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ティア、十六歳の儀式

 翌日の朝、ドラゴニアではティアの十六歳の誕生日の儀式が行われようとしていた。儀式の場所は城の一室、天井の高い広い部屋。儀式用の白い衣装に身を包んだティアが父である王の前に出る。王の隣には王妃、大臣、騎士団長らが席を並べる。王の前に片膝を着くティア。王が厳かに口を開く。

「テイア・ドラゴニア・シュナイゼル、十六回目の誕生日を迎え、古の血を目覚めさせる」

 ドラゴニアの民の子供は人間の姿で産まれる。子供のうちは竜の姿と力は身体の奥底に眠っている。それを十六歳の誕生日に目覚めさせるのがドラゴニアの大切な儀式だった。もちろんこの儀式は王室だけで無く一般の家庭でも行われる。

 光に包まれるティア。その背中に一対の翼が出現したかと思うと身体が大きな竜の姿に変貌する……筈だった。


「あれ、どうしたのかな?」

 ティアの姿は竜に変わらなかった。ざわめき始める大臣達。

「どういうことだ?」

「竜の血がティア様には眠って無いというのか?」

「そんな……まさか……」

「これではティア様は王位に……」

 そんな大臣達にティアは気丈に言い放った。

「私の竜の血が眠りから覚めないのであれば弟のワインが王位に付けば良いだけの話です」

 静まり返る室内に、難しい顔の王の声が響いた。

「ティア、それでも構わないのか?」

「ええ。竜の血を目覚めさせられない以上は王位に付く資格は有りません。なにより、女の私が女王となるより男のワインが王となった方がドラゴニアの為かと」

 ティアの言葉が終わると王の目は父ジェラルドの優しい目になった。

「そうか。だがティア、竜の血が目覚めなくともお前は私の愛する娘なのだ。それは変わりはしないのだよ」

 優しい目の王は彼女に言葉をかけると、儀式の参列者に言った。

「すまんが今日のところは解散とする。皆、ご苦労だった」

 王の声を聞き、大臣達は一人また一人と席を立ち、扉に向かった。

「なんだってこんな事に……」

「まさかティア様に竜の血は……」

 扉に向かう大臣達が小声で囁き合う中に鋭い声が響いた。

「口を慎め!」

 騎士団長のデュークがざわつく大臣達を一喝したのだった。

「王も仰っていたではないか。竜の血が目覚めなくともティア様はティア様。我等の姫様である事に変わりは無い!」

 デュークの勢いに気圧されながらも一人の大臣が振り返り、何か言いたげに口を開く。

「しかし騎士団長……」

「まだ言うか?」

 デュークはぐずぐず言う大臣を怒りを押し殺した目で見据えながら剣に手をかけた。

「我等騎士団は王家をお守りするのが努め。その名誉にかけて大臣と言えども……」

「ひぃっ!」

 腰を抜かして尻餅をつく大臣。そこで王が止めに入る。

「デューク、もう良い」

「しかし、この者はティア様のお気持ちも考えずにつまらん事を」

 怒りの冷めやらぬデュークを王が諌める。

「いいのだ。皆がうろたえるのも無理は無い」

「しかし、それを抑えるのが……せめてティア様の前では……」

 今にも剣を抜かんばかりのデューク。彼が剣を抜いてしまったら最後、大臣は一刀の下に斬り倒されるだろう。

「いいのよ、デューク。あなたのその気持ちだけで十分。ありがとう」

 自分の為にそんな事をさせるわけにはいかないと思ったのだろう、当事者のティアまでもが止めに入った。

「しかしティア様……」

「私は大丈夫。大丈夫だから」

 未だ承服しかねるといった様子のデュークを気使い、肩を震わせながらも笑顔を作るティアにさすがのデュークも鉾を収めるよりなかった。

 儀式の部屋を出ようとゆっくりと歩き出すティアの少し後ろに付けるデュークの目に映る彼女の背中は僅かに震え、いつもより小さく見えた。


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