第2話 テンションの高さが・・・。
~入学式 翌日~
俺は、春休みでダラダラしていたがために身体が完全に訛っていた。だから朝起きる時も相当辛かった。まるで、枯れる寸前の花のようだ。
しかし、学校にいくとそれは俺だけではないことが分かった。皆疲れていた。とある1人を除いては。
「いやー、今日の1時間目の中学部の集まりすっげえ楽しみー。」
健斗だ。こいつはこういう時だけ、燃料満タンのスポーツカーのように元気だ。もしかしたら戦闘機かもしれない。
「健斗、お前元気だな・・・。あの美少女の名前が分かるからか?」
「そうだよー、それ以外に何があるって言うんだよー!卓楽しみじゃないの?」
「別にそんなに楽しみじゃないよ。話したかったら俺はそんな中学部の集まりなんか無くても自分から話しにいくし。そんなに楽しみなら、今すぐ隣の中1の教室行って話しかけてくればいいじゃん。」
「ごめん、無理。俺女子と話すの苦手。」
「あ、そうだったな・・・。」
そう、健斗は自称コミュ障。男子とはハキハキ喋るのにも関わらず、女子とは全く話さない。やむを得ず話しても、ガチガチなのだ。
「でもな、卓。俺はその子を見ているだけで幸せだから。」
「こういう奴がストーカーになっていくんだな。納得だよ。」
「ストーカーじゃないしー、覗きだしー。」
「いずれにせよ問題だしー。」
「黙れ。」
そんな感じで、1時間目が始まった。中学部全員いるため、体育館で全員が集合した。
「それでは、これから中学部による集まりを始めます。じゃあ、まずは新中1から自己紹介。」
俺の担任が大きい声で言った。
自己紹介は、皆至って普通だった。男子は、基本皆ハキハキとしていた。女子もまあまあだった。しかし、とある子はすごくモジモジしていた。健斗がすごく気にしていたあの子だ。自己紹介はこんな具合だった。
「あ、あの、えーと・・・水原菜々です。す、好きな食べ物は、枝豆です。よろしくお願いします・・・。」
俺は最初、何も聞き取れなかった。分かったのは顔が真っ赤で緊張していたことだけだ。だから、俺の水原さんの第一印象は、はっきり喋らない恥ずかしがり屋、というあまりいいものでは無い。
しかし健斗は、全てを明確に聞き取っていた。本当に、こういう時ばかり耳が冴えてるあいつは、相当な女たらしだと思う。
「自己紹介ありがとう。皆、とても良かったです!じゃあ、次に先輩からの挨拶。えーと柳原、頼んだ。」
は・・・。驚いた。というか焦った。俺は何もそんなこと事前に頼まれた覚えはない。
「え、いや聞いてませんよ!」
「当たり前だ、俺が言ってないから。」
「そんなこと聞いてるんじゃ・・・。まあいいです。じゃあ話しますよ。」
同級生や中3の先輩から何故か歓声があがった。俺が話そうとするとこういう雰囲気になってくる。意味が分からない。話し上手ということになっているらしいが、実感したことはない。
「えーと、新中1の皆さん、中学部への進級おめでとうございます!多分、小学部から上がってきただけなので、実感は湧いてる人は少ないと思います。というか少なからず俺の1年前はそうでした。
まあ、この中学部に上がってきて今1番緊張しているのは、そして中学部に上がった実感をしているのは今回転入してきた中1の5人だと思います。慣れない学校でまだまだ大変だとは思いますが、頑張ってください!
そして、小学部から上がってきた中1の皆さんも早くこの中学部の空気に慣れてくださいね。以上ですー。」
表面上は冷静だったが心の中では緊張していた。だけど、アドリブは得意で本当に良かった。
自己紹介が終わったあとは、レクリエーションでドッジボールをしたくらいだ。
そして教室に帰って、健斗が俺に対して発した第一声はこれだ。
「水原さん、顔真っ赤でかっわいい!」
ああ、本当にこいつは変態だ。
それから3ヶ月間俺と健斗の間には、そして健斗と水原さんの間には何も変わったことは起きなかった。唯一俺が慣れなかったのは、健斗が1日15回くらい「水原さん可愛い!」と俺に報告してきたことくらいだ。こいつの女たらしの酷さがよく分かった。
しかしその後、自分では想像もつかないような変化が起きるのだ。いや、自分だけではない。皆想像のつかないようなことが。