俺、英雄になるらしいです
「会いたかったですわっ!!!!賢人様ぁっ!!!」
……え???
「あああああ。会いたかった会いたかった会いたかったですぅ〜〜〜っ!!」
俺は固まっていた。先ほどまで凛としていた王女様が自分の胸によだれを垂らしながらグリグリと顔を押し付けている。えっと〜。
「あ、あのー。エイル様?これは一体......」
ーーーーーーーーーー
「さ、先ほどはすみませんでした。つ、つい……」
エイル様は、ひとしきり俺に抱きついた後、恥ずかしそうに顔を赤らめている。もじもじとしている様子も可愛いが……
「あの、エイル様?さっきのーー」
「様付けだなんてとんでもないです!!エイルとお呼びになってください!!それに敬語はやめていただきたいです!!!」
「あ、う、うん。分かったよ。」
うーん。さっきまでの大人びた気品のある雰囲気はどこへ行ってしまったのだろうか。先ほどリサから姫様の年齢は16歳と聞いて、年齢に似合わない王族の威厳というものに萎縮していた俺だが、今のエイルの様子を見るとーー
「ああっ!!目の前にっ!!ああ!!こっちを向いて!??きゃーっ!!」
なんかアイドルの前にいる女子講師みたいになってるぞ……
俺がげんなりとした顔をしていると、またもやハッとした様子で慌てている。
「ご、御免なさい!つ、つい興奮してしまって……」
「い、いや、それは全然いいんだけどさ。あまりにも最初の印象と違うからびっくりしちゃってさ。い、いつも、こんな感じなの?」
するとエイルはまさか!と机を両手で叩いた。
「これでも人前では王族然と威厳を保っているんですよ?お父様やお母様の前でもここまではっちゃけることはありません!」
エイルは顔を膨らませて怒っている。いや、可愛いんだけどね?!
「こんな様子になってしまうのは、賢人様だけなんですよ?」
む、むう。ここまで正直に好意を表されると、なんだかこっちの方が気恥ずかしくなってくるな。
だけど、それにしても、なんで俺のことをここまで好いてくれているのだろうか?
「エイル、変なこと聞くかもしれないけど、どうして俺のことをそこまで好いてくれてるの?......えっと、俺たち今日が会うの初めてだよね?俺の名前まで知ってたし……」
すると、先ほどまできゃあきゃあ言っていたエイルが真剣な顔になる。
「ええ、そうですね。賢人さまにとって、私は初対面ですし、実際に会うのは今日が初めてで間違いないです。」
エイルは一呼吸おくと話を続ける。
「このことを説明するにはまず、私の生まれ持った能力や過去についてお話ししなければなりませんね」
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「そうなんだね………」
エイルの話はこうだ
エイルはこのヴァルハラ帝国で、4番目に生まれた。2番目の子供が既に男ということもあり、本来なら王族とは言ってもそこまで重要視されることはないはずの生まれ。
しかし、状況は違っていた。
この世界には鑑識眼というスキルを持つものがごく少数存在する。王族は生まれた時にステータスを鑑定しに見せるのが慣習となっているそうだ。そこで発見されたスキル、それが「天詠眼」というもの。
このスキルはこの先に起こりうる、一番可能性の高い未来を読む眼、つまり予知の力を持つ力を持っていた。
予知の力の重要性は王族にとって、国にとって、喉から手が出るほど欲しいスキルである。予知の力があれば、もし魔王が率いるニヴル帝国軍が攻めてきたとしても、その進行ルートに罠を仕掛けることができるし、国に何か良くないことが起こるとわかればそれに対して対応策を練ることができる。
そのため、エイルは生まれてから今まで、ずっと王城の中での暮らしを強いられてきたという。それはそうだ、事故にあってしまったりしたら国の一大事だ。
「あ、かといって、軟禁されていたというわけではないですよ?お父様もお母様も優しいですから。お友達もリサなど歳の若い女の子を見繕ってくださいましたから。
それに、この目のおかげで外の世界を見ることもできておりましたので、外に出られないと言っても、飽きることはありませんでした。」
エイルはニコリと笑っているが俺は少し寂しい気持ちになった。
「それで、エイルは、俺のことは何で知ってたの?」
「それは、ですね……」
なにやらまた顔が赤くなっている。どういうことだ?
「私は、賢人様が異世界からこの世界にやってくることを予知していました。そして……賢人様、あなたは将来、魔王を倒し、この国を救う英雄になるのです!!」
エイルは目をキラキラと輝かせながらこちらを見てくる。英雄??
「え、英雄って……?俺が?いやいや、何言ってるのさ!エイルが何を見たのかは分からないけど、俺はちょっと前まで、ただの高校生だったんだよ!?そんな、英雄なんて……」
「見ていましたからっ!!」
「……え?」
俺が思わず聞き返すと、エイルはニコリと笑い話し続ける。
「ええ、見ていました。賢人様のことは。私が予知としてこの世界での賢人様を見たのは幼き頃の一度だけでしたが、今までの賢人様も幼い頃から見ていました。あなたは、英雄たる資格を持つ人間だと思います。」
そんなことない。俺はーー
「まあ、それより!!」
俺が暗い表情をしているのを読んだのか、エイルは明るい表情で話しを変えてくれる。
「住む所にお困りでしょう?しばらくはここのお城に住んで頂けませんか?なんなら、その、私と同じ部屋でも……」
エイルはもじもじとしながら顔を赤らめている。
いやいやいや!!いくらなんでも話が飛びすぎだろ!??
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「エイル様、流石に私は承服できません!!」
リサが眉間にしわを寄せながら俺を睨みつけてくる。うーん。まあ、普通知らない奴がいきなり王女様のお城に住むだなんて言われたらそうなるよな。
流石にエイルの部屋で、というのは遠慮させてもらったが、住むところがなくて困っていたのも事実。俺は城に住むところを確保してくれるというエイルの提案をありがたく受けさせてもらった。しかしーー
「ほら、だから言っただろ?文句が出るって」
「ですがっ!賢人様が困っているのでしたら私は……」
「エイル様!?」
リサは今度は目を見開き体操驚いた顔をしている。この子よく表情がころころ変わる子だな。気難しそうな印象だったけど以外とそうでもないのかな?
「き、貴様!!エイルさまに何をした!??」
ん?あ、この流れやばい気がする。なんか勘違いされてる?
「な、何もしてないよ、リサ、俺はーー」
「なっ、りっ……
私の名前をいきなり呼び捨てとか……いいだろう、貴様剣を取れ!!私と勝負しろっ!!!」