俺、やっちゃいました
俺たちは、王城の中の修練場に来ていた。ここ、始まりの町を守る駐屯兵たちが普段は訓練をしているようなんだが、今は外に出て行ってもらうことになった。今中にいるのは俺とリサ、エイルに羽衣だ。
羽衣には
「賢人といると、本当に飽きないのう」
と、ニヤニヤとされながら話しかけられてしまった。あいつ、こっちは大変だっていうのに絶対、楽しんでるよな。
「さあ、皇賢人、剣を取れ!」
「ああ、それじゃあ……」
先ほどのボルドーとの戦いで、初期装備の鉄の剣が折れてしまった俺は今武器を持っていいない。なので、倉庫から一通りの武器を持ってきてもらうことになった。
本当は日本刀が一番使いやすいんだけどな。
この中には無いみたいだからしようがない、これで我慢するか。
俺は様々な武器の中から長さは1mの片刃の直剣を手に取った。
「ほう、面白い武器を取るんだな。まあいい、準備はいいか?皇賢人」
「いいぜ、いつでも大丈夫だ」
リサは、腰にかけている細剣を鞘から抜かずに構えた。
「なんだ?その剣は抜かないのか?」
俺がそう聞くとリサはふっと微笑む。
「お前が抜かせることができるほどの者なら抜いてやる。行くぞっ!」
リサは真っ向から俺に向かってくる。さっきのボルドーに比べると随分遅いようだ。
俺は横薙ぎに払われるリサの剣を正面から受け止めた。
「ぐっ……重っ!?」
リサの剣撃はーー重かった。
その細腕から繰り出される想像もできない程の強い衝撃を、俺は身を浮かせることでどうにかやり過ごした。
「ほう、やるじゃないか、はっきり言って予想外だ。今のでやれると思ったんだがな。……どうやら、ボルドーを倒したのはまぐれではないらしい。手加減はいらないようだな」
強い。羽衣からは「この世界で、人を見た目で判断するでないぞ?お主の知る物理法則など、魔法でどうとでもなるのじゃからな!」と言っていたのを思い出す。
おそらく魔力を使って身体能力を強化しているんだろう。くっそ、ずるいぞ!それどうやってやるんだよ!!
「ふっ、まだまだ行くぞっ!」
一気にスピードが上がったが、追い切れないほどではなかった。俺は何度かリサと打ち合った。重いと分かっていれば受け切れないほどの力ではない。先程のボルドーとの戦闘で俺もレベルアップしていたんだろう。
それに、確かにリサは強いが、先程のボルドーよりもさらに、リサの剣は単調で読みやすい。よく言えば騎士として誇りある戦い方というのか、死角をぬって攻撃してくるのではなく、あくまで真っ向から叩き潰すという思いが読み取れるような、そんな剣だった。
俺が修めている九頭流は、基本的に後の先を取るのが得意だ。相手の動きを感じ取り、目線、仕草、癖などを最初の打ち合いでどれだけ読めるか、それが九頭流を修めるものががまず行う常套手段。それ故に、師範や兄弟子たちの剣は読みづらいことこの上なかった。
この感じなら、もういいか。
「はぁぁぁぁっ!」
「なっ!?」
俺が攻勢に出るとリサが驚いたような顔をしている。俺はそのまま、たたみかける。
右薙ぎ。
そしてその勢いのまま、左斬り上げ。
わざと大ぶりにして空いた胴に、リサはここぞとばかりに打ち込んでくる。
ここだっ!!
ー九頭流 剣術・守式弐型 薙撃龍 ー
俺はボルドー戦の時と同じ技を放った。
バキイッ!
細剣の鞘は折れたようだがリサの持つ剣は無傷だ。ボルドーの時のように武器を弾き飛ばすこともできなかった。武器が当たる瞬間に力を緩めていたのかもしれない。
リサはその衝撃を利用して俺から距離をとる。すると、自分の剣を見て驚いているようだ。
「あ、あんた武器破壊なんて持ってたのね。びっくり。それじゃあこの剣以外じゃ戦えないじゃない!」
「アーマーブレイク?」
俺が聞き慣れない単語を聞き返すとリサは呆れたような顔をしている。
「あんた、自分のステータスすらまともに理解していないの?見てみなさいよ」
一瞬気をとられている隙に攻撃でも仕掛けてくるかと思ったが、さっきまでの打ち合いからそれはないと確信した俺はステータスを確認することにする。
ステータス開示っとーー
皇賢人 17歳 男 異世界人
レベル :17
HP :78/109
MP :66/66
力 :83
耐性 :68
魔力 :65
幸運 :∞
装備 :鉄の剣
:皮の服
スキル :古流武術 S
:武器破壊 C
本当だ、スキルが増えてる?
「まあ、ボルドー戦の後すぐに連れてきちゃったのは私だからそのくらいは許すわ。で、もう確認は終わった?」
なんだかんだこの子結構いい子だよな。さっきも鞘に刀身が入ったままだというのに、剣の腹を向けていた。無意識なのかな?
「ああ、もういいぜ。それで、ようやくそのやばそうな剣を抜いてくれたのか」
「いいえ、この戦い、私の負けでいいわ」
リサはそっと俺に向けていた剣を下す。
「え?もういいのか?俺は全然構わないぜ?」
「いいえ、あなたが使ってるのはただの剣でしょ?そんななまくらとじゃ全然フェアじゃないし、鞘が砕かれた時点で私の負け。それにあなた、なんか私に合わせてたでしょ?なんか動きがぎこちなかったから分かるわ」
あ、バレてたのか。はっきり言って、さっきの戦い、何度か打ち込める機会はあった。だが、さっきも言ったようにこれは本当の殺し合いじゃない。それにーー
「それを言うならリサ、お前もだろ?なんか俺に打ち込む時、鞘に入ってるのに剣の腹で打てるように持ち替えてて、そのせいでワンテンポ遅れてたしな」
俺がそう言うと、リサは俺に手を差し伸べてくる。
「リサよ、ただのリサ・エインズワース。あなたのことは認めるわ、これからよろしくね」
「俺は賢人、皇賢人だ、こちらこそよろし……」
俺が、手を伸ばし、握手が成立した時。
リサの服が弾け飛んだ。