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第一話 スキルの本当の使い方



「お前もう良いよ。はっきり言って邪魔なんだ」


突如として言い渡されたクビ宣告に那岐ミナトは動揺を隠しきれず、食いかかるように一歩前に出るが、間髪入れずに冒険者パーティのリーダーである勇人が次の口を開いた。


「戦闘スキルがないやつをパーティに置いといても足手纏いだって言ってんだよ」


その真実とも言える言葉にミナトは反論するものを用意できず、何も言えないまま今まで数ヶ月にわたってダンジョンを共に攻略してきた仲間達へと目を向けるが、


「まぁ、しょうがないんじゃない? ミナトのスキルってダンジョンの宝箱を開けるだけのヤツだし。その宝物もドロップアイテムよりも……ほら?」


誰一人として庇うなんて行動はしなかった。


確かにミナトのスキルは戦争系とは程遠い「鍵を開けられるスキル」だ。

だがそれでも、ダンジョン内の宝箱を開けたり、物資の補給や罠の確認などを行ってパーティメンバーに貢献してきた覚えはある。


けれど、


「ドロップアイテムの方が重要なのに今ならお前を置いておく場所はない。それにもう新しいメンバーを用意しているから、さっさと消えてくれ」


今までお疲れ様とばかりに肩に置かれる手の感触に絶望と言えるものを抱く。


冒険者登録をしてから協会の意向で集められた新人達でパーティを組んだため、初めから仲が良かったわけではない。

多少の衝突だってあったが、それでも、それを全て含めた上での仲間だと、そう思っていたのはミナト一人だった。


立ち尽くす彼の横を新しい仲間を迎え入れた元パーティメンバーが通り過ぎていき、ダンジョンの転移門へと消えていった。



「明日からどうしよ」


現時点の2026年から二百年ほど前、世界中にダンジョンと呼ばれる謎の建造物が出現した。


そしてダンジョン内にはモンスターと呼ばれる化物と、彼らを倒すことで素材やアイテム、ついでにダンジョン内に配置されている宝箱の中から得られる未知のテクノロジーを求めて探索をする人々を冒険者と呼んだ。


だがそれは当時の二百年前の話であって、現代では魔力の才能が特殊な形で発現し、スキルと呼ばれる異能力を発動させることのできる人間にのみ、冒険者になる資格が与えられる。


こうして社会基盤の一つに成り上がった冒険者家業に、スキルを持っていた那岐ミナトも例外なく冒険者を志したが、結果は無惨にパーティからの追放と言う形で落ち着いた。


スキルは冒険者がダンジョン内で戦うために使われるもので、大半のものが「攻撃力を上げる」などの強化系のスキルを得る中で「鍵を開けられます」では戦闘の役に立つことなどまずない。


ただそれでもパーティ内の雑用や宝箱を開けることで貢献してきたはずだが、下層になるにつれてドロップアイテムの方が重要視されるようになるとそうもいかない。


宝箱から出てくるのは市販のポーションと大差ない回復アイテム。

それに対してパーティメンバーの分配分を鑑みると、圧倒的にミナトを雇ってポーション手に入れるくらいならその辺で箱買いした方が安くつく。


ドロップアイテムに武器や防具の素材となる物が多くあるのに対して、宝箱はどこまで行っても補助アイテムなのだ。


そうなってくれば当然、クビを切られる。


「ソロ活動は現実的じゃないのに、パーティ募集はどこにも引っかからないのかよ」


削られたメンタルのまま訪れた居酒屋で、これからどうしようかと考えながらお冷を飲み続ける。



冒険者として食っていくにはソロ攻略がどうにかなる一層や二層では話にならない。

せめて1桁の後半に行ければギリギリなんとかなるだろうが、そこまでいくとパーティでない限り不可能。


冒険者協会のホームページにあるパーティ募集に申請を送っておいたが、今のところメールがくる気配はない。

しかもこのまま金が尽きてしまえば携帯電話すら使えなくなってパーティのお話すら来なくなる。


出来るだけ早くパーティを組んで冒険者として復帰しなければ明日の金にも困る現状ではいつ死ぬか分かったもんではない。


深いため息を吐きながら「これからどうすれば良いのだ」と、机に俯して軽い財布を軽く振ってみるが、音は全くしなかった。


「鍵開けなんて武器屋でピッキング商売やってんのにわざわざスキルにするかね。しかも分配よりも安く、その上出てくるアイテムを店で買った方が安いと。なんでこんなクソスキルつかまされたんだろ」


テレビから聞こえる大規模ギルドのダンジョン攻略情報に目をつぶり、嫌なものを見たくないと唸り声のようなものを上げながら、メニュー表にパンチしていると、


「なんだとテメェ、ぶっ殺してやる!」


「上等だやってやろやぁ!」


ミナトの座っていたカウンター席のすぐ横に巨漢の冒険者らしき男が吹き飛ばされて席を破壊した。


大丈夫かと覗き込もうとするが、修理代がバカにならないだろう無惨なカウンターを見るに耐えず、因縁をつけられても面倒なので見ていないフリをしようと逸らす。


この手の喧嘩は負けた方が金を払う。

なのでここまで行ってしまえば引くことはできない。

木の破片を薙ぎ倒して起き上がった巨漢は豪勢な声を張り上げて狭い店の中で殴りかかる。


両者ともに殴り合いに発展するまでは良かったものの、熱がこもりすぎた。


「殺してやる、ぶっ殺してやる!」


少ない語彙力で頑張っている彼らを観客として見ていたが、片方の魔力が動いた。


 『フレイムランス』


乱闘騒ぎに関してはいつものこと。

警察に通報すれば取り締まってもらえるが、彼らがその程度で止まるわけがないのでどこも目を瞑っているのが現状。

ただしそれは殴り合いの話であって魔法の使用は話が変わる。


冒険者と一般人の違いはスキルの有無。

そしてスキルは魔力の才能、つまるところ『魔法を使えるかどうかの違い』でもある。

魔法を使うことだけなら誰にでもできるが、魔法を攻撃転用するほどの魔力コントロールとなればスキル持ちの冒険者にしかできない。


故に魔法の才能が薄く、魔法攻撃に対して明確な防御ができない一般市民がいる以上、ダンジョン内や特別に許可された場所以外での魔法の使用は重罪。


頭に血が昇ってそんなことも分からなくなった冒険者だったが、相手はその魔法を放つ隙をついて顔面をぶん殴り意識を吹き飛ばした。


これで魔法は放たれない、そう思った瞬間。


術者を失った魔法が暴走を始め、四方八方へと無差別に襲いかかる。


ただ店の中にいる人間の殆どが冒険者、彼らなら自身で防御ができる。

ミナトをその例に溺れず魔法を防御しようと魔力を動かすが、彼の視界に店の扉から現れた新たな客の姿があった。


服装からしておそらく学生。

そして冒険者なら誰もが持っているダンジョン許可証をぶら下げていなかった。


ダンジョンに入ることが生業である以上、職員の目に見える場所に引っ提げておくのがセオリー。

そうでなければいちいち取り出して、などと手間がかかることから目に見える場所に付けておくことが暗黙の了解となっているそれをつけていない。


その大学生だろう少女は一般人、魔法による抵抗力がない。


瞬時に全てを理解すると防御に回していた魔力を身体強化に使用すると、一瞬にして入り口までたどり着くと少女を庇うような形で間に入る。


だが間に合わない、ほんの少し出遅れた。


(間に合え、間に合ってくれ!)


間に入ると飛翔する炎の槍に向かって片手を伸ばし、せめて少女だけは守り抜こうと覚悟を決めたとき、


不思議な感覚に襲われると同時に魔法が消滅した。


「っ………………!」


(今のはなんだ。何が起こった!)


ほとんどの者が自分に向けられるかもしれない魔法の対処に追われているその時。

つい先ほど確かにミナトは今目の前に迫っていたはずの魔法を、己の手で消滅させたという理解できない現象に自身の無傷のままである手のひらを見た、


(あの時の感覚は確かにスキルを使った時と同じだ)


宝箱を開ける時に使用するスキルの感覚。

鍵を開ける時のスキルと全く同じ。

否、鍵を開ける時以上に手応えがあった。


(あまり詳しくはないが、魔法は魔術式って言うプログラムのような物の集合体と聞いたことがある)


基本的に魔法は詠唱か魔道具によって放たれる魔力によって発動する奇跡の総称。

ただそれは『術式』に魔力を付与して発動した『根拠のある奇跡』であり、プログラムの塊とも言われている。

術式は「ここに魔法が存在する理由」で、魔力は『それを可能にするエネルギー』


それが現代魔法の見解だ。


「術式はプログラム。だから魔法が魔法として発生するプログラムに綻びが生じれば、その魔法は存在することができない…………?」


もしもその条件が本当なら、このスキルの真価は『鍵を開けること』ではない。


精密に絡まった魔法という名のプログラムに破綻させる、完全無敵のこの世界の根底を揺るがしかねない最恐のスキルと変貌する。


「まだ、いける」


絶望は終わりだ。

今ある希望を握りしめて、ミナトは自身のそこから湧き上がる何かを感じ取る。


「俺はまだ、強くなれる」


面白い、続きが気になると思った方は是非ブックマークや評価をお願いします。

やる気や更新に直結するので尻を叩く意味でも、していただけると幸いです。




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