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革命のレヴォルディオン  作者: 成葉弐なる
第二章

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33/35

第32革 日本という国

 総長の号令から1週間。

 のぶねぇと八枷、そしてAIちゃんの3人がかりによる講義でなんとか作戦内容の詳細を詰め込んだ俺は、レヴォルディオン実機の接続されたシミュレータ訓練に明け暮れていた。


 刀道先輩とやっていた訓練を、八枷がリーヴァーの状態で行う事にも慣れた。

 自分の指が乗ったトリガーを引く事で鳥山首相の命を奪う。

 ほんの数ヶ月前であれば絶対に為し得なかったそんな行為も、覚悟を決めてからというもの俺がそれをやるのだという自覚もはっきりとしてきたように思う。

 日本海での旧型潜水艦破壊任務の時の俺とは違う。


 俺は俺の意思で、借り物かも知れないが俺自身の力、このレヴォルディオンで現政権に戦いを挑む。


 それは俺が10歳を超えたくらいから希薄ながら意識していた望みだ。

 こんな国は腐ってる、こんな体制は許されるべきではない。いくら天災が重なったからとは言え、腐敗に腐敗を重ねている現在の日本の統治システムは余りにも酷い。

 そんな事は特区で教育を受ける子供達の全員が思っているのではないか。それくらいに今の日本は酷いのだ。


 汚職に次ぐ汚職、そしてそれが満足に追求されることのない社会。

 国土の多くを災害に飲まれ、そして未曾有の地球寒冷化への直面を経験して尚、多くの優秀な者たちを失ったこの国の新たな支配体制は、旧時代的な政治経済をやめようとはしなかった。


 それどころか、奴隷制度や貴族制度に似たような体制が再びこの国には跋扈しつつある。

 特区があるからこそ人身売買こそ表向きには起こっていないが、そんな非合法的な事が普通に起き得るほどに腐敗した秩序が支配しているのが、今のこの日本という国である。


 多くの先進各国が寒冷化に喘ぎながらも行ってきた改革も、日本ではその殆どが実行されず、唯一特区内でのみ、他国が2020~2040年代に行ってきた狭すぎるバックボーンを含めた通信インフラの積極的整備や、輸送インフラの大規模な拡張や自動運転の導入、スマート都市化、食料自給率の積極的向上策、働き手である若い世代の優遇策といった抜本的改革が実行されているような状態だ。


 こんな惨状を無理もない事だと言う日本人も少なくはない。

 超震災によって都市部へ集中していた多くの優秀な若者を失い。同時に多くのリーダーシップを発揮すべきだった人達もまた失ったのだ。

 主要都市が軒並み壊滅し、一気に20世紀の第二次大戦後の復興時代へと巻き戻されたような状態のところに、追い打ちをかけるかのように寒冷化への対応までのしかかってきたとあれば、日本が立ち行かない状態になるのも仕方がないのだ、と。


 けれど特区内で過ごす俺たち若い世代には、そんなのは言い訳にしか聞こえない。


 特区こそがこの国の最後の良心なのである。

 第二都市群は特区よりも10年以上早く制定されたにも関わらず、その都市整備は特区に比較して大きく遅れていると言わざるをえない。

 圧倒的に他より進んでいる特区と、特区に併設された地域、旧長野県諏訪郡富士見町付近にある第ニ東京、そして西側では第ニ京都くらいが、世界中の都市と比較して多少なりともまともと呼べるような日本の都市エリアである。


 俺のこの考えは特区内の30代以下の人達や、全国的に見て50歳以下の国民にとっても、まぁ間違いなく共通認識である。

 外国人がこの俺達の考えを知ると、特区内の講師が子供達に対する洗脳でも行ってきたかのように思うものが多いらしい。

 なにせ国中の子供の教育を一手に無償に引き受けているに等しいのだ。事実、20世紀後半に日本でも日教連を始めとした教職員組合の手で行われていたように、やろうと思えばいくらでも子供達への反自国的な洗脳教育は可能だろう。

 

 だが、特区と特区外の都市との落差を見るにつけ、そんな考えが浅はかなことであったとすぐに思い知らされるのだ。

 外国人をもってして、「日本は僅か四半世紀ほど前の栄華などまるで無かったかのようだ」とまで言わしめる。それが今の2051年におけるこの日本という国の現状である。


 なら選挙で変えれば良い。

 そう、普通は誰もがそう思う。

 しかし事は単純ではない。


 遠野総長たち有志が2030年代に特区を設立するにあたって、大きな代償を支払ってしまっているのだ。


 なぜそんな馬鹿な事をしたのかと問われれば、そうしなければ特区の設立が認められなかったのだと返す他ないのだ。そうしなければ、寒冷化の貧困に喘ぐ全国の子供達を、ひいては国民全てを救うことはできなかったのだと溢すよりほかないのだ。


 特区内の誰もが知っている、「普通」でこの国が変えられない理由。


 すなわち――特区居住者と認定された者からの国政参政権の剥奪。


 この悪法によって、特区は現在の立場を確立すると共に、それに関わる者たちの多くと、そして日本の子供達の多くが、この重い枷を背負い込んだ。

 国政参政権を奪われる事を承知した上でも、特区での恩恵を受ける事を選ばざるをえない状態に追い込まれた者たちが、当時の日本の若い家族世帯において大多数だったのだ。


 その皺寄せは主に子供達が受けた。教育費及び子供の成長に纏わる諸経費を全額特区が負担するという画期的優遇政策を特区が発表したからだ。

 子供の教育と生活にまつわるその全てを特区が一手に引き受けると宣言したのだ。

 寒冷化の影響により国内でも多くの低所得者層が飢えに苦しんでいたことも有り、低所得者を中心に全国からこぞって特区への子供の投棄が行われた。


 家族揃って特区への居住申請をすることも可能だったが、超震災という恐怖を経験した世代はそれには慎重だった。

 何故なら、旧長野県を超震災のような第二の超天災が襲うという言説がまことしやかに流れていたからだと囁かれる。


〝中央構造線上の県へ引っ越すなんて馬鹿のすること、超震災を忘れたのか〟


 これには特区設立に関わった有志に含まれていた専門家が、「地震ならば対策は可能であるし、当時は休火山と呼ばれていた活動性の低い火山の破局噴火の可能性をも考慮した上で、その熱源を効率的にエネルギーとして抽出することで対策が可能である」という説明を繰り返し行っていた。

 しかし、超震災を経験した世代にとってそんな専門家達の説明はまるでなしのつぶてだった。


 故に、特区は元から住んでいた高齢者中心の原住民と、特区構想に賛同した気概ある教職員と会社経営者――これは主に理科系の人たちだったらしい――、更に全国から集められた子供達という変則的な人口構成でその産声を上げた。

 その後、設立と同時に得た特別統治権限によって、日本という国の中にあるままに、別の国同然の運営が為され、そして特区は今の立ち位置を日本の中で確立したのだ。


 だが、特区設立時に背負い込んだ枷は、途轍もなく重いものだった。


 特区の運営が僅か数年で軌道に乗ったと見るや、腐敗した政治家たちはその甘い汁だけを啜ろうと、特区に対する法による抑えつけを始めたのである。

 もはや通常の手段でのこの国の改革は不可能――そう総長達が判断したのも無理もないことかもしれない。


 しかし、俺はそんな腐敗と悪法を打破できる力を得た。

 この複座式人型機動兵器、レヴォルディオンを。


 一連の襲撃シミュレーションを終えた俺は、八枷と共に機体を降りた。

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