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3 創造結晶と死亡罰則

紅茶やお茶菓子を用意してもらい、席に着いた。

話を聞く姿勢を整え、中断していた話を聞くことにする。 


「それでは、早速【New World】の説明をしたいと思います。このゲームの最大の特徴と言えば、創造結晶 《クリエイション・クリスタル》 略してCC 《シーツー》です。まぁ好きに読んでください」


 話ながら、ヴィータルさんが手の平を上にして右手を差し出した。

 その右手の上に間もなく太陽光を柔らかくしたような光の渦が出現し、その中から透明の結晶体が浮上するかのように出現した。

 それはログインする際に握りしめていたはずのクリスタルとよく似ていた。


「創造結晶はですね、その名の通り、あらゆるものを自分の想像力で創りあげることができます。例えば、渾身の力を込めた一刀両断の技を思いついたとします。その技をスキルとして創造することで念ずるだけで身体がそれを実現してくれる。まるでゲームのコマンドとして選択するだけのように簡略化することが出来るのです」


 もう驚くのは辞めよう――キリがない。あるがままを受け入れるのです。

 と一種の悟りを開くぐらいには突拍子もない話だった。

 それに、そんなシステムもし使えるとした自由度が高いどころの話ではない。話を聞いただけだが夢が広がって止まらない。まさに夢のゲームだ。


「でも、何でも無制限に創造できるわけではありません。創るのにもエネルギーが必要となりますし、条件も色々と発生します。キャラクターメイキング直後のプレイヤーでは、この星を消す!!なんてとんでもないことを為そうとしてもとてもじゃないけどエネルギーが足りませんし、無理でしょうね」


 上限はやはりあるのか…まぁなかったらそれこそゲームバランスが崩壊するだろうしな。

 それより聞き逃せないことを聞いた気がする。


「メイキング直後のプレイヤーって言いましたよね。十分育成したキャラクターなら星の破壊も可能になるって事ですか?」 


「やり方次第じゃないですかね」


やり方次第で星を破壊できるとかどこの戦闘民族ですか……


答えた後にお茶を飲んでのどを潤すヴィータルさん。

「それでは、実際にやってみるとしましょうか」


「どうすればいいんです?」


「ログインされたときと同じです。ただ念じてくれれば良いんです。創造結晶はあなたの中にもすでにあります。私がさっきしたように光の渦から浮かび出すようなイメージでもなんでも構いません。その人、その人イマジネーションの形がありますしね」


 イメージ、イマジネーション、どんな出し方が良いかな……

 どうせなら格好の良い出し方がいいな。オリジナリティーは大事だからね。

 RPGの定番といえば剣と魔法の世界だろう。

 剣を鞘から抜き放つ姿は前々から格好が良いと感じていたのでそのイメージでいくことにした。


 左手で鞘をつかみ、右手で剣の柄を持ちながら引き抜くイメージ。

 左手の空洞からクリスタルが出てくる……出てくる――おぉなんか角張った物が何もない空間から出てきたのを左手の中に感じる。クリスタルの先端部だろうか?

 後はここをつかみ引き抜くだけだ。

 なんだ案外簡単だな。さすが僕、一度で成功するとは想像力が豊からしい。

 徐々にクリスタルが摩擦力が少なくなるのか、滑るように姿を現わしていく。


 今だ!!


 一息にクリスタルを力いっぱい引き抜く。

 シャリーン! 剣が抜けた時のような擦過音が響く。

 よしできた、できたぞ!

 頭の中でゲームで宝箱を開けた時のようにファンファーレが鳴る。

 しかし、掴み引き出したはずの右手の中には何も存在していなかった。

 あれ? 確かに出たはずなんだけど? 周囲を見渡すと確かに出現したのは間違いではなかった。

 その現物たるクリスタルは手からすっぽ抜けでもしたのか放物線を描きながら宙を飛んで行き、水音をあげながら湖に入水する。


「そういえば言い忘れましたけど、創造結晶は所有者の命と連動していますので、もし破壊されたりしたら死にますよ」


「Really ?」


 そのたった今、命の綱と告げられたモノは湖に沈んで浮力で浮かんでくる様子もない。

 今頃、水底で魚に突かれでもしているかもしれない。そんな考えが頭をよぎると全身から冷たい汗が噴き出す。


「そういう大事なことは先に言ってくれ!」


 格好つけようとしたばっかりに予期せぬところで命の危機に陥る。

 僕は服も脱がずに即座に湖に飛びこんでクリスタルを回収に向かった。


◇◇◇


「他に何か言い忘れたことはないでしょうね……」


 思いもよらず、着衣泳を行う事になり危うく溺れかけたがなんとか回収することが出来た。


 何事もなかったかのように微笑む彼女、案外性格が悪いのかはたまた天然なのか…


「他に重要なことといえば、痛覚機能と死亡罰則 《デス・ペナルティ》の事でしょう。説明します」


「まずは痛覚機能です。【New World】では痛覚も一切抑制されることなく完全再現されます。もし斬られたりすれば、現実と同じように血が流れますし、痛みも感じます」


「痛覚機能をオフにしたりすることはできないのですか?創作物のVRゲームとかは結構ゲームとして楽しむために痛みなどは軽減されたり、全く感じないみたいな設定が多く見られますけど…」


「【New World】の制作コンセプトは『現実と相違ない仮想空間を』ですからね。苦痛や快感、はたまた他のゲームなどでは禁止されている様々なハラスメント行動も一切制限、禁止されていません」


「禁止されてない!? 年齢でセクハラハラスメントから保護されたりしないんですか?」

 

 この設定もよくVRものでよく見られるものだった。


「現実で年齢が幼いってだけで性犯罪に絶対に巻き込まれないって保証がありますか?」


 一切笑みなど遊びのない真剣な表情をしながら真実だが残酷なことを告げるヴィータルさん。


「確かにそうだろうけど……」


 戸惑いがないかと問われれば嘘だった。僕の今まで生きてきた日本は治安の面でいえば世界的に安全な部類だ。僕自身、プロゲーマーとして名が通っているから多少の嫌がらせは受けたことはあるが、身体を害すような危険に巻き込まれたことはなかった。


「ゲームを実際に参加するかは綺羅星さんの自由です。辞めていただいても全く構いません。話を続けます」


 異論は一切認めないと言うような厳格な態度で説明が続く。


「死亡罰則 《デス・ペナルティ》、ゲーム内で死亡した際の罰則処置ですけど……」


 まさか、ゲーム内で死んだら現実でも死ぬなんて言うまいなと不安を覚えたが、あいにくその心配はなかった。


「所持金やアイテムをランダムにドロップする。一定時間各種パラメーターの減少等があります。

《デス・ペナルティ》は時間の経過とともに消失しますが、もし《デス・ペナルティ》の効果時間内にもう一度死ぬようなことがあった場合、そのアバターのデータは完全破壊され抹消デリートされます」


 かなり厳しいペナルティだと感じた。

 MMORPGはその仕様上、初見では倒せないボスや相性によっては全くダメージすら与えられない敵も存在する。そういう敵にはひたすら挑戦する、データを集め撃破するといった戦い方が主流だ。

 二度の死で完全にキャラクターが消えるとなるとそんな戦法はおいそれと使うことが出来なくなる。


「ちなみに、【New World】はログインするプレイヤーを完璧に識別しているため、他者の成りすましやアバターの完全消失後に再びアカウントを取得しようとしても不可能です」


 厳しさに拍車がかかり、さらにアカウントを取り直せば良いか?と考えていたがその考えに釘をさされた。そんな甘い考えは許さないと言外に言われたかのようだ。


「つまり世界から一度退場したプレイヤーはもう二度とログインすることはできないという事です。

なのでくれぐれも命を無駄に使わないでくださいね、もしかしたら死ぬ以上の地獄を見ることになるかもしれませんから………説明が長くなりましたがお付き合いいただきありがとうございました」


 お手本のようなお辞儀をし顔を上げたヴィータルさんは長々と語ったある種の鬼畜なゲーム設定を吹き飛ばすかのような満面の笑みを浮かべていた。


 創造結晶 《クリエイション・クリスタル》という正の側面。

 痛覚機能や死亡罰則 《デス・ペナルティ》といった負の側面。

 良いことばかりを説明されるのではなく、悪いことも説明してくれたおかげでその話の信憑性が増した。

 死以上の地獄、ヴィータルさんのその言葉の意味も深く考えることなく僕の心は《New World》に参加するのを固く決めてしまっていた。










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