風使いの王コルドの妙技。だが娘は父親より母親の方が良いらしい。
そうこうしているうちに学校が終わったティアとガルフが城に戻ってきた。
「いよう、ガルフ」
「父さん!」
笑顔で手を振るコルドに驚くガルフ。しかし驚いているばかりではいられない。ジェラルドの面前という事も忘れて父に気になっていた事を質問した。
「母さんは大丈夫なの? 大臣は……?」
コルドは面倒臭そうに答えた。
「ああ、大臣と医者なら牢獄で頭冷やしてるよ。大変だったらしいぞ、母さん止めるの……」
もし、何か悪い事があれば知らせが来るだろうからガルフはそこまで心配はしていなかったが、『母さん止めるの大変だった』とはどういう事だろう? コルドの話では、ガルフの母であるバードリバー王妃シルフィはコルド以上の風使いで、数十本もの剣を風で同時に操り、大臣の全身を切り刻もうとしたらしい。
「だから言ったろ、母ちゃんに任せときゃ安心だって」
せせら笑うコルドだが、ガルフには『風で剣を操る』光景が想像出来なかった。風使いのガルフに想像出来ないのだ、ジェラルドとティア、そしてデュークにも想像出来るわけが無い。
「口で言ってもわからないか」
渋い顔で言ったコルドはガルフの頭の上にリンゴを乗せて部屋の端に立たせると、デュークに向かって言った。
「デューク殿、剣をお借りしてもよろしいですかな?」
デュークが腰の剣に手をかけ、コルドに渡そうとしたが、コルドは片手でそれを制し、受け取る気配が無い。
「コルド様?」
剣を貸してくれと言いながら、それを受け取ろうとしないコルドに戸惑うデューク。コルドはデュークから少し離れるとジェラルドに道化を気取って言った。
「芸をご覧にいれましょう」
彼の言葉が終わるや否や、デュークの剣がひとりでに鞘から抜けた。そして宙に浮き、切っ先をガルフに向けてピタッと止まった。まるで目に見えない何物かが剣を構えているかの様に。
「ガルフ、動くと死ぬぞ」
コルドが言い終わったと同時に宙に浮いていた剣がガルフの頭の上のリンゴを貫いた。
そしてリンゴが刺さったまま真っ直ぐコルドの手元に飛んできた剣をコルドは片手でキャッチした。驚きのあまり言葉が出ないガルフ達。コルドは剣からリンゴを引き抜き、刀身を自分の服で拭ってデュークに返した。
「お目汚しでした。おっと、剣も汚しちまいましたね。デューク殿、申し訳ない」
コルドが言うと、手を叩き、喝采するジェラルド。
「いや~お見事。さすがは風使い、風の力でデュークの剣を操っていたというわけですな」
「さすがはジェラルド公、おっしゃる通りです」
風属性の攻撃と言えば真空を発生させて敵を切り刻むとか、竜巻を発生させて吹き飛ばす等が考えられるが、風の力で剣を自在に操って狙った的を貫くとは。コルドはガルフに向かって言った。
「ガルフよ、風の力を借りればこういう事も出来る。お前の母はこうやって数十本の剣を同時に操る事ができるのだぞ。私が出来るのはせいぜい五本だがな」
五本の剣を同時に操れると言うことは、見えない五人の剣士が味方になってくれる様なものである。しかも、自分が安全な場所に居れば防御の必要も無く、攻撃のみに集中出来る。
コルドはガルフに風の力の使った戦闘方法の一つを教える良い機会だと考えて、ジェラルドの前で大道芸人じみたマネをしたのだった。彼はニヤリと笑うと剣を拭いた時に出来たリンゴの汁で出来た染みを見て焦った。
「あっ、また母ちゃんに怒られちまう。ガルフ、水くれ、水!」
リンゴの汁の染みと必死に格闘するコルドの姿はとても一国の王とは思えないものだった。
「父さん……ボク、恥ずかしいよ……」
コルドは周囲を騒がせながらもジェラルドと打ち解けてすっかり仲良くなり、更に酒が進んだ二人が王同士としてでは無く友人として大騒ぎした結果、呆れたメアリーに『もう来るな』と怒られ、泣きそうな顔で帰って行った。
「楽しいお父様ね」
笑うティアに対して兄妹二人して小さくなるガルフとメアリー。色々あったが、メアリーにとっては久し振りに父と触れ合った楽しい日、ガルフにとっては母の心配をする必要が無くなったと同時に母の恐ろしさを知ってしまった日となった。しかし、メアリーは寂しそうにぽつんと呟いた。
「お父さんは私の顔を見に来てくれるのに、どうしてお母さんは来てくれないのかな……」




