デリィの工房2
「そういえば最近、夢を見るんだったなアユ?」
「うん。そうだけど、それがどうしたの?」
トモとデリィにはそういえば言っていたなと、アユは思い出した。
なにか当てがあったのかと、デリィの話を聞くことにした。
「実はね、ボクも最近見るようになったんだ」
「へーそうなんだ。やっぱり同じウイルスが流行ってたりするのかな?」
「そこまでは分からないかな。昨日ボクが調べても、睡眠中に夢を見るようになってもそれだけで特に異常もないそうだし」
「そうだよな……それで、どんな夢だった? 俺のはね――」
常に誰かと同じ部屋にいる。
夢の中の自分は、その誰かと一緒に泣いたり笑ったり、仲良く様々なことを誰かとしていた。
自分が見た夢をアユが話すと、デリィは思い出すように答える。
「……一言で示すなら、ボクが見たものは闇かな」
暗闇の中に、デリィはずっと独りでいるらしい。
そこにいたままだと、何もしていないのに体が痛み出しはじめ、不快なノイズが聞こえてくるそうだ。だから逃げようとするのだが、闇はどこまでも深く、どれだけ走っても抜け出せないでいる、心も体も擦り減っていく末に脱出を諦めようとした頃、光が闇を切り裂いて現れた。
「暖かい光だった。伸びてくる一筋の輝きを、ボクは掴もうとした……ってところで起きちゃったんだよね」
「掴みたかった?」
「……どうだろう? 掴みたいようで、でも掴んだら良くないことが起きてしまような……アユのと比べたら抽象的過ぎてよく分からないかな。古代の文献だと、ボクの夢のほうがが夢らしいそうだけど」
曖昧に笑うデリィ。
なぜかその裏に、単機で合流場所に待っていたあの時のような寂寥感があるとアユは感じ取ってしまった。
時間も過ぎて深夜。ようやく調整が終わったアユとデリィは、アジトから出てきた。
屋内の明かりを消して、自分たちに備わっているライトをそれぞれ点けて帰路につく。
「デリィは三番住宅地に構えた昔のアジトだっけ?」
「そうだよ。まあつい最近までは第四工場跡のために造った今のアジトで寝泊まりしてたけど、トモがいつ来るか分からないからね」
「許してるのなら、いいかげん仲直りすればいいのに」
「明日してみるさ。受けてしまった以上、もう期間も少ないしね……アユは十二番だっけ?」
「うん。十二番住宅地の外れで、ほぼゴミ山の場所。最初に会った時、ジジイからもらった」
「なんで街長が?」
「さあね。あの時は、理由を訊くって考えすら浮かばなかったからな。ただ、もう俺の物だから返さなくていいとは言ってたけど」
中は荒らされてほぼ何もない場所だが、居心地も悪くないため寝床にしている。
分かれ道まで、アユとデリィは一緒に歩いていく。
途中で立ち止まる。周囲には廃墟が建っていて、普段はチンピラたちが使っている五階建てのビルもあった。
アユたちの視線の先に、若い鋼人がいた。
体中に泥や油がべったりついているにも関わらず、汚れを取らないまま佇む姿は、まるでスクラップから這い出た鋼人の死体のようだった。
「おいアユ。あの人って……」
「……あっ! 息子さん!」
若い鋼人は、占いちゃんに探してと頼まれたAの息子だった。
〈カメラ〉を差し込んで確かめると、チップ内の映像にある機体番号も一致していた。
「すいません。あんたってAさんの息子だよね?」
「……」
声をかけるが、反応がない。
アユは近づきながら、確認を取る。
「お母さん探していたよ。あんたのこと」
「……」
「お金なんてもういいから帰ってきて、と。こんないい親を悲しませることなんてしないで」
GAAAAAA!
Aの息子はいきなり唸ったと思うと、アユへ襲いかかってきた。