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4 ヴィータルとの別れ

「それでは、キャラクターメイキングを始めましょう」

 ようやくか……

 なかなか長かった世界観の説明を受けた後、やっと僕が知っているゲームらしい設定が出てきた。


 「【New World】におけるキャラクターメイキングですが、キャラクターを構成する要素としては主に5つ上げられます。レベル、クラス、スキル、アイテム、ランクの5つです。1つずつ順番に説明していきますね」


 「1,《レベル》、レベルは1が下限、100が上限となっており、1つ上がるごとにステータスが強化されたり、クラスやスキルの取得条件となっています」


 「2,《クラス》、クラスは種族と職業に分けられており、種族は人間、エルフ、ドワーフ等、職業は戦士、僧侶、魔法使い等、どちらもそれこそ想像できる、大抵の種族や職業を選択することが可能です」


 「3,《スキル》、特殊な能力を常時発動し続けるパッシブスキル、剣技や魔法、自らの意思で発動させるアクティブスキルなど様々なタイプがあります」


 「4,《アイテム》、部位欠損も治癒させる回復アイテム、魔法の力が込められた攻撃アイテム、武器や防具などの装備品、それこそ数限りないほどのアイテムがあります」


 「5,《ランク》、キャラクターの強さを判別する上で最も重要な要素です。10段階で評価されており、ランクが違えば文字通り格が違う強さとなります」


 「これらの要素はゲーム内で戦う敵の戦力は把握したり、パーティ内の戦力バランスを考えたりする上で重要なことですので覚えておいてください。次は名前や容姿を決めてもらいます。創造結晶を使って思い浮かべてください。アバターの素体が出現します」


 創造結晶か――プレイヤーの命とリンクされていたり、ゲームのコントローラー代わりだったり、何気にこれ重要アイテムなんだなと握っていたクリスタルをまじまじと見つめた後、ヴィータルさんに言われたとおり人型のようなものをぼんやりと思い浮かべると見覚えのある姿が出現した。


 「これは、僕か?」

 

 ログインする前に着ていたTシャツと短パンというラフな格好をした、自分自身が眠っているような状態で空中に浮かんでいる。


 「自分を俯瞰してみるというのも不思議な気分だ…」

 

 自分の姿は写真や映像で見たことはあるが、目の前に自分そっくりの質量を持った肉体があるというのはこれまで感じたことがない独特の気分だった。


 「後はさっきの要領で念じていただければアバター素体を色々といじることが可能です。キャラクターメイキングはそれこそ無限の選択肢があるようなものなのでじっくり考えてやってみてください」


 「了解。やってみますか、ちなみに制限時間は?」


 「2週間です」


 「はぁ?2時間?」


 「2週間です。その歳で難聴ですか?」


 難聴系主人公にはなれなかった。


 「キャラクターメイキングに2週間って、それはちょっと長すぎない?無精な人だと下手したら殆どいじらないで終了するから時間余り過ぎちゃうよ」


 「2週間も時間を取っているのは理由があります。キャラクターメイキングが完了してもすぐにゲームを始めることはできません。サービス開始日が2週間後の正午に設定されているからです。それまではこの空間でキャラクターメイキングしていただくことになります」


 「なるほど、運営側の都合という訳か、それならまぁしょうがないか……」


 「時間というのは長いようで短いモノです。これから1週間よろしくお願いしますね、昴さん」


 「こちらこそよろしく、ヴィータルさん」


 長いようで短い2週間が始まった。


 ◇◇◇


 キャラクターメイキングはなかなか混迷を極めた。

 種族の数も膨大で種族を変更するだけでも1日丸々使っても全然足りなかった。

 自分の姿が大きくなったり、小さくなったり、人間とはまるで違う異形となったりとなかなか楽しい体験だった。

 キャラクターメイキングが完了してからはその身体を動かし慣らすために時間を費やした。

 そんなことをしているとあっという間に時間は過ぎ、サービス開始のその日を迎えた。


 「ついに旅立ちの時が来ましたね、スバル………」


 「唐突に旅立ちの朝の母親みたいなキャラになるの辞めてくれない、ヴィータル」


 「雰囲気だけでもだそうと思って…」


 この1週間でヴィータルとも打ち解け、砕けた口調や冗談も挟むようになっていた。

 旅立ちか……

 この場所から出ていくと言うこと、それはすなわちナビゲーションAIヴィータルとの別れを意味していた。

 時刻はもう間もなく正午を迎える。ゲームの舞台となる世界へと移動するためのゲートもすでにヴィータルが用意している。


 「行ってしまうんですね……」

 

 その顔には笑顔が浮かんでいたが、うっすらと寂しさのようなものも混じっていると感じた。


 「ヴィータルとはもう会えないのか?」


 「私はナビゲーションAI。この場所でプレイヤーたちを導くのが使命ですから、ここでお別れとなります。会えるかどうかは私にも分かりません」


 ゲームだと言うからにはそのキャラクターには役割がある。

 主人公を側で見守り、時には支え笑い合う親友のようなキャラクター。

 主人公が愛し、守る対象、冒険のしるべとなるようなヒロインキャラクター。

 その中には出会いがあれば別れもまた存在する。


 「あなたと過ごした時は短かったですが、とても楽しいものでした。あなたと世界の行く末に幸福があらんことをここで祈っています。それではよい冒険を、スバル」

 

 別れの言葉を口にしたヴィータル。

 彼女はこれからもこの場所でプレイヤーとの出会いや別れをただひたすらに繰り返していくのだろうか、それはとても悲しくつらいことに感じられた。

 何か言葉をかけてあげたかった。僕にはどうしようもないことだとしても…

 無責任だとも思ってもそうせずにはいられなかった。


 「このゲーム、【New World】は創造機能があるんだよな…」


 「はい」


 「それなら……ヴィータルともまた会える。その時を僕がきっと創ってみせる、だからさよならは言わないよ。またなヴィータル」


 親指を立てサムズアップしながらヴィータルに別れを告げる、また会うと心に誓った。

 時刻は正午となり世界を移るゲートもゆっくりと開いていく。


 ゲートへと歩みながら、ヴィータルと視線を交わす。


 「はい、また会いましょうスバル、その日を楽しみに待っています」


 先程感じた寂寥感はすっかり霧散し、その顔には満面の笑顔があった。 



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