第5話
部屋に入ると、左右の壁に本がびっしりと並べられた本棚が合計6つ並んでおり、奥の窓はカーテンが閉められているが、少し日が入り込んでいる。その部屋の真ん中に大きめの机とパイプ椅子が4つ置かれている。
入室前に聞こえた声の主は、4つのパイプ椅子のうちの1つに座りながら本を読んでいた。
「あ、神谷さん…何か御用でしょうか?」
こちらを見ながらそう言うと、立ち上がりこちら近づいてきた。
彼女の名前は『杉谷 花蓮』さん。このオカルト研究サークルの長だ。小柄で髪を腰まで伸ばしている。顔立ちも僕個人の感想としては悪くない。そしてなによりも…
「でけ……ッ!」
嶋野が失礼なことを言いそうだったので僕は肘で彼の脇腹を強め突いた。しかし、嶋野がそう言いたいのも分かる。
身長は150あるかどうかのサイズで、しかもこんな日が当たらない場所にいてどうして胸がここまで発達するのか。いや、関係ないか…
「サイテー…」
岩田さんがゴミを見るかのような目で嶋野を睨みつける。橋本も苦笑いを浮かべていた。
「あの、今朝うちの学生がこの付近で亡くなったニュース知ってますか?」
この何とも言えない空気を打開するため、僕は本題の話を振ることにした。
「亡くなったのは松本さんですよね。たしか警察はクマの仕業だとか言ってるみたいですね」
さすが、オカ研の長。常識のような物言いで言ってくる。
「僕たちあれがクマの仕業だと思えなくて…杉谷さん何か知らないですか?」
「知らないとは…?」
「あれがクマ以外の生物、例えばUMAの仕業とか」
すると杉谷さんは、小さくため息をついた。
「もしあれがUMAの仕業なら、私の目標はもう達成されてますね」
「目標…?」
岩田さんが少し気になったのか、そう呟いた。
「私の人生の目標は、この目でUMAを確かめることです。そもそもあらゆるサイトで掲載されてる動画や画像には不審な点が多すぎます。だいたい偶然カメラを向けたらいたとか、写真に写りこんだというのなら他にもそういった情報が出てくるはずなのにそれが一切ない。これは投稿した人が合成やCGを利用したとしか考えられません。それと人がいないジャングルに住み着いてるとか言ってのは…」
と杉谷さんが自分の世界に入り込んでしまった。
「え、これって私のせい?」
「大丈夫だ。僕も最初来た時にくらった」
「でも聞いてると結構面白いね」
橋本は頷きながら杉谷さんの話を聞いている。嶋野は本棚を物色しているが、彼が興味を持つ書物は見つからないだろう。
ここにある書物は、海外の学者が発表した論文や、UMA・宇宙・超能力といったジャンルのものばかりだ。彼が好きなアニメやスポーツに関するものは一切ない。
この異様な空間で僕たちは、杉谷さんが話し終わるのを待つしかなかった。