4.鮮烈な女生徒
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朦朧とする意識、落ち着かない思考、そして股間からくる激痛の中、辛うじて目を開けた亮は、生い茂る芝生の上にいる事を把握する。耳に入るのは微かに聞こえる鳥の囀り。
「……ここは?…」
辺りをを見回して見たところ、ここには見覚えがある。この場所は何度か来たことがあり、よく遊んでいた事もある。
思い出そうとすれば簡単に思い出すことができ、その場所は自分の家の近くの森林公園だという事をすぐに認識する。
つまりは……。
「帰って…これたのか?」
そして慌てて自分の体を確認するが、トラックなどに轢かれた際に必ず残るであろう血痕はは見受けられない。骨等にも異常は無いようだ。
その他、体の痛みも感じられない。…股間以外は……
この痛みからするにら先程までの出来事は夢ではないことを思い知らされる。
ずっとここで考え事をしているわけにもいかないので、帰路は知っていることだし、ひとまず家に帰ることにする。
いつもと変わらぬ風景の街をぐるぐる回る思考の中歩いて、家に着く。
部屋に入るなり日時を確認。すると日付は今朝と同じ、つまり今日であっている。
時刻はちょうど轢かれた時刻に、前世にいた時間を足したくらいだった。
これは、前世にいた時でも現世はリアルタイムで動いていることになりうる。
そしてローズルの言っていた事が事実だとすると、俺が前世にいた時間帯は、この現世で俺の存在が無かった時間帯だという事。そして、明日の0時まで自分は誰にも知られてない存在という事。
・・・・・ダメだ。
考えれば考えるほど、こんがらがっていく。
横になり、今日の目まぐるしい出来事を振り返っているうちに、意識は闇に落ちていった。
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気がつくと朝になっており、疲れによる倦怠感を抱えたまま、学校に行く準備をする。
季節はまだ4月。血飛沫が舞うには、あまり似つかわしくない美しい桜が舞う中で昨日の交差点に差し掛かる。
その忌まわしき交差点は昨日のことなど知りもしない様子で平常運転なことに、普通は疑問符を浮かべるものだろうが、なんだろう。もう何が起きても驚かないような気がしてきた。
「おはようっす亮!なんで昨日来れなかったんだ?珍しいな、お前が学校休むなんて」
校門に入るなり、あまり人との交流を図らない自分にとっては数少ない友人と呼べるであろう男、
荒木凪人に声をかけられた。
まぁ、これを聞く限りは今の自分は存在しているらしい。当たり前なのだが……。
「ちょっとした体調不良だ、気にしないでくれ」
「その体調不良が珍しいって言ってんだよ。これでも結構心配してんだぜ?」
こいつは普段はバカをやっているが、友を思いやる非常にいい一面を持っている。悪い奴ではないと、昔からの腐れ縁で知っている。
「いや大丈夫だ。わざわざ心配かけてすまな──」
「おっ!あの子可愛くないか!?よし、ちょっくらナンパしてくるから亮は先行っててくれ!」
やはりバカはバカだった……。
教室も、昨日俺に起きた事など知るよしもなく賑やかである。
だからこそ昨日の事が何なのかが分からなくなってくる。
ローズルは気絶、または失神状態になることで前世に来れると言っていた。
だから近いうちにもう一度行ってみようと思う。そう思い立った理由は、ただ未知の物事に興味を持った。それだけだ。
ついでにローズルには説教をしないといけないことを思い出す。恨みはらさでおくべきか……。
俺を現世に戻すとはいえ、もう少し他の方法があったはずだ。
危うく子孫終了のお知らせが発表されるところであった。
それはともかく、どうやって前世に行こうか…。簡単に気絶と言っても、実際難しいものだ。これ以上面倒事は勘弁したいところ。
「う〜む……」
朝礼が始まるまで席に座り、最近よくする考え事をしていると、不意に鼻腔に甘い花のような匂いが届いた。
「ちょっと、話があるんだけど。少し時間を頂けない
かしら」
その口調は、とてもお願い事をする相手に向けるものではなく、ほぼ命令と言ってもおかしくないような口調をしていた。
たが、声質自体は透き通っていて、なんというか、不思議な感じだとしか言えない。
人物の特定をするため重い首を上げると、そこには昨日の交差点の女性が立っていた。
そう。哀れ自分が見惚れ、車に轢かれる原因となった人物。
その人が今、自分を見下ろし立っている。
「………」
驚いて声が出ないのか、声を出せる気力が残ってないのか、自分含め、しん…と静まり返った教室の中、クラス全員の視線は自分達二人に向けられていた。
これ以上面倒事は御免だと、考えていたばかりなのに……