第10話 旧型の最強
「この前気になることがあって調べてみたんよ。それでなかなか面白いことが発覚したってことを自慢しにきた」
金髪の青年、アラン=ロビンソンは午後のティータイムを邪魔しにきたクソ野郎こと恭一郎を前に「とっとと消え失せろクソ野郎」と内心思いながら、
「とっとと消え失せろクソ野郎」
「ここ公共の場だろ。ギルドじゃねぇからあんまり汚い言葉を使うな」
ド正論で返されては言葉に詰まる。
一応この場が冒険者とはなんの関わりもないただのカフェで、時間帯的に人が少ないと言っても人間はいる。
誰かに聞かれている可能性がないわけでもなく、周りの迷惑を考えれば黙っとけと言うことだ。
こんな所で揚げ足を取られるとは思ってもおらず、不機嫌になりながら店員の持ってきたパンケーキに備え付けのシロップを垂らしながら、めんどくさいが話を聞いてやろうとメニュー表を差し出した。
「俺の持ってきたネタは新人のミナト。あいつクソ強ぇのになんで今まで陽の目を浴びなかったのか? いくらパーティがクソでも個人が強かったら話題にもなる、ましてやスキル以前に近接戦闘能力が高いアイツが今までまるっきりの無名ってのが腑に落ちなかった」
「その点においては俺も同感だ。任務の感じを見るにありゃぁ元から強かったタイプだ。何かの拍子に一気に覚醒したって言うよりゃぁ蓄積された経験値にスキルが噛み合ったって感じだろ」
「だろうな。魔法無効化で強くなったというより『スキルのおかげでできる幅が広がった』って感じか? むしろ『スキルのおかげで本来の戦い方に戻った』って感じだ」
「そんでお前は何が言いてぇ。あれの強さの根源がどうってより、なんで今まで無名かを話にきたクチだろうが、めんどくせぇ寄り道すんな」
「それでな、あいつダンジョンに素手で潜ってたらしい」
「はぁあ! バカか? そんなふざけた話あるか!」
思わず立ち上がりテーブルを叩くアランだが、周りの視線のおかげですぐに我に帰って席に戻る。
「リーダーの意向でメンバーを女で統一したかったらしいが、協会の組んだパーティを即刻解雇すると問題アリって書かれる可能性があって長い間放置していた。あのリーダーはどうあれミナトを捨てる気だった」
「…………ハブったってわけか。馬鹿馬鹿しい」
「戦闘に参加させればアイツが全部持っていく。だから戦闘を封じて支援に回らせ、まともな武器すら渡さずにひたすらスキルを引き合いに出して荷物持ちを強要した」
「ガキのイジメかよ」
武器のない冒険者など紐なしでバンジージャンプをするようなものだ。
モンスターに対して対抗手段である武器を持たせない、すなわち何もできずに殺されるを体現したようなものだが、現に彼は生き残っている。
つまりは素手でモンスターを殺す術を持っていたのだ。
彼は初めから、初めてパーティを組んでダンジョンに潜った時に素手でモンスターを殺し、メンバーの誰の力を得ずにモンスターから武器を奪っては狩り尽くす狩人だった。
だからそれから牙を奪い、ひたすら支援に徹させることで自分の地位を確立する。
そしていずれかはハーレムを、と考えていたらしいが、おそらく真也では10層をクリアすることはできない。
たとえ仲間を変えようとも、女で自分よりも弱いものを選んでいる彼には絶対に越えられない壁なのだ。
「とりあえず話はわかったが、そろそろ本題に入れ。まさかとは思うが後輩の自慢話しにきたわけじゃねぇだろ」
「後輩の自慢話はマジだが……もっとマジなのがミナトが姐御さんに接触した」
「……お前の前任の最強、マルティナ=シャンデルにか」
■
ギルド所属の冒険者にはギルド内施設を自由に使用できる権利が与えられ、設備の有無に関しては1軍も2軍も変わらない。
もとよりそのために冒険者がここぞって群がってくるというのに、逐一区別していれば人も寄り付かなくなるだろうということ。
それに設備自体は一度使えば無くなるものではないので下積みの冒険者でさえもギルドの食堂や訓練施設の使用は認められている。
そして先日加入したばかりのミナトにもギルド内の設備を使用する権利がこれでもがというほど与えられており、その辺の飲食店よりも安く良いものが食べられるというため、彼は率先してギルド内の食堂に入り浸ってきたが、
「あなた訓練室使ったことないの?」
昼飯時に当たり前のように向かい側に座ってきたアナスタシアは、日の浅いミナトの無知に先輩ズラしようとここぞとばかりに漬け込んできた。
「冒険者なんてダンジョン以外はあそこに篭ってると思ってたし、あなたもその類の人だと」
「存在は知ってたけど、使用許可とか、許可と名の付くものに嫌悪感が」
「あぁ……堅苦しいの嫌なのね」
訓練室の使用に関しても所属時に色々と話があったはずだが、あの長い話を真面目に聞いている人間はどれくらいいるものか。
自他共に割と真面目な部類に入るアナスタシアでさえも話の半分の記憶はない。
それほどまでにあの講習はクソなのだ。
「許可って言っても一度申請したら使いまわせて、やり方も事務に行ってギルド証見せればすぐに終わるわよ」
■
最高峰に位置するギルドというだけあって、訓練室の設備はそこらのギルドとは比べ物にならないほど充実しており、ペンチプレスに至ってはケタがバグってるものでさえも置かれている。
実際魔力によって身体能力を向上させれば持ち上げられないわけではないが、そもそもバカみたいな数字のものは必要ないのだ。
けれどこんなくだらないものでさえも置かれていること自体が、裏を返せば充実になるのだろう。
そう思って発行された許可証を片手に訓練室へと辿り着いたミナトだったが、
「あぁお前が最近入ったとか言う新入りか」
訓練室の入り口に陣取るように立ち尽くす女性のせいで入室が憚られる。
そして自身のことを知っているかのような口振りで何かを言うと、そのまま首を傾げてミナトの顔を覗き込む。
「お前いくつだ?」
ミナト自身は成人男性の平均身長を少し超えるほどの背丈だが、相手の女性はそのミナトよりも一回りくらいデカい。
あまり自分より大きい女性に出会う機会のない彼としても、いきなり話しかけられて顔を近づけられれば困るものだ。
何で返せば良いか分からないまま苦笑いで一歩引き、少しばかりの距離を取ってから、
「今は16です……もう少ししたら17でーー」
と、聞かれたから答えたが、それを聞いた相手はミナトの首根っこを掴んで持ち上げ、
「じゃあだめだ。ここは使わせられないな」
「はい……?」
捕まったネコのようになったまま、宙ぶらりんの体勢で脳みそを介さずに出た間抜け声を晒して呆けているミナトだが、彼を片手で持ち上げた彼女は察したのか口を開く。
「男は18からじゃないとマシンは使わせられないんだ。骨が発達しきっていなくて怪我に繋がるからな」
「そんなこと聞いてないけど……」
それにせっかく用意した許可証もゴミ箱行きになるだろう。
そう思いながら握っていた許可証に目をやっているミナトだったが、
「だから代わりに私が見てやろう。それとマシン以外にも許可証は使うから捨てなくていいぞ」
地面に降ろされたミナトは腕を組んで堂々と仁王立ちする彼女を前にして、このまま流されて良いのか、それとも断るべきか伝える間も無く彼の言葉はぶった斬られた。
「自己紹介が遅れたな! 私はマルティナ=シャンデル。新人のお前に取って大先輩に当たる者だ」
そして最強を目指すミナトにとって、絶対に越えなければならない存在である、
1世代前の最強だ。
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