「咲いた恋の花の名は。」編 END
「それは……俺の力だ……!」
「いいや、彼女達の力だね」
「……奴からシオリーを奪ってこい!」
いつの間にか、だるかった体が軽くなっていた。
……そうか。このコスチュームにはヒーリング効果があるのか。
私は両足に力を込めて、襲いかかってきた二体のキョッカイーの掴み攻撃をかわした。
間髪入れずに、最初のキョッカイーが猛スピードで蹴り攻撃を仕掛けてきた。あまりの速さに、反応が追いつかな…………いや、追いつけるぞ。
「ふんっ、はあぁっ!」
カウンターキックが決まり、最初のキョッカイーは地に伏した。
私はすかさず右手に集中し、武器を発現させた。弓型の武器だ。そのまま勢いを殺さずに駆け出し、走ったまま流鏑馬の要領で次々に二体のキョッカイーへと矢を命中させてゆく。いや、流鏑馬なんて未経験だけどね。このコスチュームでは、なかなか器用な芸当ができるようだ。魔力で作られた矢は瞬時に装填されるため、連射も余裕。
二体のキョッカイーは狼狽し、膝をついた。
「あとがきの言葉は決まったかい?」
『『咲いた恋の花の名は。』・デ・ブックエンド!』
渾身の力で弓を引き、会心の一撃。十分に魔力のこもった矢は二体のキョッカイーを貫通し、同時に撃破できた。
|……『燐火の響き』に登場する「倉田邑」のキョッカイーを使ったのは失敗だったか……」
トートイはそう呟くとテレポート魔法によって姿を消した。
……そうか。同じ登場人物でも作品ごとに書き手の解釈が異なることがある。あのハンバーグ投げのキョッカイーは『咲いた恋の花の名は。』に登場する「倉田邑」のキョッカイーじゃなくて『燐火の響き』に登場する「倉田邑」のキョッカイーだった、ということか。
……つまり。
「……『燐火の響き』のシオリーを彼が持っているってことは、『燐火の響き』に登場するキャラっぽい人間が犠牲になっているかもしれない……ってことだよね」
……救えなかったんだ。
戦闘には勝利したのに、私の心は晴れなかった。
◆
「妃陽李。リンゴ剥けたから、ほら」
「ん、ありがと」
「また本に夢中になって……」
「本を読んで知識を増やすのは良いことよ。ほら、あの本の作者のナントカって人がこう書いてたのよ。えーっと……忘れたわ」
「身についてない……。……わたしが本屋の娘だからって、妃陽李がウチに合わせなくても……」
「……将来明乃の家に嫁ぐつもりなんだから、ちょっとくらい本に興味持っておかないと駄目だと思わない?」
「嫁ぐって、そんな大げさな。わたしは、妃陽李といられるだけで……」
「大袈裟じゃないわ!」
「急に大きな声出さないでよ。わたし達しかいないとはいえ、一応病室なんだから」
「それは……ごめんなさい。でも……ほら、この前変な男に『尊い犠牲となれ』みたいなこと言われて……なんか襲われたじゃない。運良くあたし達二人とも意識が戻ってこうやって会話できてるけど、もしあたしだけ置いていかれたら……」
「……そうだね。全然大げさなんかじゃなかった」
「……それにしても、廊下の方がずいぶん騒がしいわね」
「なんだか揺れてる気もするし……地震かな」
『届け! 天使の光!』
「「???」」
「え……なに今の声」
「さあ…………?」