「星花ミダレザキクルイザキ」編 part2
「紙は骸、筆は羽! インクの軌跡が私を綴る! 魔法書羽女…………ツカサ!」
私は変身し、臨戦態勢をとった。
駆けてきた勢いそのままに、黒猫のキョッカイーが両手の爪で切り裂こうとしてきた。私は左足のかかとへ重心を移動させ、すんでのところで左方向へ回避した。
すると黒猫のキョッカイーに乗っていた鹿のキョッカイーが頭部の大きな角で追撃してきたため、両腕をクロスさせて防御姿勢をとった。しかし回避の最中で体が地面から浮いていたためにそのパワーを和らげることができず、後方へと吹き飛ばされた。
「くっ。……でも、距離をとってしまえば……!」
手元にヨンダーを出現させ、私は戦法を変えることにした。
『『咲いた恋の花の名は。』!』
「届け! 天使の光!」
『ふわふわキラキラ闇を払う!! 「サブタイトルが美し過ぎる」部門、栄えある第一位に輝いたのは……『咲いた恋の花の名は。』! で! しょう!』
コスチュームチェンジによって「魔法書羽女ツカサ 咲いた恋の花の名は。・ノ・ドクシャー」へと変身した私は弓矢を形成し、三体のキョッカイーへそれぞれ一本ずつ矢を放った。さすが倉田邑の力。放たれた矢は正確にキョッカイー達の眉間に命中した。これにはたまらずキョッカイー達も悶え、動きを止めた。
狐のキョッカイーを除いて。
「なっ!?」
無理矢理自身に刺さった矢を引き抜き、呻き声を上げながら狐のキョッカイーはその周囲を駆け回った。
痛みを誤魔化しているのだろうか?
……いや、違う。
「急に、視界が……」
狐のキョッカイーが走った空間から白いものが立ち込め、あっという間に私の周りを白いものが覆ってしまった。
これは、もしかして……。
「……霧?」
辺りを見回すも、そこには「白」「白」「白」。何も見えないし、自分が今どの方向を向いているのかさえ分からなくなってしまった。いくら精密な射撃を行えても、狙えなければ意味がない。
「うわぁっ!」
突然、影が私を襲った。霧から霧へとヒット&アウェイ。何度も襲われながらも、ようやく影の正体が鹿のキョッカイーに手を引かれている黒猫のキョッカイーだと分かった。あの鹿のキョッカイーは、こんなに視界が悪くても私の位置が特定できるのか。あのキョッカイーには、赤外線探知能力でも備わっているのかもしれない。
狐のキョッカイーが視界を奪い、鹿のキョッカイーが姿を捉えて、黒猫のキョッカイーが攻撃を加える。悔しいけれど、見事な連携だと思う。
「ぐうぅっ、あぁあっ!」
何度も何度も爪で切り裂かれ、私はアスファルトの地面に倒れ伏した。ダメージ過多でコスチュームを維持することもできなくなり、私はただの人間に戻ってしまった。
目の前には、とどめをさそうとゆっくりと近づいてくる三体のキョッカイー。
……前も、こんなことがあった。
本当に死ぬかもしれない。恐怖心に包まれたあの日。私が、初めて魔法使いになった、あの日。
あのときは、姉が助けてくれた。……でも、その姉は今ここにはいない。
いつの間にか、霧は晴れていた。
けれど、私の心にはあの日のトラウマが闇を成して私の弱いところに覆い被さっている。
「姉さん…………っ!」
「……私は君のお姉さんではない。……が、命を奪われそうになっている現場に出くわして見過ごしたりはしない主義でな。助太刀しよう」
懐かしい声が、私の心に沁みてきた。
私が顔を上げた先……キョッカイー達が視線を向けた先。そこにいたのは。
私の中学時代の先輩、橘利唯河先輩だった。