「咲いた恋の花の名は。」編 part1
「う、うぅ……」
別に悲しい訳じゃない。
悲しくはないけど、涙が溢れて止まらないよ。
「原稿……やっと……終わった…………」
締切十五分前に書き上げて、チェックもろくにせずに送っちゃったけど、大丈夫だったろうか。……大丈夫だったと信じたい。
……まあ、とりあえず。
「シャワー浴びよ……」
冷や汗をかいた体を洗うために、私、十深石ツカサは重い腰を持ち上げた。丸一日足を踏み入れてなかった洗面所兼脱衣所の電気を点けて、鏡を見た。めっちゃやつれてた。
次に部屋着にしている薄い黄色のスウェットとズボンを脱いで、足元に置いてある洗濯カゴに放り込む。洗濯物、溜まってきちゃったなぁ。
両腕を回してブラのホックに指を掛けると、ブラと背中の間に付いていた生ぬるい汗が指について、なんだか気持ち悪かった。早く洗い流さないと。
ようやく最後の一枚。黄緑色のショーツに指を掛け、そのまま下ろしてゆく。
「アレ」は……うん。貼り替えないとだね。私は洗面台の下にある収納スペースの観音扉を開けて、替えの「アレ」を取り出す。そして貼り替えようとしたのだけど……この際だから下着も替えちゃおう。……もっと計画的に動けば、すっぽんぽんで部屋を移動してタンスを漁らなくてもよかったのに。次からは気をつけよう。次からは……ね。
さて……と。着替えも用意できたし、さっさと汗を流してしまおう。
◆
「3200円です」
「はい……。えくしっ」
時既に遅し……だったのだろう。シャワーを浴びるのが遅かったのか、はたまたあのタイミングでシャワーを浴びてしまったからなのか。
とにもかくにも私は、風邪をひいてしまった。シャワーを浴びたあとすぐに仮眠をとって起きたら喉イガイガ、鼻水ダラダラの状態になっていたのだ。
なんとか病院までたどり着き、今はその会計を済ませているところだ。この時期はインフルエンザが流行っているから一応病院に来たけど、ただの風邪でよかった。……よかった?
「300円のお返しです。お大事にどうぞ」
胸ポケットに「江倉智邑」と書かれたネームプレートをつけている事務員さんからお釣りをもらって、薬局へ行こうとしていた……そのとき。
ガラスが割れる音が、聞こえてきた。
熱っぽい体を翻して病院の出入り口の方を見ると……ああ、なんでこんな時に。
外から、人型の異形の生物「キョッカイー」が近づいてきていた。
「そんなぁ。これから薬をもらいに行こうと思ってたのに……」
『リーダー・デ・ヨンダー!』
私は不満を言いつつも、左手にヨンダーを出現させて一ページ目を開き、そして閉じた。
「捲れ、運命の一ペー……げほげほっ!」
不完全ながらも呪文を唱える。いつも通り、足元の魔方陣から無数の紙が舞い上がって私のコスチュームを形成した。
「か、紙は骸、筆は羽……! インクnげっほげほが私を綴るぅ! 魔法書羽女…………ツカサへくしっ!」
もう初っぱなからフラフラだった。