第2話
先生から松本さんの訃報があった後、教室中が少しザワついたものの、いつも通りの講義が行われた。
90分の講義が終わり、次の午後のコマまで時間がある。僕は食堂で、橋本から今朝のニュースについて詳しく聞くことにした。
食堂は、朝一番の講義が終わったばかりで、注文用の発券機が起動していなく、注文受け渡し口もシャッターが閉まっている。そのため周りに座っている人は誰もいない。
「松本さんが死んだってのは本当なのかよ?」
先週会った知人が亡くなった事実を、僕はまだ信じられないでいる。
「いや先生も言ってただろ?それにこんな嘘ついて何のメリットがあるんだよ」
まったくもってその通りだ。自分もなぜその事実が受け入れられないのか不思議で仕方ない。
「場所は大学の裏にある道路傍らしい」
「ああ、墓道か」
大学の裏には山がある。と言っても、幅10m程の川と2車線の道路を挟んだ向こうだ。
その道路には、山の傾斜を利用した墓地がある。そのことから僕はこの道路を『墓道』と呼んでいる。
「まぁ場所が近いのも驚きなんだが、なんでも松本さんの死体…下半身だけだったらしいんだ」
「下半身だけ!?なんだよその死に方…」
「だから警察はクマに襲われたんじゃないかっていう方向で捜査を進めてるらしいけど…」
ここで僕の中に疑問が生じた。
「熊って人間を食べるのか?」
「まぁそこを疑問に思うよな。でも熊が人間を食べることは稀にはあるよ」
さすが気になった事はすぐに調べる橋本。きっと今朝からそのニュースについて色々なサイトを巡りながら登校してきたのだろう。
いや、熊が人間を食べる事例については、元々知っていても橋本ならおかしくないな。
「ただ…少し気になるところがあるんだよね」
「今の話の中にか?特におかしいと思ったところはなかったが…」
熊が人間を食べることがあるんだったら、松本さんが熊に襲われ食べられたということで解決のはずだ。一体どこがおかしいというのか…
「分からないか?たしかに熊が人間を食べることはある。だがそれは人間をエサとみなした場合であって、人間のような大きいエサは自分の巣へ持って帰るはずなんだ。しかも、熊が好んで食べるのは筋肉部分だ。内臓の多い上半身を全て食して、筋肉が多い下半身には手をつけないだなんておかしいよ!」
(いや、熊が筋肉部分だけを食べるなんて知らねぇよ…)
と一瞬不満を思ったが、たしかに橋本の考えは筋が通っている。
「たしかに…じゃあ一体どうやって…」
「だからさ!少しこの件について調べてみないか?」
「ハア!?」
橋本は周りのものに影響されやすい。
アクション漫画を読めば筋トレをしだすし、洋画を観れば英語を勉強しだす。
どれも長続きはしないが、持ち前の頭の良さと性格でいつも一通りできるようにはなる。
今回は推理小説か何かに影響されたのだろう。
ただ、僕も知人の身に起きたことであり、この不可解な死についてとても興味が湧いているのは事実だ。
「しょうがない…付き合ってやるか」
「よし!それじゃあ何から始めようか…」
僕たちが今後の行動について話し合おうとしていると、橋本の背後に何者かが忍び寄る。