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「星花ミダレザキクルイザキ」編 END

「……私は君のお姉さんではない。……が、命を奪われそうになっている現場に出くわして見過ごしたりはしない主義でな。助太刀しよう」


 懐かしい声が、私の心に沁みてきた。


 私が顔を上げた先……キョッカイー達が視線を向けた先。そこにいたのは。


 私の中学時代の先輩、橘利唯河たちばなりいか先輩だった。


「先輩!?」

「ひさしぶりだな。卒業式以来……か」


 彼女は中学時代、剣道部の主将を張っていたほどの剣の使い手だ。でもいくら彼女といえど、右手に携えたその竹刀ではキョッカイーにダメージを与えられるかどうか。


 リーダー格か、もしくは切り込み隊長だったのだろう。黒猫のキョッカイーが、両手の巨大な爪を鋭く尖らせて先輩へ駆け寄ってきた。


「めぇぇぇん!」


 結果として、キョッカイーの爪は生身の彼女には当たらなかった。防具を身に付けている訳でもなく、ましてやコスチュームを纏っている訳でもない。ただの藍色の剣道着姿だ。敵が腕を振るう速度を即座に把握しつつ、それよりも早く、彼女は自身の竹刀を襲撃者の眉間へと打ち込んだ。

 それにより黒猫のキョッカイーは狼狽し、隙ができた。私が必殺技を撃てれば倒すまではいかずとも撤退くらいなら……と考えたけど、自前の低出力な治癒魔法で少しでも回復するのに手一杯でそんな余裕はなかった。


「……十深石とみいし

「はい……?」

「予め確認しておこう。……彼らは人か?」

「……いえ、あれはキョッカイー。ただの魔力の塊です」

「そうか。ならば散り散りにしてしまっても問題なかろう」


 そうですが……と言いかけたところで、私は思わずその言葉を飲み込んだ。


 先輩が横向きに竹刀を天高く掲げた。すると竹刀が白い霧のようなものに包まれたのだ。


『イースト・デ・クラウド!』


 霧のようなものが晴れた。

 そこには、私が見たことのない魔法具へと変化した「ただの竹刀だったもの」があった。長剣型の魔法具。魔法具から鳴ったのであろう男性ジェンダーの音声により、それが「イースト・デ・クラウド」という名称であることは分かった。変換時のあれは霧じゃなくて雲だったのか。……いやまあ実質同じものだけど。


 それにしても……「イースト・デ・クラウド」。「東で雲」……ね。やっぱりそういうことか。


「ふんっ!」


 右手で柄、左手で刀身を掴み込んだ先輩。彼女が力を加えると、イースト・デ・クラウドの刀でいうところの「鍔(つば)」にあたる箇所を中心点として刀身が大きく曲がった。よく見るとその辺りには円状の装飾があり、曲げられた方向にはアルファベットの「W」と刻印が施されていた。


セイ確に食らうど!』


 曲げられた直後にイースト・デ・クラウドから鳴った、何かの発動音声。……なぜに地方っぽい喋り方なのだろうか。


 内部にバネか、それに近い機構が備わっているのだろうか。彼女が刀身から手を離すと、それは自然に元の形へと戻った。


『バーニング・シュートだど!』


 技の名前らしき音声が鳴ったと思うと、彼女はイースト・デ・クラウドの刀身、その下側に手を添え、ショットガンを撃つような構えをとった。


 ……本当にショットガンの要領で火の弾が剣先から放たれた。あれ刀かもしくは剣タイプの武器であってるよね? 重火器じゃないよね?


「まずは一人」


 はっとすると、いつの間にか黒猫のキョッカイーが燃えていた。アレが直撃したのだろう。


「次は君だ」


なんナンとなく食らうど!』


 刀身が曲げられた。

 今度は「S」と刻印された方向だ。


『スピニング・タイフーンだど!』


 剣先から小型の竜巻が生み出され、鹿のキョッカイーを包み込んだ。鹿のキョッカイーはぐるぐるとその場で激しく回転し、呻き声を上げていた。なんとなく食らってアレなのか……。


 その光景を見た狐のキョッカイーが行動を起こした。私を追い詰めた、あの霧攻撃だ。


「先輩、気をつけてください!」

「問題ない」


 霧に包まれた先輩に提言したが……どうやら問題ないらしい。


とうトウとう食らうど!』

『ライトニング・スレイフだど!』


 新しい技だ。霧が晴れたかと思うと、先輩から少し離れた場所で狐のキョッカイーが苦しそうに転がり悶えていた。狐のキョッカイーに、バチバチと音を立てながら細い光が迸っている。技の名前からして、電撃を食らったようだ。


「そろそろ終いにしよう。帰ってくる者がいるのでな」





「そうだな。…………シカ、ブラックネコ、フォックス。帰るぞ」


 聞いたことのある声が、周囲に響き渡る。間違いない。トートイだ。

 空中に三つの魔方陣が現れると、三体のキョッカイーを瞬時に通り抜け、テレポートさせた。


 残されたのは、私達二人だけだ。

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