「クチヅケホリック〜マスカレードの少女たち〜」編 part1
「入ってくれ」
「ここは……」
「私の道場、兼自宅だ」
私、十深石ツカサは先の戦闘のあと、橘利唯河先輩に連れられてここまでやってきた。
「おーい!」
彼女が二階へと続く階段に向かって叫ぶと、そこから二人の少女が降りてきた。私が逃がした、あの二人だ。
「紹介しよう。私の妻の、椎名とうさぎだ」
「あ、あのときの……」
「うん。私は十深石ツカサ。まあ……ちょっとした魔法使いさ」
「魔法使い……ですか。私は、東椎名。こっちは……」
「私は椎名お姉様の妹、東うさぎと申します。先ほどは助けていただき、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「あっ、あぁあいやそんな大したことしてないから。ふ、二人とも頭上げて? ほら」
「君のおかげで難を逃れた二人が、ここで瞑想していた私に君のことを教えてくれたんだ。だから私は、あの場に急行できた。私からも、礼を言う」
「いえいえそんな……」
「……それはそれとして……だ」
急に、先輩の表情が鋭いものに変わった。戦士の表情だ。
「あの霧に対して、君は為す術が無かった。今回は私が対抗できたから良いものの、君も策を講じないと次の襲撃に耐えられない。そうだな?」
「は、はい……」
確かに、先輩が来てくれなかったら私は今度こそ殺されていただろう。姉に救われ、先輩に救われ……。魔法使いとして、情けない。
「そこで……だ」
先輩は携行していた竹刀を私の眉間に突き付け、言った。
「君には特訓に付き合ってもらう」




