1.規定外の現実
今日はどうして過ごそうか。憂鬱な気分で通学路を歩いていたその時、すぐ横に見慣れない女生徒が通りかかった。
素直に綺麗な人だな……と思った。その女生徒は長いストレートの黒髪に、飲まれそうな程漆黒の瞳が特徴的で顔も整っている。しばらく何も考えられずにその人の歩く姿に見とれていた。
見とれてしまっていた。
そこが、車通りの激しい大通りだと気付かないくらいに。大型トラックのクラクションにも気づかぬくらいに。
「あっ………」
俺は今日この時、日常からの路線を大きく外れ、
死んだのだ。
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目を覚ました。……目を覚ましたということは生きている? 分からない。何故あの大型トラックに轢かれて無傷でいるのか、この場所は一体何処なのか、それすらも分からない。
すぐに身体を起こし、周囲を視認してみる。
自分が寝てたのはベットの上だった。決して柔らかくはない安物っぽいベットの上。
「なんだ?ここは」
どうみても自分が知る病院といった造りではない。
木造の狭い部屋に、天井には消えかけのランプ。隅には小さめのタンス。そして自分が居座っているのは今にも壊れそうなベットだが、割といい匂いがする。
押し寄せてくる閉塞感と未知への恐怖。
ここにきて、これまで全く信用していなかった死後の世界という単語が頭に浮かんだ。まさか、そんなものが存在するわけ……。
自分の思考を否定するように葛藤してると、ふいにドタバタというけたたましい階段を上るような足音が聞こえてきた。
もしかすると死者を冥界へ送らんとする死神とやらではないだろうか?
考えの整理が追いつかず、心拍数が高鳴る。足音はついに部屋につけられたドアの前まで来、キィーという音とともに、そのドアが開けられる。
その者の顔などは気にもしなかった、なんせ最初に目に入ってきたのはどでかい鎌だったからだ。
間違いない!奴は死神だ!やはり俺はあの事故で……。
「お兄さん、なんでそんな怖い顔してるの〜?」
「んえっ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。しかしそれは仕方の無いこと。
普通、死神と言われて思い浮かべるイメージはとても人間の面をしていないようなものばかりだ。
だが、気を落ち着かせ改めて見ると、今目の前にいるのは歳は10才前後といったところか、愛らしい顔つきをしており、髪は燃え上がっているような真紅、おまけにソプラノボイスである。
そんな俺の思考を遮るように、
「お兄さん新しい人だよね!よろしくっー!」
と 彼女は続けるのだった。