俺、間違えられちゃいました
俺、皇 賢人は、今までの18年という短い人生の中で一番焦っていた。
いや、もし彼女の言うことが本当なのだとしたら、これからの人生で、もうこれ以上驚くことはないのかも知れないんだけど......
「あ、あの、もう一回言ってもらえますか?」
俺がそういうと、目の前の自称閻魔様はやれやれと言った様子で、少し面倒臭さそうな顔をしている。
少しバツの悪そうな感じも見え隠れはしているが、やはりやれやれと言った様子で、俺の心に2度目の衝撃を与えた。
「じゃから、言っておろう。お主、もう死んでおるぞ」
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「し、死んでるだって!!???」
目の前の、自称閻魔様は、体格に似合わない大きな椅子に座りながら「はぁ」とため息をついている。
「いやいやいや!!『はぁ』じゃないですから!!どう言う事ですか!!昨日の夜は俺、普通に寝てたはずですよ!?」
そうだ、俺は昨日、夕飯を食べ、風呂に入り、部屋に戻るとそのまま寝た。
それだけだ。特に命に関わるようなことなど......死ぬ要素など、どこにもないはずだ。
「あー、まー、うーん。あれじゃ。お主の隣の家に、田中幸三とかいう老人がおったじゃろ??あやつとー、あれじゃ。間違えたらしい」
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!??
「ま、間違えたって、そんな事あり得ないでしょ!!?どんな管理体制してるんですか!?」
すると、目の前の自称閻魔様は逆に俺に対して怒り始めた。
「妾じゃって知らんのじゃ!!!ここ4〜500年はそんなこと無いと聞いておるし!!そもそも儂の部署じゃないのじゃ!!一度奪った命は返すことは出来ん!グダグダ言わずに諦めよ!!」
え、えぇー。なにそれー。
なんでそんなところが役人っぽいのさ......
......でも、よくよく考えるといきなりこんな変なところに飛ばされるなんて、夢でもない限りありえない。
ここ、夢の割にはリアリティーあるしな......
「ま、まあ部下の責任とはいえ、妾も悪いとは思っているのじゃ.....それでの?妾たちで話し合ったのじゃが、お詫びということでお主の好きな感じの異世界に転生させてやろうという事に決まっての。それに、今回はこちらの落ち度でこうなってしまったわけじゃし、1つだけ願いを叶えてやるという事になったのじゃ」
地獄って結構、適当なんだな。
「そ、そんなこというなら、生き返らせてくださいよ、そっちの方が簡単なんじゃないですか!?」
俺の言い分はもっともだろう。
俺がそういうと、閻魔様はいやいや、と首を横に振っている。
「いや、それが、一度失った命はその世界ではもう戻らないんじゃよ......そういうルールなのじゃ」
「そ、そんな......」
......だがまあ、起きてしまったことはしょうがない。
普通の人なら、いきなり親や兄弟、親しい人と離れるなんてふざけるな、などと考えるんだろう。
しかし俺には、親も居ないし、そもそも、俺は元いた世界に未練はない。
何度、この世界からいなくなることができたら。そう考えたものか。
あんな世界にいるくらいなら......好きな世界に行けるならこれはむしろ逆に喜ばしいことかもしれないな。
「うーん、分かりました。実際、俺は元いた世界にそこまで未練もないですし......逆に嬉しいことかもしれません。」
「な、なんじゃと!?お、おかしいの、もう少しいろいろ文句を言われると思ったが......まあ、それならそれで良いわ、それではお主、さっさと願いを申してみるのじゃ!!」
「願いですか......えっと、本当に、何でもいいんですか?」
俺がそう質問と、閻魔様はふんっ!とドヤ顔をして、無い胸を叩いている。
「おおよそ人間の想像力などたかが知れておるわ! 金でも力でも女でも、何でも申すが良い! 妾が転生後の世界で叶えてやろうではないか!さあさあ、言ってみるが良いのじゃ〜!!」
むう、なんか、ムカつくな。
けど、それにしても......
この閻魔様、実は結構可愛い。
胸はあまり大きく無いが、スレンダーでとにかくスタイルがいい。
背は小さめなのだが、足は長く腰はくびれている。
バランスが良いのだろう、服なら何をきても似合いそうだと思うほどに、スタイルが整っている。
顔も童顔ではあるがかなりの美形で、長く滑らかな黒髪は触ったらさらさらなんだろうなーと思ってしまうほどに、とても綺麗だ。
何よりひときわ目を引くのが大きな赤い目で、まるで宝石の様に輝いている。
肌は雪の様に白く陶器の様に滑真っ白である。
服装も個性的で可愛い。丈は短く、ミニスカートのようになっている黒い和服のような服を着て居て、結構へんてこなのだが、個性的で良く似合っている。
実際、結構タイプなのだ。
願いか......よし。それならーー
「あ、それじゃあ、閻魔様。あなたを異世界に連れてってもいいですか?」
こんなに可愛い子と一緒に旅とか、一回してみたいしね。
ーーーーーーーーーー
「な、なんじゃと!!???」
先ほどまで退屈そうにして居た閻魔様が今度は大そう驚いた!という顔をしている。
「な、なにを言っておるのかお主は!!そ、そんなこと出来るわけないじゃろーが!!!」
さっきまでの余裕そうな表情から一転、驚きで椅子から落ちてしまっている。
なんか、ちょっとこの子面白い。
「え、なんでですか?なんでも1つ、願いを叶えてくれるんじゃ......?」
「たわけ!!それとこれとは話が別じゃ!わしは閻魔じゃぞ!?そんなこと許せる訳がーー」
「クククッ........ハハハハハハッ!!!」
その時、閻魔様の言葉を遮るような豪快な笑い声と共に、今度は椅子の横の扉から、長いヒゲを蓄えた壮年の男性が出てきた。
「お、お父様!??なんで......何でここにおるのじゃ!???」
お父様??そうか、閻魔様にはお父様がいるのかっ!!
.........え、どゆこと??
「面白いことを言うではないか、人間。お主、名はなんと言う!」
「ああ、俺は皇賢人、です。あ、あなたは??」
すると壮年の男はニヤニヤとしながらこちらを見ている。
「ああ、そうか、言っておらんかったな。儂が閻魔大王じゃ。そこの羽衣は儂の娘での、儂が本物の閻魔大王じゃて」
俺は羽衣と呼ばれた少女を見る。
よく見ると、額に大量の汗をかいていた。
おい、あんたさっき自分の事、閻魔大王て言ってただろ。
「いやぁー、面白いことを言う男だと思ってのお。気に入ったぞ、皇賢人!!ふふふ、よいよい、儂が許す。皇賢人、我が娘、羽衣を貰っていけ!」
「なっ、お父様!?? なにを言っておるのじゃ!!妾はそんなのーー」
「ありがとうございますお父さん!大切にします!!」
「な、なぁぁぁぁ〜!??お主、何を〜〜っ!??」
閻魔様......いや、羽衣か。羽衣は顔を真っ赤にしながらわたわたしている。まあ、お父さんからも許可もらえたし、連れてっちゃっても、いいよね!
「ほれ、これが異世界転移の門じゃ、通るがよい。向こうに行ってからの説明は羽衣に聞けば分かるからの」
閻魔大王様がパチンと指を鳴らすと門が現れる。よし、なんかぐるぐるしてるここを通ればいいのか。
「はい、分かりました!お父さん、それじゃあ、行ってきます!!」
「ちょっ、おい、貴様、お父さんて何じゃ!?しかも貴様、なに妾の腕を掴んでおる!離せ!!離すのじゃぁ〜!!」