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第1話 興味の湧かない入学式。

短い間だった。



あっという間だった。まるで、桜の花が散っていくように。



だけど、本当に幸せだった。



本当はこんなところにいたくはない。



けれど、まだあの約束が残っている。



僕が絶対に果たしたい、約束が。



あの約束を達成できるのは、いつだろうか。



いつになるか分からない約束を胸に、前を向いて進んでいこう。



これは僕のちょっと風変わりな、だけど大切な、忘れてはならない思い出を紡いだお話だ。

 ~2018年 4月~


 スマホのアラームがなる。重い身体を強引に持ち上げて、アラームを止める。そして、スマホに表示された日付を見る。


[4月11日 水曜日]



「・・・やばっ!」


 飛び起きた。今日は、始業式だった。



 呑気に春休みの優雅な朝を謳歌してる場合では無かったんだと、歯を磨きながら気付かされる。昨晩アラームを早くかけなかったことを後悔した。



 本来ならば、少しウキウキしながら始業式の朝を過ごしているはずだが、そんな余裕など微塵もない慌ただしい朝だった。我ながら情けない。



「卓、朝ごはんどうするの?」


「もうすぐスクールバス出ちゃうじゃん!そんな余裕ないって。」


「でもまあ、インドの大気汚染でどうせ渋滞してるからバス自体遅れて来るでしょうけどねー。まあ、気を付けて行ってらっしゃい。」


「母さんの言う通りだけど、とりあえず行ってくる。じゃあね。」


 まあ、実際母さんの言う通りバスは遅れてきた。でもそこまで渋滞はしていなかったので、予定通り学校には着いた。



 そう、我らのニューデリー日本人学校に。軽い自己紹介になってしまうが、僕はインドに住む中学1年生、いや今日から中学2年生だ。インドで暮らしてもう二年が経つが一向に慣れない。まあ、そんな自己紹介はどうでもいい。



 教室に向かおう。今日から新しい教室だ。まあ造りも位置もそんなに変わらないが。



「おっはよー」


「お、卓か。おはよう。」


「よう健斗、春休みどうだった?」


 久しぶりに健斗と話す。正直、親と話すよりこうやって友達と話していた方が楽だ。



「まあ、日本に行ったくらいで暇だったよ。」


「なるほどな。でも今日は始業式だけだし楽だな。」


「は・・・。お前今日入学式もあるだろ。今までの小6が中1に上がってくるから。さては忘れてたな。」


 やってしまった。そうだ、入学式があるのを忘れていた。忘れなさそうな行事だが、入学する当事者以外は忘れがちなこの行事。とは言っても、先月まで同じ校舎で勉強していた小6が中1になるだけだからあまり新鮮味はないが。



 ニューデリー日本人学校は、小学生も中学校も同じ校舎で勉強するのだ。だから、休み時間などは小さい子供の騒ぎ声もよく聞こえる。



「やっちまった。忘れてたぞ・・・。」


「まあ、この行事は忘れがちだよね。卓らしいよ。そういえば、新しい中1には転入生何人来るんだろ。」


「さあ、俺らが中学部の入学式の時は4人新しく転入してきたよね。」


「確かそうだな。あ、じゃあ名簿見に行くか。」


「いいねー、そうしよ。」


 という流れでとなりの中1の教室に名簿を見に行くことにした。今までの小6の名簿と比べて、見慣れない名前を探すだけの単純な作業だ。



「あ、あとこの子もじゃね?」


「健斗探すの早すぎるって・・・。まあ合計5人ってわけだな。多いなー。」


「まあ、入学式の時にお顔拝見といきますか。何せ今回女子の転入が多いから、可愛い子いるかもなー。」


「この女たらしが。健斗はそんなんだからカッコイイくせに彼女ができないんだよ。」


「黙れ!」


 そんなたわいもないことを話しながら始業式、そして入学式に向かった。



 始業式は何も無く、無事に終わった。そして入学式。



「新入生 入場」


 教頭先生の大きな声で、新入生の入場から始まった。俺は新入生に、そして新しい転入生の顔ぶれにあまり興味が無かったのでただのんびり入学式の2時間を過ごしていた。



 ただ、健斗はそうではなかったらしい。教室に帰る時にそう分かった。



「卓、見たか?」


「何を。今俺が見えてるのは近すぎるお前の顔だけだ。」


「おっと失礼。いや、めっちゃ可愛い子いたんだよー。すごい目が大きくて、優しそうな子!」


「あ、そうなんだ。俺はあんまり興味無いから見てなかった。1番印象に残ってるのは大きい教頭先生の声だし。お前、自分がその子の先輩だからって下手に手出すなよ。」


「わかってるよー。でも後ろからしか見れなかったから名前が分からなかった・・・。」


「じゃあ明日の中学部全体の集まりで、どうせ中1全員からの自己紹介があるから、その時がチャンスだな。」


「だなー。よし、明日学校に来る意味が出来た!」


「意味にまでなっちまったのか・・・。」



 俺はこの時思いもしなかった。健斗が推していたその女の子と、深い関係になるなんて。

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