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プロローグ
男が息を切らしながら走っている。
「ハァ…ハァ…」
どうやら『何か』から逃げているようだ。しかし男も自分が何に追われているのか分かっていない。
ーいや、理解できなかったという方が正しいだろう。
「ハァ…な、なんでこんなことに…!なんで俺はあんな奴を!」
男はそう嘆きながら、辺りを警戒しつつ走りを歩みに変えた。やがて男は電柱が見えると、そこに隠れるように足を止めた。
「追って来ていないのか?まさか俺の見間違えか?」
全力で走ったせいか、まともに判断がつかない。男は一呼吸おくために上を向いた。
「あっ…」
その言葉を最後に男は声を発さなくなった。声を発するために必要な口と喉が、その『何か』の胃袋に収まってしまったからだ。そもそも胃袋という器官があるのかすら分からない。
そして電柱の街灯に照らされながら『何か』は男の死体を貪っている。
「キチチッ…」