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教祖の言葉

 

 ノイズがひどい。

 

 声から正体を悟らせないために、教祖はボイスチェンジャーを使っていた。

 

 録音しようとしたが、もしバレて今さら断られでもしたらと考えが浮かぶ。トモは余計なことをせずに、訊きたいことだけ素直に質問することにした。


「どうも。ところでアユがここに来ることも事前に知っていたのか?」

「然り。そのため、この時間帯にアユという異形な右腕をしている鋼人が現れたらここに通せと、門番に伝えておいた」

「それもタコのことも全宇宙の歴史の力?」

「然り。正確には、その断片を自分が覗いているに過ぎない」

 

 うさんくさいという印象は変わらないが、教祖の能力自体には信頼を置き始めるトモ。


 一応、試してみることにした。


「じゃあ訊くんだけど、アタシが使っている化粧品知ってる?」

「……独自の製造の機械油(マシンオイル)。ブレンドはパラフィン系が七八パーセントに、ナフテン系が二十二パーセント」

「……どうやら本物みたいだ」


 情報の正確性に観念するトモ。


 どうやら全宇宙の歴史へアクセスするという噂は真実だったようだ。

 

 嬉しい誤算。

 

 考えを改め、素直にトモはブラックチップの在処を尋ねようとした。


 「第十七住宅地(ゼヒツェーンハオス)に行け。ブラックチップの道筋はそこから続いている」


 しかし音を抽出する前に、その前に教祖が答えた。

 質問する未来が事前に視えていたということだろう。


 もはや教祖の能力は疑いようがなかった。


「第十七住宅地。そこにあるってことか。よし行くぞ!」


 トモは教祖の言葉を信じきって、言われた通りにする。

 

 アユの後ろ首を引っ張りながら急いで部屋から出ていく。


「ぐへっ……ちょっ、ちょっと待ってトモ」

「どうした? 早くしないと」

「アンタに、訊きたいことがある」

「自分になんの用か?」

「なんでアンタが、俺たちにそこまでしてくれる? ブラックチップの居場所を知っているなら、見つけて自分たちで金にしてしまえばいい」


 アユは教祖を疑っていた。

 

 よく分からない能力に関しては、トモが試したことで本当だと思っている。


 けれどなぜ、そんな便利なものを見ず知らずの自分のために使ってくれるのか?


 ここに自分たちを来させたことも含めて、教祖の真意を確かめようとする。


「……教えたことが、最終的に教団のためになるから。これでよいか?」

「アンタたちは、ブラックチップには興味ないのか?」

「ない」

「なんだって!?」


 愕然とするトネヤマ。

 

 会社の総力をあげてまで探そうとしているものに、興味すらないと言われたのだ。

 

 あまりの動揺に、音声が上ずってしまう。


「わ、訳を話してくれませんか? なぜブラックチップが欲しくないんです?」

「ないものは、ない」

「詳しく話す気ないみたいだな。まあいいや。俺たちにとってそこは重要でないからね……とりあえずアンタたちは横取りなんてことはしてこないって認識でいいかな?」

「それでよい。邪魔をしないよう信者たちにも極力、近づかないよう伝えておこう」

「ありがとう」

「ま、待ってください。アユさん。もう少しお話を」

「俺たちには時間が無い。邪魔をしないならそれでいい」

 

 

 アユは感謝すると、トモと一緒に部屋から出ていく。


 招待された鋼人が去ってしまったため、トネヤマも去るしかない。名残惜し気に教祖を見ながら、二機へついていく。


 階段に戻ると、信者は外からの空気すら遮断するほどの厳重な扉を閉めて、信者へ入口まで連れていかれる。

 

 そのまま階段を昇りきるまで、信者が前にも後ろにもいたのは教祖の警備のためだったのだろう。そこまで守られる存在が、なぜわざわざアユたちだけは通したのか。疑問は尽きなかった。




 教祖に言われた通り、アユたちは第十七住宅地に移動した。


 第十七住宅地は別名、恐怖王(カスタトローフェ)の冠(クローネ)と呼ばれる場所だ。

 以前は住宅地として使用されていたが、周囲一帯がカメラで撮れないほど恐怖王が充満したことで元いた住民たちも去ってしまい、長らく誰も立ち寄ることがなかった。


 そんな場所ならば、ブラックチップがあったところで発見されなくてもおかしくはない。


 アユたちはそう考えながら、トネヤマが運転する車の中にいた。

 

 流線型のひし形でホワイトカラー、浮遊式の自動車である白い宝石(ヴァイスディマンテ)は溶けて穴ボコだらけになっている地面を気にすることなく、恐怖王の冠の内部を走っていく。


「素敵な車ですねー!」

「光栄です」


 レンズをキラキラさせながら、白い宝石をトモは褒める。

 

 中は広く、二機で座ってもスペースが余るくらい大きなソファがあった。


 アユとトモはそこにゆったりと座って、冷やしてあった高級エナジー凝縮液を飲む。


「美味しいものもいただいて、ほんと最高ですよ。ここに住みたいくらいです」

「ははは。これから頑張ってもらうんです。そのためならこれくらいお安い費用ですよ」

「はい。いっぱい応援してもらったので、頑張ります」

「……ところで、彼らはなぜブラックチップがいらないのでしょうね?」


 教祖の発言を、トネヤマは気にしていた。


 ゴクゴクゴク。プハーと、凝縮液から口を離した後にトモは答える。


「宗教って、よく節制して一部の食べ物だったり行為を禁止しているじゃないですか?」

「そういう宗派もありますが、GME教の教則に関しては一般的な価値観とほとんど変わりません。今回の場合に彼らが取る行動は悪人や鋼人なんかにはブラックチップを渡さず、手に入れたら売ってしまい、社会的弱者たちの援助をするはずです」

「それだと、モトダが悪人みたいじゃないですか?」

「……あくまで例えですよ」


 トネヤマは、運転している道が正しいか確かめるためにナビへ目線を送った。


「ともかく、二十五年前にスラムで発足してから今までのデータにない異例の行動をとっているんですよ彼らは」

 

 GME教は、恐怖王の発生後に誕生した新興宗教だ。

 恐怖王発生以前の大規模宗教は、スラムでは影を潜めてしまっていて、現在では最も信者の数が多い宗教になっている。


「教義に惹かれるものもいるのでしょうが、やはりここまで信者を呼び込めたのは、教祖の明確なパフォーマンスあってこそでしょうね」


 話している内に、白い宝石が恐怖王の固まりを抜けた。


 どうやら恐怖王の冠は住宅地を丸状に囲んでいたらしく、周囲が紫の霧に包まれながらも中心にあった住民たちが住んでいた家や建物は無事だった。


 制止した白い宝石から、アユたちは地面に降りる。


「ん?」


 違和感を覚えるアユ。

 住人たちが去って本来は人気なんてないはずなのに、地面に足跡のようなものをいくつも発見する。

 第十七住宅地がこのような鋼人でも住めない状態になったのは数年以上も昔だ。さすがに風化して、元の平坦とした地面に戻るはず。他の二機も気付いて、首を傾げていた。

 

 ゴソッ。

 

 もぬけの殻のはずの住居の影から音がした。


 音の方向へ首を回すと、ジリツの取り巻きの片方だった鋼人が薄暗い光の下にいた。


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