バードリバーへ ~ドラゴニアとバードリバーの格差を思い知らされたガルフ~
翌朝、夜明け前。
「おはよう、よく眠れた?」
眠そうなティアを心配するガルフ。
「うん、とっても。ガルフは?」
嘘だ。ティアは、遠足前日の小学生と同じでなかなか眠れなかったのだ。
「うん、もちろん大丈夫だよ」
当然ガルフも同じである。
太陽はまだ顔を出していないが、辺りは明るくなってきた。
「コルド殿によろしくな」
眠そうな顔でジェラルドがガルフに言う。本当は土産物を持たせてやるつもりだったのだがガルフの技量ではティアと彼女の荷物を運ぶのが精一杯な為、何も持たせてやる事が出来ず、せめて見送りだけでもと起きてきたのだった。
「ティア、向こうで粗相の無い様にね」
心配そうな顔のドラゴニア王妃。つまりティアの母、サラ。優しそうだが母親だけあって締めるところは締める。
「ガルフ様、ティア様をよろしくお願いします。では、良い旅を」
デュークも早朝から見送りの為に顔を出してくれた。三人に見守られ、ガルフとティアは夜明けの空へと飛び立って行った。
「疲れて無い?」
空がすっかり明るくなった頃、ティアはガルフを気遣って言った。彼は一時間以上飛んでいる上に、ティアを抱きかかえ、背中には荷物を背負っているのだ。ガルフはまだまだ平気だったが、ティアは女の子、言い出しにくい事もあるだろう。一時間、長くても二時間に一度は休憩を取るのが女の子に対する気遣いというものだ。ガルフは目立たない様にとある町の外れに舞い降りた。
二人共この町を訪れたのは初めてだった。まだ朝早い為だろうか、人影はまばらで少し寂しい町に思えた。
「何か食べようか」
二人は開いている店を探した。しかしどの店もまだ開店時間前の様で扉は閉ざされている。
「しょうがないわね、ガルフが疲れてなかったら、私は大丈夫だよ」
健気に言うティア。しかし、ガルフには一つ心配があった。それはティアの生理現象だ。いくら風をコントロールして、彼女に直接風が当たらない様にしているとは言え上空は地上よりも気温が低い。身体がどうしても冷えてしまう。という事は……当然近くなるわけだ。女の子はそれを言い出しにくいものだから、男のガルフが気を使ってあげなければならない。
ガルフは開いている店をもう少し探すか、諦めてもう少し先の町まで飛ぶかを考えていると一件の店の扉が開き、「OPEN」の札がかけられた。
店は見つかった。しかし、確かめなければ事がある。
「すみません、コレ、使えますか?」
ガルフは硬貨を一枚店のおばさんに渡した。
「これはどこの国のお金だい? えっ、バードリバー? ごめんねお兄ちゃん。ウチじゃコレはちょっと……」
おばさんはすまなさそうな顔でガルフに硬貨を返した。肩を落とすガルフにティアが硬貨を数枚渡した。
「お父様から預かってきたの。何かあったら使いなさいって」
もちろん本当は彼女のポケットマネーだ。ガルフに『女の子にお金を出させる』という恥ずかしい思いをさせない為の方便。ガルフは切なげに彼女に礼を言うと、おばさんにそのうちの一枚を渡した。
「こ、こりゃドラゴニアの金貨じゃないか! お釣りが足りやしないよ!」
悲しくなるぐらいの扱いの差に、バードリバーとドラゴニアの国力の差を思い知らされたガルフ。
「ここはドラゴニアには近いけど、バードリバーには遠いから仕方無いよ」
ティアは気を使って言うが、慰めにはならない。ガルフ自身がその差をわかっているのだから。
「大丈夫だよ。いつかきっと、どこの国へ行ってもバードリバーのお金が通用するぐらいの国にしてみせるから。それより身体が冷えただろ? 温かい物でも食べようよ」
ガルフは笑顔を作って言った。しかし、彼の口はまだ止まらなかった。恥ずかしそうに、小さな声で言葉は続いた。
「……君のお金でだけど」
二人は温かい飲み物と軽食で身体を温め、また空を駆けた。何度か休憩を取りながらも太陽がすっかり登りきった頃、ガルフはティアに言った。
「バードリバーに入ったよ」
ガルフの声にティアはキョロキョロ見回すが、山と川、そして田園風景が広がっているばかり。よく言えば長閑、悪く言えばただの田舎だった。
「何も無い所だけどね」
恥ずかしそうに言うガルフ。もう少し飛ぶと、田園は町となり、その向こうに小さな城が見えた。
「あれがガルフのお城ね」
目を輝かせてティアが言った。夜明けと共にドラゴニアを出て、もう昼をとっくに回ろうとしている。ガルフと出会わなければおそらく訪れる事は無かったであろう国、バードリバー。小さく見えた城がどんどん大きくなってくる。ガルフは城の前に着地すると、抱きかかえていたティアをそっと下ろした。
「ガルフ様、お戻りになられたのですか!」
「メアリー様のご様子は?」
衛兵がガルフが戻ってきた事に対する喜びと、メアリーへの心配を口にする。
「だいぶ良くなったよ。彼女のおかげでね」
いきなり話を振られてあたふたするティア。
「わ、私なんか何もしてないです……逆に助けてもらったぐらいで……」
「でも、ティアと出会わなかったら、ジェラルド様がメアリーをドラゴニアで療養させてくれてる事も無かったんだから。やっぱりティアのおかげだよ」
にっこり笑うガルフに衛兵が恐る恐る尋ねた。
「あの、ガルフ様、こちらのお嬢様は?」
この質問にガルフが彼女はドラゴニアの王女だと答えると、衛兵は最敬礼。ティアは苦笑しながら敬礼を返し、ガルフに導かれて城へと入って行った。




