俺、迷子に出会っちゃいました
「へー。じゃあ、お兄さんもこの町に来るのは初めてなんだねっ!?」
「まあな、俺って結構遠いところから来たからさ。ここら辺のこと、まだあんまり慣れてないんだよね」
俺は、さっき声をかけてきた迷子だという女の子と話しながら夜市を歩き回ってていた。
「それにしても、こんな夜遅くに迷子って、災難だったな。お父さんは、冒険者かなんかなのか?」
俺がそう聞くと、その女の子はうなづいた。。
「うーん、まあ、そんなとこかな!お兄さんも冒険者なの?」
「そうだよ。今日は武器でも見ようと思ってきたんだけど、まあ、困ってる人がいるなら、そこまでのようでもないし、付き合うさ」
俺がそう言うと、女の子はとても嬉しそうにしている。
「ところで、なんで俺に話しかけてきたんだ?他にも人、いっぱいいただろ?」
すると、女の子は満面の笑みで微笑みかけてくる。
「うーん、ここにいる人たち、みんな顔怖い人たちが多いからさー。声かけづらかったんだよー!それに、私とかお兄さんみたいな黒髪黒目の人って、ここら辺だと珍しいでしょ?だから声をかけても変な目で見られちゃうんだよねー」
確かに、この世界にきてから、俺のような黒髪黒目の日本人、といった様な顔はほとんど見かけていない。どちらかというと、西洋人とのハーフみたいな顔つきの人ばかりなので、人だけ見ると海外に来てしまったような感覚だ。
「なるほどな。そういえばお前、話し方とか、見た目の割に結構大人びてるけど、歳は実際いくつなんだ?」
俺がそう聞くと、女の子は頰を膨らませてこちらを見ている。
「お兄さん。名前も知らないレディーに年齢を聞くのは失礼だよ!!」
う、まぁ、確かに。確かに俺はこの子の名前すら知らない。
「そ、そうだね。ごめんな。失礼なことを。俺の名前は……」
俺が慌てて名乗ろうとすると、女の子は「あ!」と声をあげた。
「あ、お父さんだ!!お父さーん!!」
女の子は、お父さんと呼んだ男の人の元に駆け寄って行く。
「お、おい、どこ行ってたんだよ!探したぞおい。それに、お父さんって……」
よかった。これで安心だな。
「あのお兄さんが、一緒にお父さんを探してくれたんだよー?」
「あ、ど、どうも」
俺は、変に思われても嫌なので、一応挨拶しておいた。
「……あー。なるほどな。そういうことか。えっとー、あれだ。うちの娘が迷惑かけたな。」
なにやら女の子のお父さんはバツの悪そうな顔をしている。あれ、そういえばこの人も黒髪に黒目、なんか、日本人っぽい顔だな。それに、なにかーー
「ほら、それじゃあ、もう行くぞ」
「あ、うん!!ちょっと待ってて!」
女の子はこっちにかけて戻ってくる。
「えっと、ありがとね!お兄さん!おかげでお父さんみつかったよ!」
「ああ、なんの手助けもしてないけど、役に立てたならよかったよ」
俺がそういうと女の子は嬉しそうな顔をしている。なんか、何にもしてないけど、人に感謝されるといい気分だな。
「あ、私の名前はユエ!賢人お兄さん!それじゃ、また会えたら、嬉しいな!」
そういうとユエと名乗った女の子は手を振りながら走り去っていった。俺は、姿が見えなくなるまで手を振った後、さっき門番に教えてもらった、武器屋が集まっているという地区に向かって歩き始める。
あれ、そういえば俺、さっきの子に名前、教えたっけ?
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「で、どうだったよ、優依」
壮年の男は少女に声をかける。
「んー?あれが弥生お姉ちゃんが言ってた賢人くんかーって感じだね」
少女は、幼い容姿とは不釣合いな、大人びた笑みを浮かべている。
「まあ、今の時点では、俺らの脅威にもならなければ仲間に誘う価値もねえって感じだな」
壮年の男はふっと笑う。すると、少女は見下したような目で男を見る。
「大門、あなたの目は節穴なの?あなた、彼に不審に思われてたわよ?動きが洗練されすぎ、わかる人はわかるでしょうが」
少女がそういうと、大門と呼ばれた男は表情を引きつらせている。
「いやいや、だから言ったじゃねえかよ、俺はそういう隠し事とか相手の様子を伺うとか、そういうの苦手なんだよ……ん?ってことは、あれか?あいつのこと、仲間に勧誘するのか?」
少女は先ほどまでの表情とは打って変わって、今度は年相応の幼い笑みを浮かべている。
「んー、やっぱりもう少し様子見かなー。そもそも、閻魔大王が常に監視しちゃってるだろうしっ!私は顔が知られてるから、さっきローブで顔を隠してはいたけど……バレてるか微妙だなーって」
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俺は市場で一通りの装備を買った後、王城に戻った。まだ日が昇ったばかりということもあって、城門付近以外の場所では、まだ人も少ない。
暇だし、少し周りを散歩でもするかな。そう思って城の周りを歩いているとーー
「はっ……!たぁっ!やぁぁ……っ!!」
なにやら、向こうから威勢の良い声が聞こえて来る。
「あ、あら?皇賢人?朝、早いのね?」
どうやら声の先は城内に設けられている修練場だったようで、リサが朝から稽古をしているようだった。
「ああ、おはよう、リサ。朝、早いんだな」
俺が声をかけると、リサはタオルで汗をぬぐいながら答える。
「まあ、これが日課だからね。で、あなたも朝早いようだけど......稽古?」
「んーいや、俺はそういうわけじゃないんだけど。それもいいいかもしれないね。付き合おうかな……っと、そうだ、その前に聞きたいことがあったんだ」
俺がそういうと、リサはなんでも聞いてくれ、といった顔をしている。ここは、ご好意に甘えさせてもらおう。
「えっと、リサってそんなに腕細いのに、打ち合った時すごい力だっただろ?あれってどうやってやってるのかなーって。もしかして、魔法で強化してたりするのか?」
俺がそう言うと、リサはきょとんとした顔をしている。ん?どうしたんだ?
「え、あなた、昨日のあれ、魔力で肉体を強化しないで、素であんなだったの!?」
「え?ま、まあ。俺、魔法の使い方とか知らないし……」
すると、俺の話を聞いたリサはがっくりとうなだれている。
「いくら私も全力ではなかったとはいえ、まさか魔力強化なしで相手されてたなんて……」
何やら落ち込んでいるようだ。
「いいわ、肉体への魔力強化はそこまで難しいことではないし、戦ったことある人ならみんなできることだから、私が直々に教えてあげるわよ」