8.血縁関係その1
「がぁッ!?」
軽い意識の暗転の後、亮は奇声を上げて起き上がった。
「あ、お兄さん……じゃなかった。お兄ちゃん、いらっしゃーい!」
どこからか間延びした声が聞こえ、後ろを振り返ると、予想通りローズルがいた。そして周りを見ると、以前現世に戻った場所である、居間にいることが確認できる。
ローズルは以前と違い、真紅の髪をツインテールでまとめてある。
色々とローズルや寺坂……いや、こちらの世界ではフーリでいいのか…。ともあれ、その二人に聞きたい事や物申したい事は山ほどあるのだけれど、まずは今、多少引っかかったフレーズがあったので問うてみる。
「お兄さんとお兄ちゃんって、なにか違うのか?」
いや、考え直すとやはりどうでもよかったと後悔する。
「うん!違うよ、全然!」
「お兄さんだと他人行儀っぽいからか?」
それだとしてもお兄ちゃんはさすがにない気がするが……。
「違うよ!お兄ちゃんは本当のお兄ちゃんなの。ってこの本に書いてあったから」
「これは……」
ローズルが小さく細い腕で手渡してきたのは、以前フーリが消える前に、ぶん投げていた例の赤い本。あの時は勝手に他人の書物を読み漁ってはいけないと、あえて触れなかったのだが…。
読みやがったのかコイツは……。
「?」
亮がローズルを見るも、特に悪びれた様子もなく、きょとんとした顔をしている。
それどころかなんで早く読まないの?といった視線まで送ってくる。仕方ない。フーリになぜ勝手に読んだのかと聞かれたら、コイツのせいにしよう。
それでも許してくれる気はしないが……。
「怒られても知らねぇぞ……」
半ば、自分に言い聞かせるようにして、ページをめくる。
そしてまず最初に気づいた事は、この本は文がまとめてある物というより、資料に近い類だという事と、文字が明らか日本語ではないのに、何故か読めるという事。もう既にこの言語を知っていたかのような不思議な気分だ。
肝心の内容は、題名の【神様の家系図】の通り、大まかな北欧神話の血の繋がりが記されていた。
「ん〜と。あ、あった。」
その家系図の中心部に[オーディン]と大きく書かれているのを見つける。
「たしかにオーディンとローズルは兄妹の血縁関係にあるみたいだな……」
「でしょー!だからお兄さんじゃなくて、お兄ちゃんなのです!」
ふんす!と無い胸を張るローズル。
ここで一つ、に気なることができた。それは、自分は誰と結ばれるのであろう?という事。
オーディンは有名だが、その妻などは聞いたこともない。自分と結ばれる人は誰?、という誰しもが気になる事であろう問の答えが、この本に書いてあるのだ。
亮は期待と少しの不安を抱え、目線を再度、本に下ろす。
「んん?フリッグ?聞いたこともない神様だな」
「あぁ!それはね!───」
ローズルが何かを言おうとしたその時、二人の真横に突然フーリが現れた。
「うわっ!」
急な出現に亮が仰け反っている間、フーリは自分の書物が亮の手中にあることを確認する。
「……。それ、勝手に読んでいいって言ったっけ?」
まずい。殺られる。亮はすぐさま本を机に置き両手を上げる。
「いや、それはだな、ローズルのやつが無理に──」
「私止めたのにー。お兄ちゃんが絶対読むって聞かなくて……」
「てめぇこのチビ!」
見事なまでの裏切りである。
「………」
そしてフーリからは、殺気のようなものが目に見えて出てきている。しかし、しばらく亮を睨んでいたフーリは身を翻し、亮に危害を加えずに歩いていった。
「……助かった…のか?」
生きている喜びを数秒間、感じていると、スタスタと再びフーリが手に何かを持って戻ってきた。
よく見ると、ごつい手枷のような腕輪らしかった。何かしらの拷問器具だろうか……。
「あの、それは?」
「いいから着けなさい」
冷や汗をかきながらも、今は命令に従わざるを得ないと、しぶしぶ重い腕輪を装着する。
「これで一体なにが───ぶべらァッ!?」
質問をする前に強烈なアッパーカットが亮の顎に直撃した。