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占いちゃんへの報告


 怪しい珍妙な品に囲まれた地下室。


 第十七住宅地でブラックチップを探してから六日後。アユは占いちゃんに呼ばれて、彼女の部屋まで来ていた。


「こんばんは。アユ」

「こんばんは」

「……疲れているみたいだね。ブラックチップ探しは上手くいっているのかい?」

 

 心配する占いちゃんに、アユは苦笑いで返す。


「全然……でもないか。明日には見つかると思うよ」

「そうかい。それならよかった」

「ここ数日はずっと深夜まで作業していてね。充電はせずに、高エネルギー凝縮液で何とか食いつないでいた。明日があるからって、今日は早めに俺は帰らせてもらったけど」

「あの不味いのを何度もかい。吐き気がするね。ということは、トモちゃんはまだアジトにいるのかい?」

「うん。ギリギリまで粘るってさ。エセ宗教家ども、ふざけんなって呪詛吐きながら、限界寸前って感じでチップ弄ってる」

「大変ねえ。本当は遊びたい年頃の若い女の子なのに、ほんと根性あること」

「……ところでさ、Aさんの息子についてのことなんだけど」


 Aの息子に襲撃された夜のことを、アユは占いちゃんに話した。


「そりゃ酷い目にあったもんだね。分かった。そのことについては、こっちからAさんについて話しておくよ」

「ありがとう」

「それでアユ。訊きたいことがあるんだけどね」

「なに?」


 コロコロ。アユは飴を口内で転がす。


「その飴玉、甘いかい?」

「甘いよ。多分。この味がそういう名称なのかも、忘れてしまったけど」

「そうかい……そうかい……」


 何やら満足気に頷く占いちゃん。

 

 アユからしたら、ただ感想を言っただけなのに変な気分であった。


 対面しているアユには彼女が何を考えているのかさっぱり分からなかったが、占いちゃんが嬉しそうならそれでいいかと思った。


「変だよね。味覚センサーは故障したままなのに。特殊な鋼人用飴剤なの?」

「いや。いたって普通の鋼人用飴剤さ。飴のように甘く感じる振動波を発する金属」

「ふーん」


 試しにコンピュータで確認したが、やっぱり味覚センサーは作動していなかった。


「うん。聞きたいことは聞けたし、これで悔いなくここを去れるよ」

「え? もしかして、この街から引っ越しちゃうの?」

「そっ。元々アタイは街を転々としていた身さ。むしろここには長く居すぎたくらいだよ」


 自分の意志で、泥兎街から出ることを決めた占いちゃん。


「そうか。寂しいけど、次の街でも占いがんばってね……それと今までありがとう。いつも飴をくれて、街の情報ももらって。占いもお話も、楽しかったよ」

「嬉しいことを言ってくれるねえ。アンタらもブラックチップ探しがんばりなさい。Aさんについては出る前にちゃんと言っておくから、心配はしなくていいよ」


 お互いに、別れを告げる。


 話すことはもうないらしく、アユは占いちゃんの部屋から出ていった。建物の出入り口を潜ると、道の向かい端で振り返る。


 動かずに、そのまま立っている。部屋から出てくる占いちゃんを、待っていた。


 せめて見送りぐらいはしたかった。


 自分がさっきまでいた廃墟を眺める。

 窓が空洞になっていて、入ってきた風が別の窓から脱け出ていく。いつ壊れるかも分からないほど老化している。当然、何か目的があって建てられたものではあるのだろうが、今の古びた姿からはそれも想像がつかない。


 以前、ジャンクで正体不明の物体があった。

 

 どの検査機にかけても屑鉄としか判断されず、そのまま捨ててしまったが、後から発見したところと同じ場所でジャンク漁りをやっている内に詳細が判明した。その物体は、ある鋼人の遺体の一部だった。近くでジャンク漁りをやっていた鋼人と気が合って酒場で呑んでいると、話している内に五〇年程前に行方不明になった彼の父親だというのが分かった。


 彼からそれを聞いた時、アユは羨ましいと思った。

 

 自分が物言わぬ存在になっても、他の誰かが自分を覚えていてくれたのだ。いくら時間で擦り切れても、まだ繋がっている太い絆に感動した。


 ふとした時に、アユがトモたちへそのことを言ったら変人扱いされたが。


(デリィ。おまえは今どこでどうしている?)


 未だに、デリィはアジトに帰ってこない。

 

 別れるにしても、せめて占いちゃんのように何か言ってほしかったとアユは思った。


(そういえば、いつまで残っているんだろう占いちゃん?)


 待つのはいいのだが、明日のことを考えると長時間の待機が必要ならばどこか安全なところでスリープモードにしておきたい。本当はサプライズでやりたかったが、仕方がないので占いちゃんにいつ泥兎街から出ていくのかアユは尋ねることにした。

 

 地下まで降りて、また部屋に入った。


「あれ?」


 室内のどこにも、占いちゃんはいなかった。


 机にカメラを向けると、「アユへ。部屋の物はおまえたちが好きに使ってよい」とプレートが書き置きされていた。


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