9.血縁関係その2
華麗にきまったアッパーは亮の体を垂直に吹き飛ばし、亮の上半身は木製の天井に突き刺さる形になった。
「い、いでぇ!?」
言葉を発してすぐに違和感に感づく。確かに先ほどのアッパーは、馬鹿みたいに激痛だった。ローズルに急所を蹴られた時かそれ以上に……。
ならばなぜ、この痛みで現世に戻ってないのだろうか。そこに疑問を抱いていると、すぐにとんでもない力で足を引っ張られ、視界はコンパスの円を書くように揺れる。次に来た衝撃は、大の字で床に張り倒された全身からだった。
これが漫画であれば、ビターンなどという効果音が鳴っていたのだろうが、亮の耳に入った音が、バキッであるところがなかなか笑えない
鼻が折れてないことを確認しつつ、起き上がって、未だご立腹の様子らしいフーリと対面する。
「しょ、書物を勝手に読んだことは謝る。すまなかった。でもお前にも一つ、言いたいことがある」
やられっぱなしではたまらないと亮は反撃に出る。
「なによ」
至って平然なフーリと、
「ローズル。お前もだ」
「え?なに〜?」
ポカーンとした顔のローズル。
「お前ら二人はやり方が強引すぎだ!一人は急に股間を蹴ってくるわ、一人は前世で話をする為とはいえ急に殺してくるわ!」
説教を垂れるつもりは無いが、これだけは言っておかねばなるまい。
「だって男の人の弱点を蹴ったら、現世に戻れるか試したかったんだもん」
「あの時は変な巨乳が入ってきてムカついてたのよ」
お二人共、素晴らしいまでの自己中心的思考であ
る。
「あのな…。人の事を考えようか?せめて事前に説明をするとかさぁ」
「はぁい」
「わかったわかった」
どうも分かってくださらないらしい。これ以上は無駄と判断し、諦める事にする。
「それとこの重い腕輪。なんで俺に付けたんだ?」
「私も付けてるよ〜!」
ローズルはスカートを軽く捲し上げると、太ももあたりに亮と同じく、重そうな腕輪(?)を見せた。
「簡単に言うわね。それを付けてるとどれだけ荒ぶっても現世に戻ることは無いわ」
ふむ。大体見当はついていた。
「つまりどれだけあなたを殴っても、現世に逃げられないということね」
ふむ。その考えは無かった。
「それとどういうわけか、この腕輪。前世に来た人の人数分が勝手に出てくるのよねぇ。机の上に書いてある魔法陣から」
そいつはまたとんだファンタジー設定だな。
フーリは自分の腕輪も持ってきていたのか、ローズルと同じく足につける。恐らく二人共、腕だと大きすぎて合わないのだろう。
「あ、そうだ。ローズル、お前さっき何を言おうとしてたんだ?危うく忘れるところだったぞ」
「? 二人共、一体何の話をしていたの?」
フーリが訝しげに聞いてくる。
「え、え〜と……」
さっきは普通に喋ろうとしていたローズルが、何故か今になって口篭る。そこで亮は〝エサ〟を垂らしてみる作戦に出る。
「言ってくれれば、俺の体の大事な一部を蹴ったことは許そう」
「!ほんと!?」
馬鹿は簡単に引っかかった様だ。
「あぁ、もちろんだ」
「分かった!えっとね、フリッグっていうのは、なんと!ここにいるフーリお姉ちゃんの本名なのです!」
「え」
「ッ!?」
ローズルの口から出てきた言葉はなんとびっくり、フーリの書物に書いてあったフリッグなる人物は、ここにいるフーリの本名だということ。
つまりそれは同時に、そして必然的に、亮の妻が目の前のフーリになる訳で………。
亮は、鎮まりかけていたフーリの怒りが、再び強く燃え上がるのを感じた。




