俺、戦います
2話
「なあ、いい加減機嫌直せよー」
もう、異世界に来てから2〜30分は経っただろうか。
見渡す限りの青空、美しい草原の中、俺を撫でる風は爽やかでとても気持ちがいい。俺は新たな世界に少しの不安を抱えながら、大きな期待に胸を膨らませていた。
いたのだが……
「……」
羽衣はさっきからずっとこの調子だ。こっちに来てから、俺が話しかけてもずっと無視。まぁ、大分無理やり連れてきちゃったからなー。怒ってるよなー。
すると、羽衣はついに諦めてくれたのかようやく口を開いてくれた。
「はぁ〜。まあ、ずっとふてくされてても仕方がないからのう。しょうがないかの......はぁ〜」
どうやら、立ち直るにはまだまだかかりそうだが、口を聞いてもらえるようになったのはありがたい。今、俺にははわからないことが多すぎるからな。
「それで、羽衣様?俺にそろそろ、この世界がどんな世界なのか教えてもらえる?」
すると、羽衣は眉をひそめてこちらを睨んでくる。
「む。なんでじゃかわからんが、お主に様付けで呼ばれると慇懃無礼な感じがしてならんのう。もう羽衣でよいわ。これからは妾を羽衣ということを許すぞ。......それで、この世界についての説明じゃったかーー」
羽衣の説明によると、この世界は東のアースガル大陸と西のヨトゥン大陸という二つの大陸に別れていているらしい。
何でも、魔王率いるにニヴル帝国と聖王率いるヴァルハラ帝国とが争う世界ということで、なんとも俺好み、漫画とかゲームとかでよくあるファンタジー世界という訳だ。
「今妾達がいるのはヴァルハラ帝国じゃな、魔物も少なく、比較的安全でここら一帯も、始まりの町、だとか、始まりの森、だとかいう名前がついて追っての。旅立ちにはぴったりな場所じゃの。......よし、次はステータスについてか。『ステータス開示』と心の中で念じてみるのじゃ。」
ん?ステータスって何だ? まぁ、とりあえずやってみるか。
ステータス開示……っと。
「うわっ!!」
ステータス開示と心の中で唱えると、ゲームで言うステータス画面のようなものが目の前に現れる。
いきなり出てくるもんだから驚いた。
「うむ。それが現在のお前の状況じゃ、ステータス画面はお主が見せようと思えば他人に見せることができるが基本は他人には見えないものじゃ、覚えておれ」
なるほど、なんかちょっとゲームみたいで面白いな。よし、俺のステータスは、なになに……
皇賢人 17歳 男 異世界人
レベル :1
HP :25/25
MP :14/14
力 :15
耐性 :16
魔力 :13
幸運 :∞
装備 :鉄の剣
:皮の服
スキル :古流武術 S
「ん?羽衣、この、幸運ていうのは?」
俺が羽衣にステータス画面を見せると羽衣も首を傾げている。
「ん?人間にしては珍しいのう。幸運が限界を超えておるのじゃな。ステータスはおそらくお主の元々の能力や、お主が望んだことを元に、うまく振り分けられるようになっているのじゃが……」
ああ、そういうことか。それなら……
「あ、それは……もう、いいよ。わかった、ありがとう......ん?ところで、レベルって欄があるってことはゲームみたいに、モンスターとか、そういうを倒していけば強くなれるってことですよね?」
「そうじゃぞ。モンスターでも人間でも、生きているものなら全部、戦うなり倒すなりすれば経験値が入ることになっておる。今のお主のレベルじゃと、この草原に住むモンスターなら......そうじゃ、スライムあたりなら手こずることはないじゃろう。スライムは確かあっちの方にーー」
「いや、それならスライムとは戦わないよ。」
「......ほお?それは、どういうわけじゃ?お主は何を......」
羽衣は不思議そうな顔をしている。
そりゃそうか、俺が楽に倒せるモンスターを教えてくれたんだもんな。
ただ、俺にはどうしても譲る事が出来ない、ポリシーとでもいうべき事が一つある。
俺は弱いものいじめというやつが非常に嫌いだ。自分より明らかに弱いものに対して、いたぶるような事真似だけはたとえ死ぬ事になったとしても、絶対にしたくない。
「俺が今倒せるモンスターの中で一番強い奴を教えてくれるかな?いや、実力が同じくらいでもいい。俺は自分の中でのルールで、弱いものいじめは絶対に許さない。そう決めてるんだ。できる事なら、俺は倒せるかギリギリくらいの、強い奴と戦いたい」
俺がそう言うと、羽衣はニヤリとした顔をした後、こちらに微笑みかけてくる。
「なるほどの。お父様がついていけなどというからどんな男かと思ったが、確かに普通の人間とは少し違うようじゃの。面白い。良いじゃろう!!お主が勝てる見込みのある相手の中で一番強い相手のところに案内してやろう!!」
ーーーーーーーーーー
「ぐっ、くっ、はぁぁぁっ!!!」
俺は鉄の剣を振り続ける。
相手より早く、相手より重く。
自分の剣と相手の斧がぶつかるたびに火花が散る。
しかし、確かに力は強いが「人型」というのが俺には相性が良かった。
「はぁぁぁぁぁっ!!!」
グオアァァァァァァ!!!
筋骨隆々の肉体に、牛の頭といったいびつな容姿に、血で赤く染まった狼を振り回す怪物、ミノタウロスは雄叫びをあげて崩れ落ちた。
「ふぅ〜」
俺は羽衣にもらった布で顔についた返り血を拭った。ん〜思ったよりたいしたことなかったぞ??
「い、いや、驚いたぞ、お主何か武道を嗜んでおったのか?いくら転生者はステータスに恵まれているとはいえ、ミノタウロスは中々熟練の戦士でも手を焼くもの。今の動きは異常じゃったぞ?......ああ、そうか、これが父上の言っておったチーとスキルというやつか!!そうなのじゃな!?」
「あー、いや、これは、昔通ってた道場でうちの師範に、『二メートルを超える大男と戦ったとき』っていう想定で鍛えられてた事があって......まあ、話すと長くなるんだけど......」
俺には親がいない。物心ついた時から孤児院で育った俺は、小さいころかなりの悪ガキだった。もともと喧嘩が強かったのもあり、気に入らない奴がいれば暴力で従わせるような、典型的なガキ大将。
しかし、そんなことをしているうちに俺は大変な相手に手を出してしまった。ある日俺が怪我をさせた男の子の姉という女の人が現れた。俺は女なんてと舐めてかかりあろうことか文句を言いに来た女に手を上げてしまう。
その時の俺は、女なんかに喧嘩で負ける気はしなかった。
......しかし、そんな俺を待っていたのは、完全な敗北。
その女、と言ってもその人は当時は中学せくらいだったのだが、その人は近所の古流武術の道場で、トップの実力の持ち主だった。
俺は負けた悔しさ、そしてその女をどうにか倒そうと古流武術・九頭流の道場の門を潜ったのだった。