第3話 たった一言で変わる人生。
~2018年 7月~
インドでは真夏の暑さが続いている。
俺は家の中でクーラーをつけて曲を聞きながら、日曜日を存分に楽しんでいた。聞いていた曲は、スピッツの「チェリー」だ。少し古い曲だがリズムが好きだ。そんな感じでのんびりしていると、キッチンから怒号が飛んできた。
「卓・・・。あんた、来週中間テストでしょうが!曲聴いてる暇あるなら、塾の自習室でも行って少しくらい勉強してきなさい!」
忘れていた。そうだ、来週はテストがあった。しかも今回は、割と勉強しなければいけない範囲だ。
という訳で、1時間後俺は自習室にいた。自習室の中には複数の知り合いがいた。クラスメイトや後輩など、俺を含めて合計で4人だった。
その少し騒がしい自習室の中でひたすら数学の勉強をしていると、声をかけられた。クラスメイト達だった。
「おい卓。俺ら、今から飯食ってそのまま家帰るけどお前も飯食いに行く?」
「ごめん、いいわ。あと1時間くらい勉強してまっすぐ家に帰る。パンも持ってるし。というかお前ら飯なんかどこで食うつもり・・・?」
「え、屋台のカレー。卓の分も買ってこようか?」
「マジでいらないからやめて。絶対腹壊すなよ。」
「うぃっす。ほんじゃーね。」
「おう。」
こんな会話があって、俺は1人で黙々と自習していた。
そして腹が減ったので、パンを取り出して食べようとした時、1人の女子がやってきた。
水原さんだった。
一応、礼儀で挨拶しておく。
「こんにちは。」
「ど、どうもこんにちは。」
それで会話が終わると思ったその時、何故か水原さんから話しかけてきた。
「あ、あの・・・、いきなり初対面なのにすみません。柳原先輩、パン余ってます・・・?」
「あ、はい。一応2個買っておいたんで。」
「もし良ければ、1個くれませんか・・・?私、ダンス教室から直で来たんですけど、ご飯買いそびれちゃったんです・・。だから、もし、もし良ければ!」
「いいよ、はいどうぞ。」
「あ、ありがとうございます・・・!」
そこで会話を終わらせようかと思って、1人黙々とパンを食べる予定だった。しかし、俺の本能は何故かそれを許さなかった。
「じゃあ、水原さん。一緒に話しながら食べよう。」
なんで、こんなことを言ったのだろう。自分でも全く良く分からない。ただ、一つだけ言えることがある。
俺の人生は、この一言で大きく変わった。
それは間違いない。
まあ、そんな僕の提案に水原さんはすんなり承諾して、話ながら食べた。会話の中心はテスト勉強のことだったが。まあ、普通に楽しかった。
それからまた、俺は自分の勉強に移った。次は苦手な日本史をやっていると、30分くらい経った後にまた声を掛けてきた。個人的には、自己紹介であんなに恥ずかしがっていた人が2回も話しかけてくるなんて意外だった。
「あの・・・柳原先輩」
「ん、どうした?」
「あの、ここ教えてくれませんか。私方程式苦手で。」
「ああ、いいけど。じゃあ、一緒にやっていこっか。」
この頃にはもう、俺はタメ口になっていた。今思うと初対面の人なのに、本当に礼儀知らずだった。
まあそんな成り行きで、俺は20分ほど方程式を教えた。数学は得意なので、意外とすんなり教えられて良かった。
そして教え終わって帰ろうとしたが、その時に俺の携帯からLINEの通知の音が鳴った。そして、その音を聞いた時に、俺はふと思った。少しでも、興味が出た人とは一応連絡先を交換しておきたい。だから、水原さんとも連絡先を交換しようと。
「あの、じゃあ俺そろそろ帰るね。」
「教えてくださって、ありがとうございました。」
「いえいえ。それでさ・・・、もし良かったらLINE交換してくれない?」
「え、あ、いいですよ。」
「ありがとうね。じゃあ、これからもよろしく。」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「それじゃーね。」
「先輩、お疲れ様でした。」
こんな会話をして、LINEを交換して帰った。
この日、俺は初めて水原さんに興味を持った。
そしてこの日を境に、俺の人生は全てが変わっていった。