エピローグ
晴天に伴って、第四工場跡全体を囲むように鋼人の大群が現れた。
トネヤマはそれを見ると、万歳して喜ぶ。
「ようやく来てくれたんですね! 我が社の兵士たち!」
「言われた通り、台風が去るまで待機しておきました。一〇〇〇を超える部隊です」
「さっきまでの十倍かよ」
大袈裟に言ったわけでないことは、実際に見てみれば分かった。
ジリツたちはまだ戦っている。一〇〇でもまだ倒しきれていないのに、その一〇倍となると。
さすがにトモも諦めが入りそうになる。
「さあ来いテメエら!」
「アユ!? オマエはもう限界じゃ」
「だからといって戦わなかったら、これまでのこと全部無意味になっちまうじゃねえか。ジリツ。オマエはどうだ? 嫌なら帰ってもいいぜ」
「どちらが多く倒せるか競い合おうぞ。我が宿命のライバル」
「よしきた」
「ふふふ。ブラックチップのテストだけじゃなくOWの御曹司に神人とやらまで手に入れられるとは。ではオマエたち、やれ!」
「はい!」
大群は兵器まで準備すると、攻め入ってきた。
アユたちは一歩も引かずに迎え撃とうとする。
「――」
「何だこれは!?」
バタン。バタン。バタン。バタン。
近接戦闘を仕掛けようと走ってきた鋼人が次々にバランスを崩して倒れていく。
兵器を使用したものたちも制御を失って同士討ちをしてしまう。
アユたちの元に辿り着く前に、大群は崩壊していった。
「まさかこれは……」
「……そう。〈虐殺〉でカンプチップ無効化エリアを形成した」
「デリィ!」
アボートから起きたデリィは、大群へ向けてブラックチップを作動していた。
わなわなと震えるトネヤマ。
「デリィ。貴様、裏切るつもりか!?」
「ボクは決めた! この三人でモトダに立ち向かうと!」
「また痛めつけられたいのか!?」
「うるさい! どんな卑劣な手を使ってくるのかは知らないが、ボクたちはどんな困難が訪れようとも退いてみせる!」
「デリィ……」
今度は脅されようとも、デリィは怯まなかった。
毅然としたまま、トネヤマへ言い放つ。
「おのれぇえええええ!」
トネヤマは笑顔のまま絶叫した。
アユはその姿に指をさす。
「そういえばアイツ、なんでずっと笑ったままなんだ? 気味が悪い」
「金属化現象で固まってるのさ」
「ああなるほど。じゃあずっと笑ったままなのか。あれだけイケメンでも怖いな」
「黙っていろ隻腕! ちくしょう! ちくしょう!」
「悔しがっているところ悪いがよいか?」
トネヤマに、ジリツが近づいてきた。
「なんです?」
「こちらも待機させておいた警察の部隊がある。おそらくあと数分でここに来るだろう。相当数の証拠がある。少なくとも貴様は一生この光が拝めないことは覚悟しろ」
「……」
ショックのあまり、トネヤマは何も言えなくなってしまった。
それまで黙視していた占いちゃんが口を開く。
「門番よ」
「はい。神人になった彼を捕らえますか?」
「いや。それはいい……」
信者の申し出を、占いちゃんは拒絶した。
彼女はアユを眺める。
大人たちの悪意によって弄ばれた悲惨な過去を持ち、今日までそれぞれの陣営の陰謀に翻弄され、超然とした資質に目覚めた。それでも現在、彼は笑顔で再び仲間になれたことを喜んでいた。
「……アタイはまた旅に出ようと思う。また世界を見て回ってくる」
「己からは何も言えません。貴方のお心のままに……ただ、いつの日かのご帰還をお待ちしています」
「神人への接し方や在り方について、まだまだ勉強するところがありそうだ」
車椅子を自分で運転し、第四工場跡から去っていった。信者も後を追うように、出ていった。
その後、実際に警察が来てトネヤマとモトダの部隊を逮捕した。
ジリツたちは証拠提出のため同行する。
第四工場跡にはアユとトモとデリィ。塵犬の三機だけが残された。
「さて、これからどうする?」
「デリィが戻ってきたし、とりあえず祝杯でも挙げにいくか」
「おお。いいな」
酒場に向かおうとするアユとトモ。
デリィは二機から離れたところから告げた。
「この惨状をこのままにしてか?」
戦いの結果、第四工場跡は見るも無残な姿で荒れていた。
いくらジャンク漁りの場所とはいえ、このままでは仕事ができない。
「誰か。他に誰かはいないのか?」
シーン。
呼びかけるが、反応はなかった。
「OWもモトダもGME教も、散々、荒らしやがったくせに誰も手伝いもしないのかよ!」
「まあ、頑張っていこう」
「三人で続けていれば、いつか終わるさ」
その言葉に、デリィは頷いた。
「……そうだね。この三人なら」
「よし分かった! じゃあすぐにでも片付けて、稼いでいくぞー!」
アユ、トモ、デリィ。
三機は再び並び立つと、新たな一歩をこの第四工場跡に刻んだ。
これで完結です。
拙作をここまで読んでいただき、ありがとうございました。




