幽霊になってみたw
「あんたは死んじゃったよ」
「え」
あまりの衝撃的な発言に一瞬思考停止した。
俺、海 定希は今、光と雲に包まれた世界にいる。
例えるなら、天国と言った方がいいのだろうか。
そして前には仙人のような老人がいる。
この老人が言ったように、本当に死んだのかもな。
あまり受け入れたくないが。
確かに言われてみれば、さっき海に溺れたような………うっ!
思い出そうとすると、何とも言えないような頭痛と不快感に襲われた。
体が思い出すのを拒否ってるようだ。
これ以上記憶を探るのは止そう。
「俺、本当に死んだんだな……」
そう思うと、急に悲しい感情が高ぶってきた。
「もっと人生楽しみたかったな。俺まだ十九歳だったのに。人生これからって時期だったのに。欲しいものも手に入ってない。楽しみにしてた仕事もできてない。親孝行もできてない。未練だらけだ」
気づいたら涙を一粒零していた。
「本当は次の世界に転生するんだが、あの世界に未練があるのか?」
「ああ」
「なら、あの世界で霊になってみればいいんじゃないかのう」
「霊?」
「さすがに蘇生はできないからな。霊になれば、あの世界に居続けることができる。どうする。あの世界に霊として残るか、それとも異世界に転生するか」
「………じゃあ、霊として、あの世界に残る」
「わかった」
仙人?は手を俺の方に向けると、急に世界が白く光り出して、光が治まると、気づけば元居た世界にいた。
宙に浮いている。
おお、自由に空を飛ぶことができるのか。
さすが霊。
夜の街並み、光が多い。
その光景に、妙に懐かしさを覚えていた。
感覚的にもまだ一日も経ってないんだけどな。
実際はどのくらいの時間が経過したんだろ。
ちょっと自分の家に向かってみるか。
俺は空を浮きながら、自分の家に向かった。
家にたどりつき、扉に手をかける。
開かない。
鍵も持ってないしな。
あ、そうだ。
俺、霊なんだし、すり抜けられるかもしれない。
試しに扉に手を当てようとすると、スーッとすり抜けた。
す、すげぇ……。
地面は普通に歩けることができるようだな。
幽霊ってのはよくわかんねえな。
謎だらけだ。
俺はリビングに向かった。
そこには母さんがソファに座ってテレビを見ていた。
俺は母さんとテレビの間に立ち、手を振った。
母さんに反応はない。
俺との目が合っていない。
ずっとテレビを見て笑っている。
どうやら本当に見えていないようだな。
ところで、床に横になってるこのジジイは誰だ?
勝手にひとんちに忍び込んで、不法侵入だぞ?
って、よく見たら俺と同じ霊か。
俺が霊なんだし、霊が見えるのは当たり前か。
俺は軽く手を上げ、よっ!とジジイに向かって言った。
母さんに触れようとすると、フッと体がすり抜けた。
やっぱり触れることができないか。
あ、そうだ。いいこと思いついた。
俺は何かを企む笑みを浮かべた。
ジジイがこっちを見て苦笑している。
俺はキョロキョロと周りを見渡し、持てそうなものを探した。
これにするか。
俺はテーブルに置いてある、お茶の入ったコップを手に持った。
そして上下に動かす。
母さんはそれを見て、唖然としていた。
驚きすぎて言葉もでないのかな。
するとジジイが、
「驚かしてやるなって。可哀そうだろ。それに、そんな怪奇現象的なことしてたら、悪霊がいると思われてお祓いさせられるぞ。成仏させられるぞ」
「え、マジ!?」
「マジだ」
「ま、マジか……そうだな。この辺にしとくか」
俺は手に持ってるコップを何事もなかったようにそっとテーブルに置いた。
母さんは正気に戻ったのか、急にハッと声をあげ、コップをまじまじと見つめた。
コップを持って全体を観察している。
思わず声をあげて笑ってしまった。
そうだ。次は友達ん家に行こう。
俺は外に出て、友達の家まで飛んで向かった。
二階建ての一軒家だ。
俺は窓からすり抜けて部屋に入った。
友達はパソコンと顔を合わせていた。
こいつは俺の友達、明間 悠吾。
いつも呑気に毎日を過ごしてる野郎だ。
で、こいつは今何をしてるんだ?下半身裸で。
俺は悠吾と顔を被らせて、パソコンを覗いた。
そして一瞬で理解した。
エロ動画見てるのか。
ずっと見てると、俺のレジェンドも元気になってきたぞ!
「いや~、楽しませてもらったよ。って、聞こえてねえか」
家に帰るか。
家に戻り、ソファの横になった。
それから少し時間が経つと、家の電話が鳴った。
母さんは受話器を手に取り、耳に当てた。
そして、
「え……」
母さんは崩れ落ちた。
「ほ、本当ですか?!定希が…定希が死んだって!」
ついに知れ渡ったか。
「……わかりました。後日また連絡をとります」
その声は悲しみに満ちていた。
受話器を置くと、母さんは手を顔に当て、泣き出した。
「母さん……」
母さんの泣いている姿を見ると、死んだという事実を痛感させられた。
そうだ。俺、死んだんだ。
俺、何呑気に遊んでんだ。
気づいたら目から涙を流していた。
「母さん……ごめん。死んでしまって」
何かを感じ取ったのか、母さんを後ろに振り返って、地面を見ていた。
「…………何?この水」
えっ。
……もしかして、見えてるのか?
「……………」
それから数日が経過し、葬儀が行われた。
なんか寂しいな。
喋れる知人はいない。
霊とかとは話すことができるが、知人じゃないしな。
霊たちはみんな優しいんだけど。
「……誰か話せる知人いないかな…」
少し考えると、ある人物の名前が、脳裏を過った。
秋葉 練。
こいつも同級生で、俺の友達だ。
こいつは霊感があるといつも言っていた。
俺はあまり信じてなかったが、俺が霊になることで、霊がいることも信じるようになったわけだし、霊が見える可能性は結構ありそうだ。
俺はすぐに練の家に向かった。
部屋に入ると、練は横になってラノベを読んでいた。
「また霊か。今度は誰だ?」
練は振り返ると、止まってしまった。
「定希、お前……死んだのか……?」
「え、な、なんでわかるんだ?」
「霊は体から独特のオーラを放ってるんだ。今の定希にはそのオーラが感じられる」
「……よかった」
「え」
「話せる人がいてよかったー!」
俺は練に思い切り抱き着いた。
「な、離せよ。気持ち悪い」
「いいから抱きしめさせてくれよ~」
「げっ!おい、お前の鼻水が服についたぞ!」
「霊なんだから別にいいだろ~」
「よくねえ!」
少し落ち着いてきた。
「で、お前はなんで死んだんだ?」
「それはわかんないな。思い出そうとすると、頭痛が痛くなるんだ」
「へぇ~、『頭痛が痛くなる』ねえ」
ん?こいつなんでニヤニヤしてんだ?
「なあ練」
「ん?なんだ?言いたいことがあるなら言ってみろ」
「ここに移住していいか?」
「は?」
やべ、変な空気になってしまった。
「お前、何言ってんだ?」
「俺は話し相手が欲しいんだよ」
「いるだろ。霊が」
「ああいるな。でも、何か物足りないんだ。お前は俺の話し相手になってほしいんだ」
「なるほどな。って、なるかー!」
「いいじゃねえかよ。減るもんじゃねえし。それに俺は霊なんだから存在感薄いし、いないのとほとんど変わらないだろ」
「いや変わるわー!」
「別にいいだろ。飯を食わせてもらうわけでもないし、邪魔にはならないだろ」
「………そうだな。ならいいよ」
「サンキュー。あ、これ美味そうだな」
俺は机に置かれていたお菓子を手に取って口に運んだ。
「うめえ。あ……」
「帰れー!」
こうして俺は、練の家に住むことになった。