表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/37

三度目の夢


『ハッ…ハッ……』


 景色が流れていく。物体が線となって消失していく。


 俺は走っていた。


 場所は、おそらくスラムのどこかだろう。普段、よく見ているものに似た背景が映っている。


『もう少しだ。あと少しで、空港に辿り着く』

『うん。ちゃんとチケットを買える分のお金もある』

『頑張るぞ』


 この声は、いつも夢に出てくる誰かだ。


 誰かと一緒に、俺は空港まで行こうとしているのか。


 なぜここまで急いでいるのか?


 疑問に思っていると、後方から喧騒が聞こえてくる。


 胸がわざめく。俺は何度も、首を後ろに回す。


『ヤツらがきた! 追いつかれるまでに、到着しないと!』


 どうやら俺たちは、何者かに追われているようだ。


 一生懸命に逃げようとする。


 しかし後方からの物音は徐々に大きくなってくる。どうやら何者かのほうが速いようだ。


 何者かとの距離がかなり縮まった。


『マズい。追いつかれる』

『隠れよう』


 俺たちは車輪式の車の陰に隠れると、そこから車の下に入った。


 追いついた何者かは車の周りは確認したが、そのまま気付かずに通り過ぎていった。足音が複数。しかも足の大きさからして、俺よりも二倍近く大きい存在だ。


 逃げ切ったことに安心する。


『どこ行ったガキども』

『見失ったかもしれん。おれたちは向こうを探す』

『じゃあおれらはあっちを』


 どうやら別々に分かれて、探すつもりだ。


 何者からがここからいなくなっている内に、俺たちは脱出しようとするが、


『待て。どこかに隠れているかもしれん。この暗闇だ。見落としている可能性も低くはない』

『それもそうだな。よし。ここに何人か残して探させよう』


 四人ほど残して、何者かたちは別の場所を探しにいった。


『どうしよう……』


 下から除くと、四人は常に別方向を見ていて必ず車周りも視界内に置いてある。


 だからといって足の速さで負ける以上、無闇に出ることもできない。


 ペタン……ペタン……


 大きな足が近づいてくる。もしかしたらここを探すかもしれない。


 俺の頭は混乱に陥る。どんな方法を思いついても、逃げきれそうになかった。


『アユ……オマエはここに残れ』

『え?』


 横で一緒に這いつくばって誰かは、俺へ言う。


『俺は今から、オマエを残してここを出ていく』

『そんな。行っちゃやだよ』


 俺が縋りつくと、誰かは手を強く握った。


 彼の手は、小刻みに震えていた。


『いいか? 俺は足が早い。鈍足のオマエさえ置いていけば、あいつら如きなら振り払える。オマエは、あいつらが俺を捕まえようとここから離れている内に出ろ……これがたったひとつの、俺たち両方が脱走できる手段だ』


 こうして傍から見ているから分かる。

 

 誰かの言葉は嘘だった。


 いくら多少は速かろうが、体が倍も大きい複数人から逃れられるわけがない。


 彼も分かってて、言っているのだ。


 なんて不器用なのだろう。この誰かは。口ではわざと悪し様に言って、強がっている。けど辛そうに目と口元を歪め、俺の手を離したくないとばかりに強く握っていた。


 何者かたちの足音が近づいてきた。誰かは、名残惜しそうに手を離す。


『すぐに俺はここから出る……じゃあなアユ』

『ごめ、あっ……も一緒に』


 俺が言い切る前に、誰かは、足が来る方向とは反対から出た。


 挑発的な内容の大声を出して、どこか遠くに駆けていく。


 やっぱり、彼は自分を囮にして俺を逃がしてくれるつもりだったのだ。


 その場にいた全員が、誰かを追って消えた。


 俺は一分後に、車の下から出て、空港に向かった。


 走っている途中、何度も後ろを振り返ったが、何もそこにはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ