見放されるのも仕方のない事かもしれない)


正面に迫るファイアーボールに剣を持っている方の腕が下がる。


(だけど、それを俺が認めてしまうのは絶対にダメだ)


迫り来る炎の玉に対してミナトは剣を下ろし、完全にスキルでの迎撃を選んだ。


(信じろ、俺を! 今まで踏ん張ってきた俺を、諦めなかった俺を、最後の最後までこの可能性を捨てきれなかった俺を信じろ。スキルは人の限界を決めるものなんかじゃない、このスキルは──己を超えるためにある)


そして魔法はミナトへと到達する前に消滅した。


「もう何も恐れるな」


魔法が消された事への動揺を隠しきれず、後手に回ったリッチへと剣を構えて走り出す。

なんとか体制を整えて連続で魔法を放ってくるリッチだったが、その攻撃はもう効かない。


大量に射出される炎の球を自身に到達するはずだった分のみを消滅させ、リッチを剣の間合い入れる。


「駆け抜けろ、最強のその先へ」


剣を振るい、刀身についた骨のカケラを振り払うと静かに納刀。

背後に立ち昇るモンスターの死を意味する魔力の煙が上がるのを見向きもしないまま転移門へと向かっていった。


面白いや続きが気になると思った方は是非ブックマークや評価をよろしくお願いします。

やる気や更新速度に直接関わってきますので、応援してきただけると幸いです

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