「星花ミダレザキクルイザキ」編 part1
病院での一件が済んだあと、私十深石ツカサは風邪を直すために数日の休養をとった。あのコスチュームによる回復能力は変身中にしか発現されないらしく、戦闘後変身を解除した途端に私を猛烈なだるさが襲ったのだ。
……それにしても。
この間の人型のキョッカイーの事件。そこで使われたのが『燐火の響き』のシオリー。おそらく以前倒した虫のキョッカイーは『燐火の響き』に登場する「赤石燐」の属性「本の虫」を曲解したものだと推測できる。「トートイ」と名乗っていたバッドエンダーが「倉田邑」の名を出していたことから、あのハンバーグのタネのような物を投げていた人型のキョッカイーは彼女の着ている「ツナギ」を曲解したものだと考えられる。衣服の「ツナギ」と、ハンバーグの「繋ぎ」。「つなぎ」違いだ。
そして彼が狙っていたのが「咲いた恋の花の名は。」のシオリー。それに私は「恋は芽吹いて百合が咲く」のシオリーを持っている。どれも「星花女子プロジェクト」の作品ばかりだ。しかも第一期のもの。
ということは……。
「あと私が持っているシオリーは第一期とは直接関係ない『コレ』だけ……。彼が他にシオリーを持っていないとすれば、星花女子プロジェクト第一期の残りの三つの作品『クチヅケホリック〜マスカレードの少女たち〜』『星花ミダレザキクルイザキ』『百合の花言葉を君に。〜What color?〜』が狙われる可能性が高いってことか……」
……まあ、星花女子プロジェクトと全然関係ない物語のキョッカイーが現れる可能性も否定できないけどね。
◆
……とはいうものの。
「まあ外に出掛けてみたからって、そう都合良く彼が狙いそうな『それっぽい人物』は現れないよなぁ……」
……と、思っていた時期が私にはあったよ。
「お姉様、急いで!」
「わかってるとも! ……って危ない!」
声のした方を見やると、二人の少女を乗せた自転車が猛スピードで突っ込んできた。私は間一髪で自転車と自分の間の空間に魔力のクッションを作り出して衝撃を和らげたおかげで、尻餅をつく程度で済んだ。
「いたた……。……す、すみません、よそ見してて……。……はっ! う、うさぎ、大丈夫!?」
「い、いえ……椎名お姉様こそ。わたくしが、急かしてしまったばかりに……」
「いや、これはわたしの不注意が招いた事故だ。この命をもって、死んで詫びを……」
いや、詫びって何。described by 太刀花凛花。
…………ん?
自転車に、事故に、詫び?
なんか……その組み合わせ知ってる。
「もう! お姉様ったらいつも……! お姉様の命は、お姉様だけのものではないのですよ!?」
「……っ! ご、ごめん……。……あっそうだ! 早く逃げないと……」
「……FF外から失礼するよ」
「さ、さっきはすみませんでした」
「いや、それはいいんだ。…………それよりも君達、もしかして…………アレから逃げてる?」
私が指差した方には、大きなシルエットが。より正確にいうと、黒猫の怪人が鹿の怪人と狐の怪人を抱えて凄まじい勢いで迫ってきている。自動車くらいの速度は出ているだろうか。
「きゃあっ!」
「き、来た……!」
まさか向こうからお出まししてくるとはね。
「……君達は早く逃げるんだ」
「で、でもあなたは……」
「早く!」
「……っ! すみません! 行こう、うさぎ」
「え、えぇ……」
キョッカイーが襲ってきたということは、彼女達は星花女子プロジェクト第一期の作品に登場するキャラクター……っぽい人、ということだろうか。……まあ、今の出来事のおかげでおおかたの見当はついたけど。
「捲れ! 運命の一ページ!」
私の足元に薄いピンク色の大きな魔方陣が描かれ、足元の魔方陣から何枚もの紙が舞い上がり、私の体にまとわりつく。まとわりついた紙は柔らかい光を伴って徐々に変化し、やがてそれは魔法少女としてのコスチュームとなる……いつものプロセス。
「紙は骸、筆は羽! インクの軌跡が私を綴る! 魔法書羽女…………ツカサ!」
私は変身し、臨戦態勢をとった。