0 プロローグ
僕の名前は 綺羅星 昴。
4月1日、つまり今日だけど誕生日を迎え、10歳になった。
小学校の学年で言えば春休みが終われば、5年生へと進学するが余りその実感はなかった。
何故なら僕は現在ほとんど小学校には通っていない。だからといって不登校児というわけでもない。
通う必要がないからだ。通う必要がなくなる程の圧倒的な才能を僕は持っている。
その才能とは ゲームの才能だ。
2020年現在、eスポーツ( electronic sports)も世間一般で認知され始め、様々なゲームのジャンルで大会が開かれるようになっている。
僕はそれらのあらゆる大会に出場し、優勝をかっさらい、その界隈では有名人となっていた。
その賞金やゲーマーとしての腕や才能で生きていくいわゆるプロゲーマーというやつだ。
ゲームをこよなく愛し、ゲームのために生き、ゲームのために死ぬ。
それが僕こと 綺羅星 昴の人生だった。
◇◇◇
「またか……」
両手に持っていたコントローラーを投げ出す。
目の前の液晶画面には通信が切断されましたと無機質なシステムメッセージが表示されている。
遊んでいたのは発売されたばかりの格闘ゲームだ。相手側から一方的に通信を切断されるのは今日だけで5回目になる。
このゲームを1時間ほど前から始めているが、10分に1度は相手側から回線を切断されている。
まぁ、パーフェクトで3連勝ばかりかましているのでそれが理由の一因ではあるのだろうが…
格ゲーで何もできずにただサンドバックにされるのは滅茶苦茶腹が立つので、回線切断する相手の気持ちも分かる。
だからといって、手を抜いてもゲームは面白くない。
適当に流しても勝てるのだがやはり全力を出しての勝利の方がすっきりする。
かといってこのまま続けても逆に僕の方がストレスが溜まってしまう。
そのため、このゲームを一時中断する事にした。
ゲームは1日1時間!なんて標語があるがそんな標語守った試しがない。
別のソフトに替えるなりなんなりしてゲームを続けるだけだ。
我ながらゲーム馬鹿だと思う。
これが、ゲーマーのさがか………
新しくプレイするゲームを探し始めて間もなく、僕の自室のドアがノックされた。
少し落ち込んだ気分を振り払いながら出迎えるとそこには小包を持った1人の男性が立っていた。
「スバル、君に荷物が届いたよ、はい、これ」
「ありがとう、マツさん」
差し出された荷物を受け取る。
彼の名前は 松原 小吾。
僕と同じゲーミングハウスに住むプロゲーマーだ。
ゲーミングハウスとはプロゲーマー達が共同生活を送りながら、腕を磨くシェアハウスのようなものだと思ってくれればいい。
「宛先はゲームメーカー フロンティアって書いてあったけど、どこのメーカーか知ってる?」
僕が抱える荷物を見ながら、マツさんが尋ねてくる。
「フロンティア?そんなメーカー聞いたことないな。マツさんも知らないの?」
「知らないなぁ、俺たちが知らないなら新規のメーカーなのかもしれない、もしくは悪戯のたぐいか…
まぁ、何か問題があるようなら相談してくれ、それじゃあ」
「ありがとう、じゃあね」
お礼を言うと、マツさんは自分の部屋へと帰って行った。
マツさんの姿がドアのむこうに消えるとその荷物の中身をすぐさま確認した。
僕はプロゲーマーとしてそれなりには有名になった。
なので時々、こうしてゲーム関係の荷物が届くことある。
ちょうど暇していたし、良いタイミングだと思った。
まさか、この箱が自分の運命を変えるパンドラの箱だと僕はこの時は考えもしなかった………