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奈落の星  作者: 居候猫吉
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賞金稼ぎ

 夜明けごろ、まだ空がうっすらと明るくなり始めるという朝とも夜とも区別がつきにくい時間帯。まだ夢の中にいたティティスはそろそろ慣れてきそうな違和感に目を見開いて体を起こす。

「なん………ですか。こんな夜に………」

 ベッドの傍らには見慣れた白い少女、モニカが相変わらず人差し指をティティスの胸に突き刺している。まるで子供のおもちゃのような扱いを受けている自分の胸が不憫だと、寝ぼけ眼の表情が苦笑する。

「時間だから、起こしに来た」

 少女はそう言うと突き出していた指と手をひっこめ、そのまま軽快な足取りで部屋を出てリビングへと消えて行った。

「時間?」

 窓の外はまだまだ暗い。こんな時間帯に一体何をしようと言うのか。

「ふわぁ………」

 大きなあくびと共にティティスは重い体を起こしてリビングへと出て行く。

「おっ、起きたか」

 そう言うのはベルリオ。右手には剣のようなものが握られているが、少し形状がおかしい。さらに親指くらいの物体をいくつも剣の中に組み込んでいる。

「あの………何をしているのですか?」

 ベルリオがしていることも、彼が持っている物も彼女は理解できない。

「ん? 武器の整備だよ」

「武器? その剣のようで剣でないようなものがですか?」

 ただただ武器と言われた不思議な形状の物を見て首をかしげる。

「これは『ガンブレード』だよ。剣と銃が一体化した武器だ」

 ベルリオの手にはショットガンのようにやや斜めに取り付けられた剣の柄。引き金があり、ライフル銃のような形状になっているのだが、その銃身に沿って剣の刃もついている。先ほど組み込んでいた親指くらいの物体はどうやら弾丸のようだ。

「それは………銃と剣を二つ持つのとどう違うのですか?」

 もっともな疑問だ。剣と銃を片手に一つずつ持てば、ガンブレードという武器を手にする必要は一切ない。剣と銃の役目を果たす武器をそれぞれ持っている。問題は一つになっているかどうかという点だけだ。

「そうだな。まぁ、遠近両用で戦いたいけど、片手も開いていた方が何かと便利って言う状態を納得させるのがこの武器だったってことかな」

 要は遠い敵には銃撃を浴びせ、接近した敵には剣で対応する。その際、片手が開いていた方が他の手段も取りやすくて便利と言う、やりたいことをとりあえず全部叶えるのに最適な武器がガンブレードだったということに過ぎない。

「時には市街戦、時には野戦、ゲリラ戦もあれば奇襲もある。その度に武器を変えていたら、不測の事態には間に合わないだろ?」

「そう言われれば………」

 相手が敵である以上、こちらの思い通りに動いてくれるはずがない。予測以外の行動をとられた時、予定以外の戦闘に不利な武器を持っていたら役に立たない。いかなる状態にも対応できて応用が利く武器を選んだ結果だ。複数の武器を持ち歩けばそれだけ重量がかさむ。速さを求められる戦闘ではそれすらも命の危険となりかねない。さらに言えば、複数の武器をそれぞれ鍛えるよりも、一つの武器に特化していた方が戦闘経験と言う面においてもプラスとなる。

「戦いにくくはないのですか?」

「まぁ、それが理由で使い手は極めて少ないけどな。でも簡単に言えばどんな武器も『慣れ』だろ。普通の銃だって慣れなきゃちゃんと扱えない」

 すでにそれだけの戦いを潜り抜けてきたと言いたいのか。ベルリオの言葉の端々には自信ともとれる雰囲気がちらほら見え隠れする。

「できた………」

 お気に入りのソファーに腰掛けてベルリオと同じくガンブレードの手入れを行っていたモニカ。可愛らしい彼女は相変わらず白いロリータ風ドレス。しかし、片手には一切似合わないガンブレードが握られている。可愛らしいドレスに相反する存在の物々しいガンブレード。このミスマッチは特に異様な雰囲気を感じさせる。

「予備の弾は?」

「ある………」

「空撃ちは試したか?」

「した………」

「刃こぼれは無いな?」

「うん………」

 お互いに武器のチェックを済ませたか確認する。そして準備が整えばいつでも戦闘を行える臨戦態勢だ。

「じゃあ行くか」

「うん………」

 出発するのに万全の状態だということの最終確認が終わる。これより二人は戦地へと向かう。その様子を見ているティティスはどこか別の世界の物語を目の当たりにしている気分だった。

「―――――で、ティティスは見に行くのか?」

「えっ………あっ………」

 今まで生きてきた世界とは一線を介した…いや、もはや次元すら違うのではないかと思える世界。それが今まで聖上で生きてきたティティスの足元のはるか下では毎日のように行われていたという事実を知ってゾッとする。平和は聖上に住む者達だけの特権と言ってもいいもので、ティティスは完全にその上に無知のまま胡坐をかいていたのだ。

 そんな異世界のものとしか思えない出来事に誘われるという事態に、彼女はすぐに返答をすることができない。言葉が喉の奥に詰まってしまい、上手く発せられなかった。

「無理はしなくていいぞ。最初は誰だって怖いさ。特にこの奈落に来たのがつい最近ならなおさらだ」

 奈落という世界に慣れていないティティス。彼女が行くにはまだ心の準備が足りない。起き抜けということもあるが、そもそも流血ありきの争いの場となれば未だかつて彼女はその光景を見たことがない。それを連想させるガンブレード、さらにモニカのような少女でさえそれを平気で手にするところがさらに恐怖心を高める。

「い………行きます」

 だが、ティティスは自らの意思で聖上を飛び出した。思い通りとはいかなかったが奈落で生きることになり、奈落という世界の常識を受け入れると決めた以上、彼女はもう奈落の住人だ。奈落の生活に慣れなければならず、奈落の感覚を少しでも理解しなければならない。それはできる限り早い方がいい。

「行きます。見学させてください」

 戦闘が自分に勤まるとは思っていない。だが、それを知らなければこの奈落を理解したことにはならない。奈落という聖上では想像もつかない世界。恐れを確かに感じながらも、怖さに身震いしながらも、自分がいて自分が立っている場所を自分で選んだという初めての自由という事実が、彼女の心を取り巻く恐怖を振り切って前へと進ませる原動力となっていた。

「じゃあ、俺からはぐれるなよ」

「………はいっ!」

「それと、明け方は冷える。これを羽織っていた方がいい」

 ティティスはベルリオの手から黒いロングコートを渡される。華やかなデザインなど一切なく、ただ防寒のためだけに作られたような武骨な上着。実に彼らしいデザインの上着だと、ティティスは受け取ってすぐに羽織った自らの姿を見てそう思う。

「準備はいいか?」

「はい、ありがとうございます」

 ベルリオの頼もしくも優しさの感じられる笑顔にティティスは心からの信頼を寄せていた。今まで聖上では上辺だけの笑顔や作り笑い、社交辞令の挨拶しか受けたことのない彼女にとって、ただの表情にこれほど心を動かされるなど初めての経験だった。

「モニカ、行き先は奈落郊外、東北方面の旧市街地だ」

「わかった………」

 ベルリオとモニカが玄関から出て行き、その後ろをティティスが好奇心と期待、恐怖と不安の入り混じった複雑な心境で後をついて行った。


 三人が到着したのは聖上へ向かう建物が中央に立つ都市の北東方面。奈落には数多くの人が住んでいるが、時に外敵からの襲撃を受けて住居区ではなくなる場所もある。逃げた人が残していった旧市街地。そこに外敵が住みついて奈落のほかの市街地が危険にさらされる。

 今回の仕事は旧市街地に住みついた外敵となる合成獣を退治することで奈落に迫る危機を軽減すること。そのために集められたのは掃除屋と狩人それぞれ二百人ずつの規模。さらに腕利きと思われる賞金稼ぎが何人も集まっている。

 今いる場所は旧市街地の入り口となる場所なのだろう。ボロボロの建物が左右に並ぶ大通りに大勢の人が集まっている。人の住んでいる気配がない旧市街地と、大勢の人が住んでいる市街地の境目。ここには人はまばらにしか住んでいない地区だと思われる。生活の断片が所々に見られるだけで、ほとんど無人の町としか感じられない。

「おやっさん。今日もよろしく頼む」

「おお、ベルリオじゃないか。今回の依頼を受けてくれたのか?」

「まぁな。稼がなきゃ食っていけない」

 ベルリオが仲良さそうに話すのは頭の前方が少し剥げた中年男性だ。背はそれほど高くはなく、恰幅がいいというわけでもない平凡な中年男性。腰には銃が装備されており、彼もまた戦闘要員の一人のようだ。

「ところで作戦は?」

「ああ、今は旧市街地を取り囲むように掃除屋が配備されている。それが終わったら狩人が旧市街地に突撃する。賞金稼ぎは狩人と一緒に行ってもらえるとありがたい」

「掃除屋に守らせて一匹も逃がさず漏らさない。そして狩人で攻めて片っ端から片づけていく…か。定石通りだな」

 旧市街地はまだ暗闇の中。少し明るさが出てきたがまだ早朝で、合成獣たちも動きが鈍そうだ。

「奴らは日中活発になる。夜だと同士討ちの危険性もあるが、明け方なら視界もある程度確保できて比較的安全だ。後は寝ぼけている合成獣を一掃してうまい飯を食うために帰るだけさ」

「確かに、飯はうまいに越したことはないな」

 中年男性とベルリオがともに笑っている。どうやらかなり仲は良いようだ。

「ところで今日はいつものお嬢ちゃん以外にもう一人連れがいるんだな?」

「ん? ああ、最近拾ったんだ」

「相変わらず世話好きだな。お前の家にある部屋、全部お嬢ちゃんで埋める気か?」

「ははっ、男としては面白いがさすがに騒がしいだろ」

「お前ならそれくらいの甲斐性はあると思うがね」

「買いかぶり過ぎだ」

 そうこう会話をしている間に掃除屋と狩人の配置が終わったという知らせが飛び込んでくる。その報告を受けるなり、ベルリオも中年男性も世間話の雰囲気から一変する。表情はキリッと引き締まり、雰囲気はどことなく近寄りがたく、戦闘モードへと切り替わったことがはっきりと見て取れる。これより先は無駄話の時間ではない。今まで雑談をしていた中年男性とベルリオ、彼らだけでなく仕事仲間や同僚と話していた戦闘要員たちが一斉に口を閉じた。

 そして狩人の隊長格だろうか。一人の体格の良い男性が火のついた矢を弓に番えて空を狙って引き絞る。そして間髪入れることなく火矢は空へと放たれ、旧市街地の古びた家に突き刺さる。

 それが合図となった。誰もが音をたてないように武器を構えて旧市街地へと足を進めていく。物々しい雰囲気の中、ギリギリまで音をたてないように気を配る狩人と賞金稼ぎ。そして旧市街地のどこかで銃声が鳴る。その瞬間、今まで物音を立てずに接近していた者達が一気に旧市街地を駆け巡り始める。

「う………わぁ………」

 呆然と見守るティティス。彼女の耳には旧市街地で行われている戦闘の音の代表格となる銃声が耳から脳へ、空気の振動が腹部から体全体へと響き渡る。

「今日は奇襲戦だ。近づけるところまで物音を立てないように近づいて、相手が気づくかこっちが攻撃するかで一斉に動きを隠密行動から攻撃態勢に切り替えるってわけだ」

 ガンブレードを手にしたベルリオがティティスに状況の説明をする。

「………まだ?」

 ベルリオの傍らでガンブレードを持って待機しているモニカは早く戦場へ行きたいのか、出撃の合図をベルリオが出すのを待っている。

「焦んな。今行っても大勢の乱戦の中でほとんど何もできねぇよ。最初は連携が取れた組織に任せておけばいい」

 そう言うベルリオはただ旧市街地で行われている戦闘をじっと見ながら、ガンブレードを持って立っているだけだ。そしてモニカはおとなしく言われた通りに動かない。まるでしつけられた従順な犬のようだ。

 そしてじっと待つこと数分、ベルリオがガンブレードを急に構えだす。

「ティティス。動くなよ」

「え?」

 近くにいた掃除屋達も武器を構える。モニカも無言で武器を構え、臨戦態勢となる。

「あっ!」

 次の瞬間、ティティスは言葉を失った。左右をボロボロの建物で挟まれた大通り。その大通りに巨大な獣が前方から迫ってくる。

 その獣の体は実に不可思議。四足歩行の狼のような体躯にトカゲか魚を連想させるような鱗が表面を覆っている。鋭い牙や大きな爪は人間を簡単に両断できそうな大きさ。それは体がさらに大きいことを意味している。

「ボスのお出ましだな」

 突如、周囲で銃声が一斉に鳴り響く。防御に当たっていた掃除屋達が一斉砲火で獣を倒そうと集中的に銃撃しているのだった。

 しかし、獣は体の表面を覆う鱗のせいか弾丸が当たってもあらぬ方向へ跳弾している。それはもはや生物が自分の力で持てる硬さを完全に凌駕している強度だ。通常の弾丸では全く効果が得られない。

「通常弾じゃ無理だな。モニカ、魔弾で足止め頼む」

「うん………」

 獣は一斉砲火にひるむことなく駆け出す。巨大な体を持っているのに加えて獣の俊敏さはそのまま。その速さは初速から恐ろしいほど早く、数秒もあれば集まっている人達にまで簡単に迫れる勢いだ。

 しかし、それを許さないのがこの場に残った者の責任。そしてこの展開を予測し、この場所を重要と考えた者の役目。

 旧市街地から続く大通りは現在人が大勢住んでいる奈落の市街地へと続いている。つまり、この場所の通過を許せば奈落の市街地は合成獣たちに蹂躙されるがままとなってしまう。それだけは絶対に許されない。

「魔弾………破傷烈風」

 猛烈な勢いで突進してくる合成獣。その足元を手に持つガンブレードで狙いを瞬時に定めるモニカ。そのガンブレードの銃身がうっすらと赤く光を放ったかと思えば、引き金を引くと同時にその赤い光は撃ち出され、瞬く間もなく合成獣の足元に着弾する。

「わぁっ!」

 悲鳴を漏らすのはティティス。それは着弾と同時に無意識に漏れた。

 赤い光は着弾と同時にまるで爆弾が爆発したように地面が爆ぜる。それは爆発の振動を周囲に響かせ、空気を震わせる。それほど激しい爆発のおかげか、突進してくる合成獣は足元を取られて躓いたように転ぶ。大通りのど真ん中で地面を転がり、両サイドに並ぶボロボロの建物に脚や顔が当たって派手に破片をまき散らし、道の半ばで停止する。

「最高の出来だぜ!」

「…え?」

 モニカの攻撃に返答するベルリオが彼女の攻撃を評価したのは既に走り出した後。ティティスは傍らに居たと思っていたベルリオが既にかなりの距離を走っていたことにまた驚いた。

 走り出していたベルリオ。彼は道路に転がる合成獣のもとにまで駆け寄ると、走っていた助走を生かしてガンブレードの刃の切っ先を合成獣の表面を覆っている鱗の隙間に突き刺して動かす。合成獣のどす黒い鮮血が少しだけ飛び散る。

 その血は生き物の血というよりドロドロとしたオイル。生き物のものとは到底思えない色と粘り。それが鱗の隙間から漏れ出してきている。血が出たということは、鱗が剥がれてその下の皮膚にも確かなダメージを与えたことを意味している。血が流れ出る鱗と鱗の境目、いわば合成獣の絶対的弱点となる防御の下の体を狙える状態となった。

 ベルリオはガンブレードを突き刺したまま、弾丸を撃ち出すための引き金に指をかける。ためらいはなく冷徹と冷静が入り混じった表情で、彼は即座に引き金を引いた。その瞬間、一瞬だけガンブレードが光を放つ。

「魔弾、裂破刺突!」

 光ったのは一瞬。光が収まるころには合成獣が起き上がろうとしており、ベルリオは切っ先を抜いて軽快なステップで合成獣との距離を取る。

 起き上がった合成獣が体勢を整えて間近にいるベルリオを睨み付ける。その睨む目はまだ離れているティティスにとって一瞬で金縛りにあう程の殺意のこもった恐怖。だが、その殺意のこもった睨みも長くは続かない。

 起き上がって睨みつけ、これから攻撃にも取り掛かろうとするはずの合成獣が大きく唸り声をあげてその場に倒れ込んでしまう。それはまるでサソリの毒が時間差でその体を死に追いやったかのよう。

「な………なにがいったい………」

 状況が一切理解できないティティスはただ目の前の光景に呆然としている。

「おやっさん。ちょっとそいつ頼むわ」

 ベルリオがそう言うと、すぐさまモニカが何かを察したかのように旧市街地へと走り出していく。旧市街地では依然銃声が鳴り響いており、まだまだ戦いが厳しいというのは遠くにいてもよくわかる。

「ああ、任せときな」

 ベルリオにおやっさんと呼ばれる中年男性が笑顔で手を上げる。その合図を見てベルリオもモニカの後を追って旧市街地へと足早に向かって行った。

「……………」

 ただただついて行くことができない状況に呆然としているティティス。そんな彼女に中年男性が優しく声をかけてくる。

「お嬢ちゃん、魔法を目の前で見たのは初めてかい?」

「え? あ、はい」

 まだ混乱した様子の彼女は我に戻り切らない状態で何とか返事を返したという様子だ。

「そうかい。じゃあ、今のはさぞかし驚いたことだろうな」

「はい。もう、何がなんなのか………」

 整理しきれていない頭を無理矢理冷静にして落ち着こうとしている。

「魔法の知識はあるかい?」

「少しは………かなり昔、科学の進歩に対抗して作り出されたと聞いています」

「うむ、化学は研究資金や文明の発達度合いで大きく差が出る。だが、魔法は要点さえ押さえていれば個人の努力である程度は補える。そのため、爆発的に魔法が世界に浸透してね。科学との融合を考える者もいて、結果は今のありさまだよ」

 科学の進歩により世界各国のパワーバランスが先進国や途上国、未開の国などで差があることが世界情勢の均衡に繋がっていた。しかし、魔法の普及によってそのパワーバランスは大きく崩れ、均衡していた世界は小さな争いからゆっくりと崩壊を始め、大きな争いを生み出して一度世界を滅ぼしたのだ。

 それでも生きている以上は生きていくしかない。世界をこんな風にした忌まわしい力でも使わなければ生きてはいけない。科学と魔法が生み出した負の遺産である怪物が世界中に跋扈する中、人々は生きるために科学も魔法も捨てることはできない。奇しくも世界を滅ぼした力が一度滅んで荒廃した世界を生きていく支えになっているのだった。

「魔法実験を受けた者が当然強い力を持つ。血筋に大きく左右される魔法の力。ベルリオは魔法に関して言えばかなり優れた血筋なのだろうな」

 旧市街地で暴れまわるベルリオの様子は実に戦い慣れしている。遠目に見ているだけでも、今回の戦いで傷を負うという姿さえ想像できない戦いぶりだ。

「まぁ、だからこそ『死神』と呼ばれるんだろう」

「死神? ベルリオさんが?」

 ティティスの記憶にある彼の立ち振る舞いからは想像もできない呼び名だった。

「なんだ? そんなことも知らんとあいつの家に転がり込んだのか? てっきりあいつの評判を知っているから転がり込んだのかと思っていたよ。まぁ、あいつに媚を売る奴は手が何本あっても数えきれん。そんな奴はならとっくに追い出されているか」

 何か納得するように中年男性は何度か頷いている。

「この奈落には戦いに特に優れた者には別名が付けられていてな。今は優れた戦士が十人もいる。彼らを一まとめに『十戦士』と呼ぶが、ベルリオはそのうちの一人だよ」

「そ、そんなすごい方だったのですか?」

「まぁね。十戦士の『黒の死神』ベルリオと言えばこの奈落で知らない者はいないだろう」

 ベルリオの説明を受けてティティスは驚きを隠せない。聖上に住んでいたころ、確かに有名な家の人などの名は人伝いに聞いたことがある。それでも家同士の友好関係などで付き合いが偏りがちで、接することすらまれな人も大勢いるのが普通だ。ましてや人気者にでもなれば知り合いであってもそう簡単に接触できるものではない。それがこの奈落には誰もが知っている人間が十人もいて、そのうちの一人が自分を助けてくれた人なのだった。

「その十戦士の他の方はどのような呼ばれ方をしているのですか?」

 ベルリオが黒の死神と呼ばれているのは着用する衣服が黒に統一されていることと、彼のずば抜けた戦闘力が死神を連想させるという点からだろうと予測がつく。名は体を表すとはよくいったものだ。

「十戦士の呼び名かい? これも知らないというのは不思議だな」

 中年男性はティティスを不思議そうな目で見ながらも、彼らの呼び名について教えてくれた。


・光の狙撃手

・魔弾の申し子

・破壊の銃火使い

・黒の死神ベルリオ

・風の処刑人

・妖艶の踊り子

・幕裏の傀儡師

・煉獄の料理人

・真紅の堕天使

・裏世界の影人


 ベルリオのように名は体を表すという呼び名ばかりではないのだろう。だが、また一つ奈落のことを知ることができたティティス。彼女は奈落の住人に近づいているという実感からくる小さな喜びをかみしめていた。

 そんな中、旧市街地へと住み着いた敵の排除を終えた狩人や賞金稼ぎ達が帰ってきた。負傷者は軽症者や無傷の者に肩を借りる。お互いの立場など関係なく、戦友として今日戦った者達が皆足を揃えて帰ってくる姿は実に壮観で心地よいものだった。

 これにより朝一番から始まった仕事は、珍しいくらい小さな被害で見事完遂された。報奨金は後ほど振り込まれると説明を受け、負傷者はそのまま掃除屋や狩人の手で医療機関へと運ばれていく。そして賞金稼ぎ達は各々の家へと帰還していき、ベルリオ達もまた同じように帰っていくこととなる。


 家に帰宅するなりモニカは自分のテリトリーであるソファーに横になって眠りにつく。戦いで疲れていたのか、それともこれが彼女のスタイルなのか、会って日の浅いティティスには全くわからない。

「綺麗ということにこの子は無頓着すぎます」

 ソファーで横になっているモニカに対してため息交じりに悪態を吐く。

「ベルリオさんも何か言って………」

 仕事があって終わった日はシャワーを浴びることができると聞いたティティスは、自分の体を綺麗にしてからでないと眠ることが許せない気持ちだった。それをモニカにベルリオの口から言ってもらおうと振り返った時、彼は再び出かけようとしていた。

「どちらへ行かれるのですか?」

「ん? ちょっとな」

 そう帰した彼の右手には紙に包まれた小さな花束が握られている。

「花束?」

 首をかしげるティティスだったが、すぐにその花の綺麗さに目を奪われる。

 五枚から八枚くらいと定まっていない花弁の枚数だが、その花弁は明るい色がカラフルで色鮮やかだ。一枚一枚がカラフルな花弁が花を形成している不思議な花。それをティティスは図鑑で見たことがあった。

「ポティスレイト・ラーラの花ですね」

「へぇ、詳しいんだな」

「図鑑を見るのが好きでしたから」

 ポティスレイト・ラーラの花は化学による大気や水質汚染、魔法による障害と影響を受けた中でそれらに適応して突然変異を起こして育った不思議な花である。花言葉は無く、実際に見ることも少ない希少な花と図鑑には載っている。何枚もある花弁の全てが全く違う色、もしくは違う複数の色を適当に置いたような混色という特殊な花であるため、図鑑でしか見たことの無いティティスの頭にも強く印象に残っていた。

「奈落でもこの辺りじゃそんなに珍しい花じゃない。花に茎に葉に根、どこをとっても有害で危険な花だ。生きている人を死に誘うのに十分すぎるほどの毒も含んでいる」

 それを聞いて彼の呼び名を思い出す。花を使って誰かに死を送ろうと言うつもりなのだろうと勝手な推測をして勝手におびえたティティスは無意識に数歩後退してしまう。しかしその勝手な想像を失礼だと頭を振って頭の中から消し去る。

「そうだ。あんたも来るか?」

「え?」

「女っ気があった方がいいだろうしな」

「え? えぇ?」

 勝手な想像がどんどん膨らんでいく。人を殺すのに十分すぎる花を手に持った彼の呼び名は黒の死神。一度は消し去った勝手な想像である誰かを殺しに行くのではないかという危惧が再び少しだけ蘇る。

「い………行き先はどこですか?」

 恐る恐る尋ねる。しかし勝手な想像をした彼女の様子とは裏腹に、ベルリオはあっけらかんと返答する。

「旧市街地」

「旧市街地? あっ…」

 先ほど戦いが行われた場所に再び出向くというベルリオ。彼の手に握られている花の意味がその時、ティティスにはようやく理解できた。

「来てくれるか?」

「はい。一緒に行きます」

 花束を持って出かけるベルリオにティティスはついて行き、再び家を出て旧市街地へと足を運ぶ。

 旧市街地へと続く道を無言で歩く二人。迎える者もいなければ見送る者もいない。二人を見つめる者もいない。風と足音だけの空間を二人は通り抜け、旧市街地の入り口に差し掛かる。

「………」

 旧市街地へと一歩踏み入れたところでベルリオは足を止める。それを見てティティスも慌てて足を止める。

 足を止めたベルリオはただ無言で花を旧市街地の地面にそっと置く。それから数十秒の間、彼は目を瞑って静止している。それは何かを祈っているようだ。

「戦いの後、毎回やられているのですか?」

「まぁな。聖上や地上がどうかは知らない。だが、奈落じゃ死んだらそれまでだ。墓もない、弔う奴もいない、墓参りに来るやつもいない。当然、花を持って来る奴もいない」

「どうしてするのですか?」

「他がやらないからってやらないままでいいわけじゃない。それに、俺が死んだときは花の一つくらい欲しいからな。自分がしてもらいたいことをやっているだけだ」

 持って来た花はポティスレイト・ラーラの花。花言葉は無く、有害でしかない。だが、見る者の目には色鮮やかに美しく映る。その花は他のどの場面にも使えない。だが、ここにだけは似合う。戦いで息絶えた人達には有害も何もない。色鮮やかな花を抱いてこの世を立つことができる。見送る一人がいて、花があれば少しは心が和むだろうという死者への気遣い。その死に意味があるのかどうかさえ分からない荒廃した世界での戦死。それはまさに花言葉が無い花のよう。彼らにこそ、この花がふさわしいのだ。

「家族が死ねば悲しみくらいはあるだろう。だが、戦死した両親を持つ子供は一人だ。そいつが孤独のまま死ねば、悲しむ奴は一人もいない。それはさすがに死んだ奴が可哀想だろ? せめて、少しくらい華やかに送り出してやりたいだけさ」

 祈りをやめて旧市街地に背を向ける。ただこれだけのために彼は一日に二度、戦場へと足を運ぶのだった。

「花は貴重でね。高いからそんなに大盤振る舞いはできないんだ。好き嫌いには目を瞑ってもらいたい。ならいろんな色が混ざっている花だったら、どこかに気に入っている色くらいあるだろう」

 ベルリオはそう言って自宅への道を歩み始める。ティティスは最後にもう一度、旧市街地の地面に置かれた花束を見る。紙に包まれた小さな花束には花束と呼ぶのにふさわしくないのではないかと思うほど少ない九輪の花が花束として置かれている。

 そして立ち去っていくベルリオの後をティティスも追いかけ、旧市街地は再び無人の世界へと戻った。

 彼女が後になってから聞いた話だが、今日の戦死者は九名だったらしい。その話を耳にした彼女は、ベルリオという人間が冠している死神という名の意味を思い違いしていたのではないかと思わされる。人を殺すのが死神だと思われてはいるが、死んだ人間を冥界に送り届けるのもまた死神であるという解釈も存在する。ベルリオは前者の意味の死神という意味ではなく、後者の意味の死神という名を冠しているのだろう。ティティスは彼の呼び名に対してそう結論付けるのだった。


 その日の夕食時、ベルリオがそろそろ食事の支度をしようと部屋からリビングへ向かう。

「ん?」

 キッチンにティティスの姿があり、何やら悪戦苦闘している。

「ティティス? 何してんだ?」

 ベルリオがキッチンに近づいた時、ものすごく不吉な匂いを感じた。焦げ臭いわけでもなく、食材や香辛料の香りがするわけでなく、何とも表現しにくい香りだ。

「………ティティス?」

 不吉な匂いと共に不吉な予感がふつふつとわきあがってくる。

「あっ、わわわわ………」

 キッチンを覗き見た時、その予感は的中した。

「お前、何やってんだ?」

 キッチンではティティスが全くなれない様子で包丁を持ち、野菜と格闘している。

「料理です!」

 自信満々に答えるティティス。だが、ベルリオの表情は硬い。

「俺にはただ食材を処刑しているようにしか見えない」

 切り刻まれた食材がとりあえず食べられる物だけを集めてごちゃごちゃに混ぜられ、適当に火を通しただけのものが皿に盛られている。作り終えた料理はすでに冷めきっており、お世辞にもおいしそうとは言えない料理だった。

「お二人が外へ戦いに行って出稼ぎをするのです。なら私は家を守って家事ができるようにならなくてはいけません」

「どこのホームドラマだよ」

「今日の夕方、リビングのテレビで見た大戦前に普及していたホームドラマです」

 会話が成立しているようで成立していない。嫌みや否定の意味を込めて言った一言に真面目に反してくるティティスにどう対応すればいいのかわからない。

「お前の言いたいことは分かった。だが、とりあえず料理はできないよな?」

「大丈夫です。ドラマでもやればできると言っていました」

「できてねぇよ」

 料理を学んでからにしろと言いたかったが、それを言う前にまったく別の方向へと話の内容を変えられてしまう。

「まったく、ここからどう修正すれば………」

「ダメです! ここは今日から私の持ち場です!」

 キッチンへと足を踏み入れようとしたベルリオをティティスが仁王立ちになって止める。

「いや、そう言われてもな」

「私はどう頑張ってもお二人のように戦えません。命を懸けたやり取りは足がすくんでしまって無理です。ですが家事ならできないことはないはずです。掃除、洗濯、料理と私に任せてください」

「どこからその自信が来るんだよ」

 やる気満々で自信満々のティティス。しかし用意された食事を見る限りその自信に見合うものができているとは到底思えない。とりあえず食べられる物を適当な大きさに切った後、食べられる香辛料と調味料で味付けしただけのシンプルなもの。商売をするわけではないので見た目はそれほど気にしなくていいだろう。しかし、それにしても見た目の悪さは群を抜いていると言ってもいい。

「………しばらくは地獄だな」

 ティティスは意外と頑固者で思い立ったら一直線なタイプのようだ。ベルリオの制止など一切聞き入れるつもりはなく、自分が思った通りの料理を勝手に作っていく。レシピがあるのかどうか、それどころかレシピを見ることの重要性を知っているかどうかさえ疑わしい。

 ベルリオは大きくため息をついてキッチンから離れてリビングでテレビと向き合う。人生史上最悪の料理が運ばれてくるまでの時間、居ても立っても居られない気持ちを諦めと覚悟で押し殺し、ただ無心でテレビと向き合っていた。

 三十分後、夕食時にモニカを起こして自分の席に着く。そして運ばれてきた料理を見て愕然とする。

「ティティス?」

「はい。何ですか?」

「お前、味見はしたか?」

「味見? それはなんですか? 毒見なら知っていますけど」

 普通は毒見を知らなくて味見を知っているはずだ。毒殺するような奴がいるはずもない普通の食卓では味見が常識だ。だが、彼女は毒殺がありうる聖上の住人。味見をしたことも見たこともない彼女にとって毒見が常識で、味見等知識の中に存在しないのだ。

「最悪だ………」

 目の前に並んだ皿には生焼けの肉と野菜が彩悪く盛られており、鱗を削ぎ落していない内臓もそのままの魚の丸焼きなど、どう考えても異様としか思えない料理がテーブルの上にずらりと並んでいる。その量はどう考えても一人一人分ではない。さらに料理が放つ香りがおいしそうという感覚を掻き立ててくれない。本来なら空腹感をくすぐり、食欲を掻き立てるはずの料理の香りが、様々なものが入り混じった気持ちの悪いものとなってしまっている。もはや香りと呼べるものではなく、匂いを通り越して臭いへとなり下がろうとしているくらいだ。

「料理って楽しいですね。勢い余ってこんなに作っちゃいました」

 笑顔のティティスの満足感はとりあえずおいておくとして、これだけの量を作れば当然それだけ備蓄してある食材が減ったということに他ならない。食材を手に入れるのも無料ではない。恐らくティティスはそれすらもわかっていないのだろう。

「育ち盛りと男性はよく食べるとテレビが言っていました。たくさん食べてください」

 明らかに一人分以上の量が並んでいる上に料理と呼べるものが皆無な異様な食卓。モニカはさっさと食事に手を付け始めるが、ベルリオは食事に手がなかなか伸びない。

「うー………失敗です。明日はもっと頑張りましょう」

 ティティスは自分の前に並んでいる料理を一口食べて残念そうな顔をしている。それを見たベルリオはさらにこの異様な食卓に呆れてしまう。

 なんと、三人の前に並べられた料理が全く違うのだった。異様さは変わらないものの、メニューが全く違う。頼んだわけでもないのに適当にメニューを作り、適当に配膳したとしか思えない状況だった。

「マジかよ………」

 一口、料理を口に運んだベルリオは後悔した。少しでも見た目に反しておいしいかもしれないという希望を持ったことがそもそもの間違いだった。食べた料理は未だかつて感じたことのない味。とても料理と呼べるようなものではなかった。

「ご馳走様………」

 ベルリオが料理の処理に悪戦苦闘している最中、モニカが食事を終えた。

「おい、残ってるぞ?」

「必要な量は食べた………」

 必要な量となる皿だけを綺麗に食べ終え、さっさとソファーへと行って眠ってしまう。

「くっ、心が無いモニカが今日だけは羨ましく感じる………」

 ベルリオの心からの本音だった。心が無い彼女は味覚にも興味がない。美味しい物と不味い物を区別せず、食べられる物を必要な量だけ食べるというのが彼女だ。ベルリオは自分もそういう風に味覚を無視して食べ、さっさと食事を切り上げられればどれほどいいかと思った。

「うぅ、少し作りすぎてしまいました」

 そう言うとティティスが席を立つ。

「すみません。明日はもう少し少なめに作ります」

「え? ちょっと待てよ。まさか………」

「後はよろしくお願いします」

 ティティスも目の前の数皿を食べてギブアップのようだ。どうやら彼女の目の前には彼女の好物があったのかもしれない。多少不味くても好物で自分が作ったものなら我慢して食べられる。だが、さすがに多すぎた量を始末するのは難しい。

「勘弁してくれよ………」

 ベルリオの目の前に残った料理はどう見積もっても一人分ではない。しかもその全てが料理と呼べるようなものではないほど不味く、さらにほとんどの皿が完全に冷め切っている。それが四人前、多く見積もれば五人前以上ある量がベルリオの前にあるのだ。

「ふっ、どうやら今日はかなりの厄日らしいな」

 もはやそこには諦めしかない。完全に諦めたベルリオは覚悟を決めて食事を口に運び続ける。冷めきった生焼けの肉など食べられたものではないが、金がかかった食材を無駄にするわけにもいかず、翌日に持ち越したくもないという思いからただただ食べ続ける。

「ティティス………明日から料理の特訓だ。それも最強のスパルタで………」

 折れそうな心を何度も持ち直しながら、切れそうな意識を何度も繋ぎ合わせながら、何時間かかるかわからない戦いにベルリオは挑み続けるのだった。


 どれだけの長期戦を終えた後かわからない。ベルリオはただ一人机に倒れ込むように臥せっていて身動きが取れない状態だ。今にも吐き出しそうな腹部の逆流の圧力に耐え、体の中が落ち着くのを待つ。

「ベルリオさん」

 そんな彼の前にシャワーを浴びてスッキリしたニコニコ顔のティティスがやってくる。シャワーを浴びたばかりということで濡れた髪に色気が感じられる。しかし今のベルリオにはその色気に反応するだけの余裕はない。

「あぁ………なんだぁ………」

 しばらく一人にしておいてほしいと思っていたベルリオだが、呼びかけられて無視するわけにはいかない。未だかつて出したことのない弱々しい声で返答している。

「食事の話なのですが………」

 自分で自分の料理を食べて少し反省したのかもしれない、とベルリオは思った。さすがに今まで一流の料理人が作ってくれた聖上での生活とは違い、自分で作った料理と今まで食べてきた料理の差は痛感したはずだ。

「一日二食は健康によくありません。お仕事で昼間開けることが多いのはわかりますが、一日しっかり三食食べるように心がけましょう。そうすれば私も料理をする回数が増えて練習にもなると思うんです!」

 どうやらすべてはベルリオの思い違いのようだ。彼女は一切料理をやめる気が無く、それどころか料理の回数を増やせばいずれおいしい物を作ることができるようになると思い込んでいる。やればできる、数をこなせば経験になる、という理論。確かに数をこなせば上手になるかもしれない。しかし、その過程で忘れてはならないことがある。

「明日の朝は………外食だ」

 ベルリオは残った力を振り絞って明日の予定を口にした。

「外食?」

「外で食う。そしてお前のためにもなる」

「それはどういうことですか?」

「行けばわかる。今は説明する気力がない……………」

「はぁ、わかりました」

 ベルリオはそのまま机に倒れ込んだまま会話を終えると、まだしばらくその姿勢のままでいた。ティティスはとりあえず言われるがまま、明日の朝を迎えることにした。


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