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ブラックチップ

 

 キュウマはアボートこそしなかったものの、もう立ち上がることもできない体で瓦礫の間をのたうち回る。

 

 アユは倒れそうになりながら、キュウマに近づいていく。


「まだ……まだ終わりじゃねえぞこのヤロウ」

「ひぃいいいい! た、助けてくださ~い! ダークチップはもう作りませんから~!」

「そのふざけた口調も二度とスピーカーから吐かせなくしてやるよ!」


 アユは右腕を振りかざす。文字通り、粉々にするまで潰すつもりだ。


 キュウマは逃げようとして、その場でただもがき続ける。


 拳が下ろされる。


 拳はキュウマではなく、その横に転がっていた建物の一部に当たっただけだった。


「外した? いや違う。これはなんだ?」


 アユは構え直して、何度も挑戦するが一向にキュウマに当たる気配がない。


 重心が安定しない。腕が途中でぶれる。


 右腕の動きに体が持っていかれて、ずっこけてしまうアユ。


「や、やめてくださ~い!」

「なんなんだこれは!?」


 いつのまにかチップが発動していないことに気付いた。


 読み込みし直しても、エラーが吐かれた。


「リーダーは故障していない。どういうことだこれは?」

「その理由を知る必要は、キミにはないよ。()()


 雨の下から、聞き慣れた音声がした。


 この声を、俺が聞き間違うはずがない。恐る恐る、アユは振り返った。


「デリィ!」


 そこには、前に会った時とは違う機体のデリィがいた。

 小角や顔の造りは変わってないが、錆が消えて全体的に一回りほど大きくなっている。まるで闘争用の機体だ。

 

 デリィとアユの目が合う。

 

 デリィは何も言うことなく、アユを迂回するように歩を進める。


「今までどうしてたんだデリィ。その体は何があった!? 教えてくれ!」

「何度も同じことを言うつもりはないよ……その理由を、キミが知る必要はない」

「デリィ……」


 ようやく再開したにも関わらず、デリィはアユを冷たく突き放す。


「でもそうだな。なんでキミの体が動きづらくなったのかは教えてあげる」


 デリィはチップリーダーを開いた。そこには()()()()()があった。


 片方から取り出した中身を、アユへ見せつけるように掲示する。


 鮮やかな光沢を放つ黒いチップ。汚れのように黒ずんだダークチップと違い、同じ黒でも別種の色。


「まさか」

「そう。これこそが()()()()()()()だ。こいつの作る偽物なんかとは格が違う」

「な、なんだって……いひぃ!」


 見下していたキュウマを、デリィは持ち上げた。


「この男は連れていかせてもらうぞ」

「待ってくれ。その男は」

「どういう存在かは承知している。だからこそ必要なんだ」


 キュウマを担ぐデリィ。抵抗するものの、強引に抑えつけられる。


 そのまま立ち去ろうとする。


「デリィ! どこへ行くんだ!?」

「教えないよ。でももうキミたちの元にはもう帰らないつもりだ」

「なんでだよ!?」

「ボクを高く買ってくれるチームがあってね。そこに移籍するつもりなのさ。こいつはそのための土産みたいなもの……実はさ、もううんざりだったんだよね。キミたちみたいなカスと仲良しごっこしてるの。ボクはキミたちを置いて、天空郷にひとりで行くつもりなんだよ」

「嘘だろ……待ってくれ。デリィ、待ってくれ」

「今夜、ボクのチームが第四工場跡を取り潰しにいくから、キミたちは旧アジトに行って、そこから一歩も外に出るなよ。今のアジトにも戻るな。もしいたら潰すからね」


 最後にボソっと言い残して、デリィは第十七住宅地からいなくなっていった。


 アユはデリィの背中に向かって這うような動きを止めて、その場に伏せた。






「アユ……!」


 五分後、トモが抜け道から戻ってきた。


 心配するトモ。アユは怪我の報告や事情を話す前に、ひとつだけ尋ねた。


「あの女の子は無事だったか?」


 悲しそうな顔を、トモを横へ揺らした。


 トモが女の子たちの家へ着いた時には、修復不可能までに破壊された両親の死体の上に全身に金属化現象が及んだ女の子が寝転がっていたらしい。


「そうか……そうか……!」


 溢れんばかりの透明な雫がアユのこめかみを零れ落ちていく。


 夢の時と違って、ひたすらに冷たい。


 雨ではあって、これは涙ではない。けれどもし人間のままだったならば、肉体の水分を根こそぎ放出してしまうくらい泣いているとアユは思った。


 負の感情は決して外に流れることなく、内側で渦巻くように留まり続ける。


「ちくしょー!」


 せめて声にしようと、黒く濁っている雲へマイクが壊れるくらい叫んだ。


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