第1話
前を歩いている女子の集団がうるさい。追い越したくても歩道を封鎖するように歩いているため、僕は彼女らのペースに合わせるしかなかった。
(朝からよくそんなに騒げるな…)
そして、僕はいつもより5分遅れで大学に着いた。
その時、僕はある異変に気づく。
(警備員の数多くないか?)
普段は大学内で1〜2回すれ違う程度だが、今日はざっと見ただけでも施設の入り口全てに配備されている。入り口に近づくと急に年配の警備員に呼び止められ
「すみません、学生証を見せてください」
今までしてこなかった動作を求められ驚いたが、それと同時に、よくすれ違う年配の警備員の声を初めて聞いたことを思い出した。
「これでいいですか?」
もたつきながらも財布から学生証を取り出し見せた。
「『神谷 晃太朗』さんね…はいどうぞ」
当然ではあるが、許可が下りたことに内心ホッとした。僕はそのまま履修している講義の教室に向かった。
教室に着くと、入ってすぐ傍にある出席確認用紙に学籍番号と名前を記入し、いつも座っている席に座った。教卓から見て最奥の右端の席だ。
それから数分後、眼鏡をかけた長身の男が入ってきた。その男は僕を見るなり
「晃太朗!今日のニュース見たか!?」
と言いながら早歩きで向かってきた。『橋本 雅也』彼の名前だ。
橋本は高校からの友人で、高校では元々普通科として入学したが、2年生になると同時に特進科に上がるほど頭脳明晰だ。その後、県外の難関国公立大学を受けるが、本人曰く、惜しくも落ちてしまったらしい。
橋本は真面目でお人好しだ。僕もその性格が好きで長い付き合いになっている。
ただ、その真面目でお人好しな性格が報われたことがない。
「ニュース?そんなもん見てねぇよ」
今朝はテレビもつけずに朝食のパンを食べながら着替えてそのまま家を出た。
SNSも滅多に使うことのない今の時代では珍しい化石大学生だと僕自身でも自負している。
「この講義に出てる松本さんって知ってるか?」
たしか数回この講義のグループワークで一緒にプレゼン用の資料を作成していたのを覚えている。
見た目はチャラ男だが、僕のような陰キャにも調子を合わせてくれる良い人だ。
「知ってるよ。なんならグループ一緒だったし」
「ああ、そうか…その松本さんな…」
その時、なぜか僕はその後に続く橋本の言葉が分かってしまった。
「今朝…死体で発見されたんだ」