6.夢または災厄の告げ
「それじゃあ、改めて自己紹介でもしましょうか」
ここで、強制的に連れてこられ、強制的に入部させられ、強制的に椅子に座らせられた亮から質問が一つ。
「あの、もうすぐ一限始まるんだが……」
「いいのよ、そんなもの」
授業サボりのヤンキーだとかいう話は本当なのだろうか……。
「私は寺坂千秋。知ってると思うけど、前世では神様をやっているわ。そこでの名前はフリッ……フーリよ。ちなみに授業は出てないけど、学年トップの成績だから」
この自己紹介は素性を知らない人が聞けば、頭が可哀想な人だと思われるであろう。いや、充分後半はおかしいな。
ここで、強制的に(略)亮は聞きたいことが一つ。
「そういえば寺坂。お前なんであの時、急に現世に戻っちまったんだ?なんかよく分からねぇ分厚い本をぶん投げたりしてたし」
なんとなく思い立った質問。
「ふぇっ!?」
そんな不意をついた質問でもあるまいに、彼女は顔を赤面させ、驚いた表情をこちらに向ける。
「いっ、今はそんなことどうでもいいのよ!」
と声を荒らげ、バンッ!と机を叩きつける。
その目はもう聞くなと言い、纏うオーラは憤怒を物語っている。そして南無三、叩かれた机は綺麗に真っ二つとなっている。
「わ、わかった。このことはもう聞かないから…。それじゃもう一つ。……なんでそんなに力が強いんだ?明らかに常人の力量を超えているぞ。今確認できる範囲だと、目立った筋肉などは無いように見えるが?」
言ってから後悔した。彼女は今、物凄く怒っているであろうに、馬鹿力だのと……。
まるで挑発にしか聞こえないだろう。
しかし、返ってきたのは意外と冷静な返答だった。
「はぁ……。よく聞きなさいよ。私の能力は、【裂く金曜】。まぁこのクリーブって言うのは、簡単に言うと怪力よ。神様の力は現実でも行使できるの。ざっと握力は600ってところかしら。あなたを殴った時だって、かなり手加減してたのよ?」
………待て、能力?神様の力?そんな空想めいた事を、現実で言うやつを見るのは初めてだ。
「今、私をバカにしたでしょ?」
「いや、してないぞ……。そ、それより俺にもその能力とやらは使えたりするのか?」
ごめんなさい。軽くバカにしてました。
あまり興味は無いが話題転換の為、一応聞いてみる。
「話を移すのが下手ね……。通常は自分が前世に行った時点で能力が身に付くのだけれど…。それに関してはわたしはあんまり詳しくないわ」
う〜む……。試しにこの部屋備え付けのテーブルを本気で殴ってみる。
ゴンッ!
すると生憎このテーブルは頑丈で、手の甲からは血が滲み出てきた。
「痛ってぇ…」
どうやら寺坂のような怪力ではないらしい。
「ちょっとバカ!なにやってるのよ!もう、そこで待ってなさいよ」
そう言って走り出てった彼女を待つこと数分。
救急箱を抱えて持ってきた寺坂は、急いで手当てをしてくれる。
そんな大袈裟にするほど、酷い怪我ではないのだが。
「細菌なんかが入ると危ないんだから。手なんか壊死して動かなくなる事もあるのよ!」
なんて親が子にしつけるように言うものだから、怖い奴なのか、優しい奴なのか、分からなくなる。
「ど、どう結べばいいのかしら……。こ、こう?」
ギューッ
「いっでぇぇ!?」
「ありゃ?ごめんね、慣れてなくて。でも男ならこれくらい我慢しなさいよ」
彼女の認識を、優しいから怖いに急遽再変更することになった。
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さすがに二限もサボるわけにもいかないので、担任には手の怪我で保健室に行っていた。という、適当な言い訳をし、その後の授業には通常通り参加する。
そして昼食時。
「亮〜。ご飯食べよ〜!」
ゆる〜い声でやってきた彼女は、俺の机の向かいに、自分の机を接着させる。
「ほかの女子と食べればいいだろう。そんなんだからいつまでたっても友達ができないんだ」
「もうっ!亮にだけは言われたくないよ!それにまたお母さんみたいなこと言うし…」
俺の目の前にいるこの女生徒は、飴 美星。これまた少ない俺の友人であり、幼稚園からの幼馴染みでもある。
「それにあれだ。男女二人でこうして飯食ってると、その…、男女交際してるだのとなんだのと。噂されるのが面倒なんだ」
それもそのはず。周りには男は男同士。女は女同士で昼食を摂っているのに、亮達だけは男女二人で食べているのだ。そういう目で見られてもおかしくないだろう。
実際は友達がいないのが二人して食べているだけなのだが……。
「へ、へぇ。亮はそういうの意識してくれてたんだ…。へぇ……」
「?」
突然の上、不自然に顔を赤らめもじもじしだす美星。フーリ…。いや、寺坂と同じで、感情の機微が激しい奴だな。と、思う。
「そ、そういえば、最近なんか変な怖い夢を見るんだよね」
「夢?」
慌て口調で愉快そうに語り出したかに思えた彼女の目は、不安に怯えているようにも見えた。